第05話 先輩に優しいあの子と俺に優しくしてわくれるあの子- 07 先輩の過去編5 last 


朝起きたら、もう昼過ぎであった……


親が仕事でいなく、誰一人いない少し散らかっているリビングで私は朝昼兼用の大盛りのカップルラーメンを頬張る。

夜更かしをしてアニメを大量に見ていたせいだろう、目が悪くなりかけている。

今日寝たのはいつだろう……

確か、4時ぐらいか……

寝落ちしてうる覚えな記憶なまま、見ていたアニメの続きをスマホで見る。


先輩たちが死んでから約3週間が経過しようとしている。私は夏休みの1日前の日以来、学校というか外にすら出ていない。

外にすら出ないまま、こんな不摂生で怠惰な生活をしながら家に居る。怠惰な生活をしている事に抵抗はなかった、何故ならそれはただ私がするべきだった道を歩んだだけだからだ。


先輩達の居ない部室に行き、再び悲しみ打ちのめされ泣き崩れた日、泣き崩れながら先輩達の楽器に名前を呼んだ後、直ぐ様部室から飛び出して、帰り道を一人歩いて帰った。


最初の虚無感、先輩達に出会う前の虚無感

そんな感情に戻った感じがした。

私の中にある嬉しい気持ち、幸せな気持ちを考える事の感情がすっぽり抜けていた。

今までがそうだったのだ、私は一人で多少虚しくても一人でやってきたではないか。

そう考えた。そして、その日、この学期にあった思い出をすべて忘れようとした。


私の記憶


「ヨシヨシ、楓ちゃんかわええな!」


「も、もうやめて下さいよ……」


私を動物おじさんみたいに過剰ななでなでをして、それを嫌がる私。


「おい、紺子お前のあだ名今日からムツゴロウな」


これも


「フフ、皆さん親戚の方からいただいたクッキーを持ってきましたよ」


「はわわ……」


「なんて高そうな……」


お嬢様な三笠先輩の親戚からもらったとても透き通ったメタリックな青に英語の文字がゴージャスに書いてある箱に目を輝かせる私と紺子先輩。


「なんて高そうなて、貰った物の第一の感想がそれなよ、まあ私もそれは思ったけどさ……」


これも


「なあなあ、楓ちゃ~ん!」


「なんですか先~輩!」


仲良くなり始まて、私は少し先輩のテンションに乗って笑い合ったり、先輩からのスキンシップも嬉しく感じ始めていた。


「フフ、ヨシヨシ」


「はう!先輩たら!」


これも……


「皆どっかよってこや!」


帰り道寄り道して何か食べに行ったり買い物したりした事も……


「休みもいこや!」


休みの日に出かけたり、先輩の家に泊まったりしたことも……


「か、楓ちゃん……」


「楓ちゃん……無茶苦茶シャレてんじゃん」


「凄いかわいいです……」


私が少しピンクがかっていて英語の文字が入った白シャツと、白プリッツスカートを着てきたのを見て、私の張り切ってしまった私服を誉めたり……


「凪なんか男ぽいんばっかし服かうな」


「な、なんだよ悪いかよ、しっくりくんのがこういうのしかないだよ!」


「楓ちゃんは色んな感じの服を買うのですね」


「え?そうですかね、で、所であの?三笠先輩は服買わないんですか?」


「はい、私は家に沢山ありますからこれ以上買うのは両親に申し訳かなかと……」


「はあ……」


服を買うとき買う服の事で話し合ったり……


「さてと五等分とかぐや様の新巻、新巻!」


「え、凪マジ?そんな趣味あるんや……意外」


「わ、悪かよ!」


「へえ、先輩……意外です」


「か、楓ちゃんまで……」


「ははあ、で、楓ちゃんはと……

えっと、デュララにコップクラフトに彼方のアストラ…… なかなか渋いな……」


「先輩知ってるんですか?」


「まあ、アストラは知ってるけど、他は名前だけ」


「あ、そういや三笠先輩はどうなんだろ……」


「ああ、あいつは結構王道だぞ」


本を買うときは自分達の買う本の事で盛り上がった事…… そして、意外に恥ずかしそうに三笠先輩は王道にワンピースときめつの刃を見せてきた事……


「あ、三笠先輩、端のほっぺにケチャップついてますよ」


「すいません、なかなかこういうかぶりつく物は食べないもので少し不慣れでして……」


「楓ちゃん見てや、この二つのストロー!」


「先輩さすがにそれはやりませんよ……」


「ガーン」


「振られたな」


「振られましたね」


一緒にご飯を食べるときは、楽しい会話をした事も……


練習で沢山教えて貰った事、練習で沢山汗をかいた事、指が痛くなるまで家へ帰っても買ったギター(今は押し入れの奥)で練習した事、そして、そんな事を通じて先輩達と仲良くなった事……


