第05話 先輩に優しいあの子と俺に優しくしてくれるあの子 -08 

「……はう」


柚菜ちゃんにボッチ心理の私と後輩君は、大いにしごかれ家に帰ってきて、私は疲れきりベットの上で寝転んでいる。

柚菜ちゃんが私がクラスの西城さんと友達になれるように作戦を立てて、後輩くんは屈託のない顔で「先輩ならきっとできる」と言ってくれたりしたけど……

正直、不安である。

去年の文化祭の日、弾き語り発表が終わり、ギターを旧音楽室に片付けに行くとそのまま眠りについた。

眠りについていると、玉置先生が起こしに来てくれて、私は慌てて戻ろうとしたが生徒達はもうすっかり居なくなり、もぬけの殻であった。


翌週の学校……

私はこれまでにないくらい、周りを気にして学校へ登校した。皆、私の事をどんな風に言ってくるのか見てくるのか…… 不安もあったが期待もあった。話が弾み、それがきっかけで友達ができたら嬉し、友達とまではいかなくてもその人の好印象や好かれる存在になっていればそれだけでも満足である。

期待で胸いっぱいという訳ではないが、恐る恐る自信のない大学受験の合格番号を見に行くような期待をして学校へ歩く。

そんな期待など少しの期待ですら、しない方が良かったと私は気づけば良かった。

登校し、学校の周辺にくると沢山の生徒達が私を見る視線を感じた。大体すれ違った5人3人は私を見ただろう。でも、その視線はあまり嬉しいものではなかった。

少しのにやけで皮肉まじりの微笑、口を少し開けながらのあざ笑うような眼差し、私を見た瞬間笑い出す何組もの男子の集まりや女子の集まり、男女問わずの2人や3人の仲良しな集まり……

私を見るその視線は、とても気持ちのよいものではなかった。私は気の進まないまま、上履きを素早く変えて教室に行く。

教室に行くと案の定、そんな私を見てしらけるような視線が刺さってきた。

おまけに、嫌な女子達と男子達が私に聞こえないようこそこそと、聞きたくもないような事を言われている始末である。

私は何も気付かないふりをして、いつもように暗い顔をして自分の席についた。


「マジ、うけなんだけど本当」


「あの娘、いつもとのギャップ激しすぎだろう、ハハ」


嫌な言葉を聞かないため、必死に鼓膜が破れるぐらい音楽を音量を上げる。

その日以来、私は学校では眼鏡をかけるようにした。

幸い、そんな視線をしばらく浴びる事になったが私の影の薄さと運の良さから、いじめられる事はなかったのが救いだった。

この話題は期末テストの少し前まで続き、テストを過ぎればそんな事などなかったかのようにその話題が出ることは無たしそんな視線を向けてくる人は居なくなったが、結果的に状態は何も変わらず私の人見知りでボッチな私の心理は直る事も完治される事もなかったのだ。

現実はそう甘くなかった。

あの発表の経験を経て、無駄だったとは思っていないが、得たもの良かった事があったというとなかった。

天国から先輩達は喜んでくれたに違いない。

無駄ではない訳をそう思うしかない。


もう教室では…… 二人の前以外では……

臆病になってしまっているのだ。


去年の文化祭以降の出来事を振り返り、とても憂鬱になったので先輩達と撮った記念撮影のファイルをスマホのカメラで見た。

その写真を見ると他の思い出の写真のファイルが出てきてついつい開いてしまう。

もう二度とくることのない思い出に浸り、その写真を見ながら先輩達の顔に手を重ねて、離れたくない忘れたくないと強く思いながら朝まで眠った。

気付くと母に朝だと起こされ、私はいつものように朝食を食べ着替えや持ち物の確認をしている。

最後にスマホを入れようとした時、ラインからメッセージがあり何気なくアプリを開いた。

開くと、昨日作った部活のグループラインで柚菜ちゃんと先輩から応援のメッセージが届いていた。


柚菜 頑張ってボッチ脱出ですよ~先輩!


茂明 先輩今日は気合い入れていきましょう!


そんなスマホの画面を見て、なんだか心の奥の方が暖かくなったような気がし、自然と笑みが零れつつ、二人にありがとうとかわいいウサギのスタンプを送った。

二人の言葉に励まされ、本気で西城さんと友達になってやろうと心から誓い、拳を握りしめた。そんな気持ちで少し足取りを早くなりながら、学校へ向かった。


「……」(さ、西城さん……)


二人の言葉で勝手に気持ちが高ぶってしまい、足取りは段々と早くなり、いつもより20分くらい早く学校へ登校してしまった。


「……」


そして、いつも来るのが30分ぐらい早い隣の西城さんと二人きりになってしまったのだ。二人きりになろうとする緊張感のせいか、高ぶっていた気持ちはジェットコースターのように急降下し抑制されてしまい、普段のように無言で恐る恐る自分の席に座る。


「……」(どうしよう……)


困り果てて、ちらりと西城さんの方を見た。

西城さんは無言で音楽も聞かず真剣に、漫画とラノベばかりの私とは縁の遠そうな厚目な文学小説を読んでいた。ちらりと見た目をすぐに机の上に合わせ、カバンを出しで荷物を整理する。

整理をしながら、西城さんをチラチラと見つつ、何か話かけようと頭をぐるぐる回転させ考える。


「……」(とりあえず、どんな本かとかそんなのでもいいから……)