私はすべて忘れようとした。


その結果、こんな風に怠惰な生活習慣に溺れ長期の休みを何の意味なく過ごしている。

私は何も思わない、そう言い聞かせた。

虚しいなんて私には当たり前だ。これが私が歩むべき道だ。

そう思って幸せになりたかった自分を打ち消し、布団を被ってスマホで違うアニメを見る。現実逃避をするため冒険系の楽しいそうな作品や、シリアスだがクールでカッコいいロボット系や情報系な作品を見た。

私は女子ながら、あまりラブコメや青春な作品は好きではない。確かに、面白いと思った作品はあるが、あまりキラキラしている物は好きではない。どちらかと言うと爽快感を求めたり、ストーリーの現実からかけ離れた壮大な物やその中にあるノスタルジックなシリアスさを求めている。

そういう好奇心で自分を騙し、私はあの日の事を忘れようとしている。

ロボット同志が戦うシーン、それで生まれるヒューマンドラマ……

冒険に出て、沢山の仲間とともに苦難に立ち向かっていく話……

都会に潜む悪を密かに倒す、秘密組織の話……

どの話も私の好奇心を満たしくれた。

その話たちに出てくるキャラクターをそれぞれ信じた物のために戦っていた。どんな強敵が前にこようともその信念は曲げない。

どんな歪んだ世界でも、主人公やキャラクターが意思を貫くというのが本当に堪らない。

これは一種の憧れなのだろうか……

私も自分を貫ぬく……

私はそんな大それた事はできないし、結果的にできなかった。私はその程度な人間なのだ。憧れるだけで、何もできない。

私は一人じゃ、何もできない……

死んでいった先輩達のために私は何一つできない。

アニメを見ていてそんな事をふと思いつつ、食後の反動の睡魔に襲われ、私は目をゆっくりと閉じていく。今感じている虚無感を一時も早く忘れるため……


「おい、おい……」


深い眠りの中、何か怒っている女の人の声がする。その声はとても聞き慣れた声であった一体何故だろう。

聞き覚え所か耳に染み付いた声な気がするので気になり、目をゆっくり開けて、声のする左側を見る。


「……誰」


視力が下がってぼやいだ目で、その女性を見る。


「宮崎しっかりしろよ」


呆れに似た声色で私を名字で起こす声の主は、玉置先生だった。


「たく、何でもう昼2時前なのにパジャマなんだよ……」


そう指摘する先生に、私は何も反応もせずまた顔から布団を被った。


「おい……」


先生を避けて無視すると、怒りを押し殺す表情をして私の布団をひっぺがし、その行動に驚いて、私は先生を顔を少しぼやいだ視力で見た。

その表情は完璧に苛立ちに満ちていた。


「……」


「……大人しくしろ」


苛立った先生に、強制的に着替えさせられた上、先生はソファーに私は座って床に正座させられた。

しばらく沈黙が続いて暗くする私に、先生は胸に手を当てて何か痛みを耐えるよう意を決して話出した。


「宮崎、部活に来い」


「嫌です……」


沈黙が続いた末何を話すのかと思えば、先生は一言「部活に来い」との事だった。

私はそれを一言で拒絶して、視線を下に向けた。


「いいから来い!」


「い、や、で~す!」


さらに拒絶の意思を見せるため近くひっぺがされた毛布があったのでそれを被る。

しかし、先生はそんな私を気にもせずまだ身体を引っ張り続ける。


「大体、先生不法侵入なんじゃ、しかも勝手に私の住所調べて職権乱用じゃないですか……きょ、教育委員会訴えますよ!ニュースにしちゃいますよ!」


先生が何の予定調和もなしに来た事を思い出して、適当な脅し文句を放って先生を追い出そうとした。が……


「あ、それだけどなちゃんとお前の母ちゃん電話したら、どうぞ娘を元気にしてやってと激しく賛成してたから」


「お、お母さん」


裏切り者め…… 母へ初めて恨みの感情を抱き先生への抵抗を続けようとしたが、先生が辛い表情をして私に問い出した。


「宮崎、私も今からだって時にあいつらが居なくなった気持ちは痛いほど…… 悲しいほど…… 分かるんだよ……」


先生は私の服をぎゅっと強く握った。

先生は3年間ずっと先輩たちと一緒にいたのだ…… 私よりいる時間は長い。

先生が握るその強さで私より深い先輩たちへの先生として情が伝わってきた。


「お前辞めるのかよ…… 部活……」


私はその言葉を聞いて戸惑った……

先輩達の事を忘れようとしてその事は考えないようにしていたのだ。


「辞めんだったらかまないけど、お前は本当にそれでいいのか?」


「私や、辞め……」


どうせ先輩達もないのだし、辞めてもかまわないそう思っていたが、いざ口にしようとすると忘れようとしている思い出が邪魔する。


「私辞め、辞めれません……」


辞めれなかった。すべてを忘れようとしてあの楽しい思い出が邪魔をして。

先輩達と楽しみさらに好きになった音楽、先生にそう問われてもっと上手くなって部活でやりたい。そう思ったからだ。


「宮崎……」


「だって私…… 音楽がもっと好きになったしもっと上手くなりたい!」


私は本心をさらけ出した。もう先輩の過去のしがみを深く考えるのはやめた。

私は私として感じたように生きようそう決めた。

こうして私はこの日から音楽同好会に復帰する事になった。

復帰するとさっそく上手くなるための玉置先生の鬼指導が待っていて、骨が折れそうだったがなんとか耐えぬけた。


「あれ…… メイプルロックてこれ……」


「ああ…… これな紺子が残した分かんない題名の歌を私が編曲したりして楽譜化したりしてみたんだが…… それと私が歌った音楽もあるが……」


その曲はとてもカッコいい感じで歌詞がとても可愛らしい曲だった。


「先生なんか妙に切ない感じな歌い方ですね」


「るせえ~」


先生歌い方はともかく、なんとも紺子先輩らしい歌だと思った。聞いてくるだけで私への愛がそしてみんなを愛している事がつわってくる曲だった。私は自然と微笑んだ。

そしてその後、自然と涙を流した。


「おいおい…… たくよ…… 私まで泣いちゃうじゃねか~!」


先生は私を慰めようと抱きしめながら、涙を流して強く頭を撫でる。私はその一瞬、撫でる先生の姿が紺子先輩に見え、先生の胸の中で強く泣いた。共に涙を分かち合うと、すぐさま練習に戻る。

次の日も、また次の日も…… 文化祭のための夏休みの弾き語りの練習は続いた。家に帰っても、押し入れに封印したギターを引っ張り出して練習するぐらい私は真剣に取り組んだ。

練習した曲は紺子先輩が作ってくれた歌と三笠先輩が好きなマクロスfのライオン、凪先輩は何でもいいと私たちに気を遣いやりたい曲リストをかかなかったが先輩が私を初めて誉めてくれた曲のSuperflyの愛を込めて花束を、そして、初めてみんなでセッションして私の大好きな曲でもある長い夜を練習した。

一番難しかったのはライオンだけど、厳しい指摘が入り他の曲もそれと同じくらい練習をさせられたのでどれも大変だった。その佳もあり、物凄くギターの腕が上がったような気がした。


そんな自信満々になって、挑んだ文化祭……


リハーサルも先生のご好意で2回やらさてもらってけどいざ本番となるとガチガチになった。自分の番近づくにつれ緊張のせいで喉が乾ききり、200ミリリットル水を何本も飲んだ。乾きは柔らかぐが緊張は和らぐ事はない、私はどうしていいか分からなくなる。


「続いては、1年生の宮崎楓さんの弾き語りパフォーマンスです」


「はわ!」


どうしていい分からないまま、私はアナウンスの私の呼び上げる声に従いステージに勢いで立った。いや、立ってしまった。


「は、はわはわ……はわわわ!」


スポットライトが私に当てられ、体育館には大体500人近い生徒達が私を注目していた。

注目され、私はギターを持ちながらソワソワと客席の方を見渡す。

弾き語りをするための椅子に座ろとするが、ギターを持つ手が微動だに震え、身体の制御が効きにくく座るのも用意ではなかった。

私は、再び客席を見る。

一人一人、生徒の顔が私をワクワクとしながら見つめる者、暇潰しに来たような顔で見る者、少しの苛立ちを感じた様子で見る者、沢山の顔が私の目の前にある。その顔達を私は恐れ、今にも逃げたしたいそう思った時であった。私はふと1学期の事を思い出す。