頭を回転させたはいいものの、臆病でバカな私は実行するのに躊躇し、西城さんを気にしてオドオドと何かをするフリをする。不自然な動作をとる私を気にもせず、西城さんの眼鏡が朝の日光で眩しいくらい照らされても諸ともしないで、無言で本のページを捲る。西城さんは本を読むのに集中しているのだろう。そんな西城さんに変に気を使い、話しかけられない臆病な考えで私の唇辺りが震える。

もどかしい表情のまま、私も本でも読もうと読みかけているフルメタル・パニックの小説6巻をカバンから取り出そうとすると……


「今日、眼鏡かけてないのですね宮崎さん……」


「は、はう!」


今は話しかけないようにと思ったが、なんと西城さんから突然私に話しかけてきたのだった。

話しかけられた事とその言葉に困惑して、眼鏡をカバンから見つけて急いでかけると、西城さんに返事をした。


「ちょ、ちょっと今日は何だか張り切り過ぎちゃって、かけるの忘れちゃったみたい!」


私は話しかけれた事が嬉しかったのか、返事をにこやかに明るい笑顔で話す。


「そうなんですか……」


西城さんは要件を済ませると私の必死の明るい笑顔など気にもせず、本を何事もなかったかのように読み進め、朝二人だけの教室に静かな物音と沈黙が流れる。


「……」(そ、それだけ?)


会話が思わぬ速さで終了し、無言で目が飛び出そうになる。

何か何かと話を出そうと考えたが、考えている内に他の生徒達が教室に続々入って来て、見慣れる光景になっていき、先生が来て授業が始まってしまう。


「えっと、今日は2次関数の計算ですね」


数学の先生が授業を始めようと、低く暗めな小さい声で話出すと大半の生徒が怠そうでめんどくさそうな顔をしている。


「……」


隣はというと、真面目に聞いて試験ではあるのだが無表情である。

西城さんは毎日こんな感じで授業でも休み時間でも、笑う事も苛立つ事も微笑すら表に見せない。周りから見れば私もそう変わりはないが、私は常に心と頭では周りを気にしてアワアワとしている。

西城さんは無言で感情を表に出さない顔をして黒板の文字をノートを書いている。

私も西城さんと同じように、話せなかったもどかしさで気乗りしないままノートを書いた。今日は授業が変更され、授業はほとんど教室で行われたため、この状況はずっと続いた。いや、たとえ体育などの移動授業があっても西城さんはずっと無表情で真剣ままだろう。時間は流れるように過ぎ,数学、国語、生物、世界史と4限が経過する。


「聞いてよ、皆昨日さカレー買いに行って車で帰ろうとしたらさ…… 俺の同級生の奴が女といってさ、驚き過ぎちゃって車ちょっとスリップさせちゃってカレー溢してぐちゃぐちゃにしちゃてさ」


「フフ、クスクス」(生徒たちの笑い声) 


今は4限目の世界史、担当教師のとても温和で教えるのも容量がよく上手く生徒からの人気も高い、もうすぐ32だと言う高橋昌良先生。

この先生は大体、教え終わると雑談に入るし、授業の半分が雑談という事もある。

それで今は授業、大概授業を進め終えたと思ったのか雑談に入っている。


「で、スリップした瞬間さ、バーって目の前でカレー浮いたのよ、ははあ」


去年もこの先生が担当でいつもは、世界史にまつわる歴史の人物の面白い話や旅行の話をワイワイ面白おかしく話してくれるのだが、今回珍しく日常での滑らない話であった。


「ははあ」(生徒たちの爆笑)


高橋先生の話に相も変わらず大笑いする生徒達。私も他の生徒達ほどではないが、クスリと笑う。


「それでさ、俺ここんとこゲーム買って金欠な訳で…… もうその溢れたカレー無理やりかき集めて食ったんよ……はは」


話のオチは虚しく、先生は苦笑するが、その苦笑いが自虐話であることの笑いの坪を掻き立てさらにドカンとまた生徒達が笑いだす。


「プ、フフ」


私も爆笑の声に釣られて、さっきよりも大きく笑う。それで隣はというと……


「あ~」


西城さんの様子を確認すると見事に眠たそうなあくびをしていた。西城さんは勉強と本の事以外はどうでもいいのだろう。

体育の時や課外授業の時も明るさ間にやる気のない顔をしていた。西城さんのそれまでの行動を振り返り、この子は私と一緒でしかも一方的に人を避けている。西城さんには、人と仲良くしたいという気持ちが感じれない。そんな人と上手く友達になることが出来るのかと、ふと思った。でも……


「フフ」


「あ……」


「え?」


西城さんには……


「宮崎さん、襟少し立ってますよ」


「は、はわ、本当だ!」


「直してあげますね」


西城さんには、私がどんくさいせいなのだろうが本当に優しくしてもらっている。


「あ、ありがとう……」


初めて、助けてくれたのは鉛筆を拾ってくれた事だった、その次は課外授業での2人組決め、その次は私の出ていたシャツをしまってくれた事、お昼ご飯を忘れて財布も忘れて、お腹が減っていた時にチョココロネを半分くれた事。この数ヶ月間でどれだけ私を優しくしてくれたのだろう。その場面を思うだけで、嬉しくて恥ずかしくなり「はわ!」とつい口癖が出てしまいそうだ。


「いや、まいっちゃうまいっちゃう」


「先生もっとなんか話して!」


一人の女子生徒が先生に違う話をしてほしいと最速しだす……

私は普段より、はるかに面白なっている先生の苦悩な日常話など聞かず、深呼吸をして改めて絶対に西城さんと友達になる事を誓った。


「は、す…… は……す……」


「宮崎さん?」


「はう!」


「大丈夫ですか、保健室行きますか?」


私は絶対、彼女と友達になってみせる。

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