文化祭の事を本格的に始める数日前


「えー!楓ちゃんでたないの?」


「は、はい……」


「あんなに歌えるのにですか?」


「楓ちゃん勿体ないわ!」


みんなで練習している文化祭の話題が上がり盛り上がっていたのだが、私が出たくないと言った瞬間皆、三笠先輩と紺子先輩が私を出したそうにせがんできた。


「おい、お前ら楓ちゃんが嫌だって言ってるんだからこれ以上追及してやるな……」


凪先輩は非常に勿体ないと言った表情をしながらも、私の意思を尊重してせがむ先輩達を惜しみながらも止めてくれた。


「ご、ごめん私、大勢の前に立つの始めてで怖くて……」


辛そうにする私に皆は何も言えず、惜しそうな顔をしながら、私のためとその気持ちを耐えてくれた。皆には申し訳ないけど仕方ないそんな風に考え少し楽にしていると、先生がいきなり話に入ってきた。


「宮崎、それは誰でもだ……」


「へ?」


「どんな有名で上手いアーティストでも始めての大舞台は緊張するもんだ」


先生はどうせ歌い文句な説教を私にしてくるそう思ったがしかし……


「ほら、これ見ろよ」


「何ですか先生?」


適当な教訓な話でもしてくるのかと思ったら、スマホをテレビに繋ぎ映像を流し始めた。その映像が再生されると画面には暗くなった学校の体育館の舞台が映った。


「お、おい、これって……」


「て、わ~先生それは!」


「お、お恥ずかしいのでやめてください!」


その映像が流れていると若くてまだ少し幼さが残る先輩達が出てきた。

それを見ていると紺子先輩と三笠先輩は先輩をすぐにでもテレビを止めようとしてくるが、二人はすぐに先生の怪力により押さえつけられた。


「あ、やっぱり恥ずかしいな始めてのは……ハハ」


先輩達は演奏するまでに約1分間もガチガチの状態で立たずでいた。私と凪先輩はその棒立ち姿に思わず笑ってしまった。


「は、恥ずかしいです~」


「うう、先輩としての威厳が……」


その後の演奏はそれなりに良かった。


「あれ?ギター弾いてるこの男の人は誰ですか?」


「あ、こいつはな去年卒業した西川和也だ」


「ああ、なんか結構ニヒルで暗い所があったけど無茶苦茶ギター上手かったなこの先輩」


「なんだかんだ、いい人でしたしビジュアルも良かったですよねこの先輩」


先輩達は自分の羞恥をさらけ出される事に慣れると普通に話せるようになり、変なワチャワチャがなくなり、私も納得したところで先輩達は私が緊張しない方法を考えてくれた。


「うん……そうですね皆顔を何か大好きな者に思うのとかどうでしょう!」


三笠先輩は何かと結構頭がさえる方である。

その考えに他の私も先輩も先生も、中々いいとその案に賛成する。


「楓ちゃんの好きなもの言えば……

やっぱりウチや~ろ!」


ニコニコと私をつつきながら自慢気に私に言うが、それは一瞬で否定をした。


「全員お前だったら、楓ちゃんさらにでにくじゃねかよ」


「いやらし目で見られそうですね……」


「全くだな」


「そうですね」


「皆、ウチをなんやと思ってんのや!」


という訳でそれはなくなった。

客席全員が紺子先輩だと想像すると、全員が私に連写してきたり、いやらしい目で見てきたり、飛びついてきたりそうで考えただけども恐ろしかった。


「じゃあ、楓ちゃんの好きなアーティストとか…… それとか妥当に食べ物とか……」


物というのでは、選ぶ範囲が広すぎので三笠先輩の提案により範囲を絞ることにする。


「アーティスト、千春とさださん……

食べ物は…… うんキナコかな……」


我ながら、凄い爺臭い組み合わせだと思ったが頭の中でイメージする事にした。


「なんやねん、松山千春とさだまさしとキナコて……」


「な、なんかすごい茶色な感じで~す!」


「……う……集中しにくい」


「なんだよ、無茶苦茶カオスじゃねか!」


皆は、凄く変な気分になっていたのだが……

私は案外良かった。キナコを食べながら私たちを見る千春とさださんを想像したら、それなり萌えてしまい嬉しくなり、心がほっこりとして落ち着く事ができた。


「いいです、いいですよ!先輩!先生!」


「え?マジで楓ちゃん」


「み、宮崎……」


「ま、まあ楓ちゃんがそれでいいのでしたら……これで文化祭には来てくれんのですし」


「く…… ウチが二人の爺さんとキナコに負けるなんて!」


「フフ、ありがとうございます!皆!」


私の想像した物に皆なんとも言えない顔をしていたが、これでなんとか始めて舞台での緊張のほぐし方は分かったので、私は大いに満足な表情をした。


「そういや、結構前聞いたオールナイト日本かなんかのラジオで中島みゆきが言ってた話があるんだけどさ知ってるか? 

えっと確かさ、中島みゆきがスーパー買い物行ったらさださんと千春がフードコートでわかめスープ飲んでたて話、二人とも毛が少ないようでだったけなみゆきさん……

いや爆笑だったよ!この話しってか宮崎!」


「フフ、はい知ってます先生! 私もそのラジオ聞いてて……」


この話は、千春とさださんのわかめスープの話により巻くが閉じたのだった。


終わり


文化祭 ステージの上にて


ふと私は舞台で緊張と格闘していると、そんな出来事を思い出した。


「フフ」


さすが全員を千春とさださんとキナコに思うのは出来なかったが、その事を思い出したら少しおかしくなり、口角が自然と上がりニコリと笑った。


「……よし」


緊張が和らぐと、私は手に顔を当てて小声で気合いを入れて、深呼吸をして息づかいを整える。そして、今までしてきた事をこの瞬間全てぶつけた。

私は自分の気持ちが高ぶるままに、歌った。

最初は先輩が書いた少しロックで可愛い曲で、次は一番練習が大変だったが大いに盛り上がったライオンで、その次は三人の前で始めて歌った愛を込めて花束をで……

そして、最後に……


「こ、この歌は…… 」


私は最後の歌へのmcの時、唇を噛みしめながら先輩との思い出の話を皆にした。


「それでは聞いてください、長い夜……」


元なロック調とは全く違うゆっくりなアコースティックアレンジ……

本当の意味で長い夜という題名にふさわしいバラード調な曲になった。

そんなバラードな長い夜を歌いながら、頭の中で先輩たちとの思い出が沢山のシャボン玉が飛んで弾けるみたいに、それが何度も浮かんでは消えていく…… 

思い出のシャボンと共に、目に涙が浮かびそうになる。


「あ、ありがとうございました!」


浮かんでくる涙を必死に耐え歌いきって、何も言わず下を向いて礼をして、なるべく顔を見られないように舞台袖に戻ると、玉置先生が私に喜びの抱擁をくれた。抱擁された先生の胸の中で、私はまたあの日のように強く泣いてしまった。


「お前はよくやった、よくやったゾ……」


「はい、先生……」


先生は喜びながらハンカチで、私の涙を拭き取ってくれた。

泣き止んで、私がチューンとそのハンカチで鼻をかむと、先生は安心して少しの笑みを垂らして、その姿がおかしかったのかいきなり笑い出した。


「ハハ、お前なんだよその音」


「もう…… そんなに変ですか先生」


私は先生の反応を苛立たしく思い、頬っぺたを膨らめて怒っている事を主張した。

そう主張すると、先生は「可愛いやつめ!」と嫌らしい声をして今度は頬っぺたを突きながらからかってきくる。さらに怒りの表現をしようとしたが、私をその頬っぺたを突き終わると何処かに去っていた。

去って行った直後、先生が文化祭の前の日に弾き語りが終わったら返してくれると私に口約束していた事を思い出し、まんまとそれをすっぽかされた事に気付いた。

仕方がないので、文化祭公演が終わるまでに部室に急いで返しに行く。


体育館から第2校舎まで道のりは、結構長い第1校舎への廊下と第2校舎へのこれまた長い通り廊下を跨ぐ上、それに階段も上がらなければならないので道のりは長い……


歩くと私と同じように公演で演技をしていた生徒達が大きい物から小さい物まで男女問わず色んな物を運んでいた。そんな人達を押しのけて、人があまりいない第2校舎まで着く。

人の波が無くなったので、多少気持ちは落ち着いたが、階段はそんな落ち着きなど関係なしにある。階段を上がりきり、すっかり見慣れたボロく埃臭い旧音楽室に着く。


「はあ…… さすがに長いよ……

もう戻りたくないな……」


ギター置いてやることを終えて帰ろうとしたが、私は気だるさ全開な言葉で疲れきったトーンのまましゃべり独り言を吐いて、椅子に座ってしまう。椅子に座ると、私はぐったりとして机に顔を擦り付ける。

そのまま、気だるさと疲れに身をまかせて、私は眠りにつく……

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