第05話 先輩に優しいあの子と俺に優しくしてくれるあの子 -06 先輩の過去編4

「おいおい、ヤバイヤバイて」


「は、早く救急車呼ばないと」


私が喜んで先輩達の方へ駆け出したその時、目の前で通りかかった一つの大きなヘッドライトの光に、この幸せでいっぱいな気持ちと三人の大切な先輩の命が一瞬にして奪われた。何が起きたか分からなかった、いや、理解したくなかったのだろう。

そんな現実を受け入れたくない思いの正で私は事故現場を前にしても、何もする事もできず、ただ立ち止まり、その場に膝から倒れた。その後も、1分もしない内に人が群がって来て、すぐさま心配した買い物帰りの主婦ぽい人が救急車を呼んでくれた。それから、30分ぐらいしてから救急車が来て三人は運ばれた。

私も同伴し隣町の病院まで一緒に搬送され、紺子先輩の救急車に乗っていた。


「……先輩」


私は涙まみれになり、先輩の手を握る。

先輩はかすかに意識があるのか、心配そうにする私をいつものように宥めようと微笑んでいる。


「だ、大丈夫や、で……か、えでちゃん」


先輩は微笑みながら、途切れ途切れに私を安心させるための言葉を言う。


「あんまりしゃべったらダメですよ!」


私は先輩の体を気遣うあまり、思わず大きな声を上げて話すのをやめるよう言う。

それでも先輩は話す事をやめず、私につかさず笑って微笑む。


「楓ちゃん……もっと近くきてや……」


先輩はとても辛そうに私を近づかせようと弱々しい声で必死に言う。それに答えて、私はそっと先輩乗って側に近づく。


「うう……」


「楓ちゃん、泣かんといて」


悲しみで顔を暗くする私に先輩は微笑みを一つも崩さず、私の顔の涙を拭き取って慰めた。先輩から伝わったその手の感覚は正常なものではなく、とても冷たかった。

その腕の冷たさと先輩の優しい微笑みが私の頭と瞳に混在して、また涙が溢れそうになる。


「楓ちゃんは……笑ってや……笑った方がかわいいで……」


涙がまた溢れると、先輩は私の顔をその弱く冷たくなってしまった両手でいつものような少し意地悪そうな顔をしていじり無理やり私を笑顔にした後、ニコリと笑った。


「うう、紺子先輩……」


「いい顔やで……楓ちゃん」


その直後だった、私を無理やり笑顔にしたのを最後、救急車で先輩は大量出血のせいでしばらく意識不明になった。


私は笑顔にしてくれた両手は離れ、ベッドの地面につく。その後、心拍数が急速に低下して2人の救急医が私を横切って駆け寄り、すぐに応急措措置に気をとられていると、応急措置に気をとられていると病院につき、先輩たちはすぐにベッドで中まで搬送される。

私は搬送される先輩たちを追った後、親に帰りが遅くなるとLINEし手術室の前の椅子で先両手を合わせて祈りながら、先輩たちが無事に手術室から出てくるのを待った。

それから待っていると先輩たちの家族が大体15人くらい来て2時間ぐらいが経過し、手術室から青い手術服を纏った先輩たちの処置をしてくれた人と思われる男性が出てきた。


「あの……家の子はどうなったんでしょう」


紺子先輩の母がその手術服を着ている男性に、恐る恐る訪ねると、その人はすぐに下に目線をそらして悔しい表情をした。


「すいません三人とも……」


男性は謝っても謝りきれないと絞った声を出して、皆に深く頭を下げて謝った。

その言葉を聞いて、先輩たちの家族は泣き崩れたり、呆然と立ちすくんだりして、自分の子供の早すぎる死にただ絶望していた。


「姉さん……」


「え?嘘でしょ……」


「お姉ちゃん……」


その中には、三笠先輩の1つ下の弟と凪先輩の少し上のお姉さんや、紺子先輩の姉弟姉妹達も居た。


「ねえ、お姉ちゃん死んじゃったの?」


紺子先輩のまだ小2ぐらいの紺子先輩の妹ちゃんが2人と幼稚園ぐらいの兄弟を連れて、1つ下で紺子先輩の次に年長の妹ちゃんに心配そうな顔で問いていた。

そう問われた妹ちゃんは3人をぎゅと抱きしめながら「大丈夫、大丈夫だよ」と何度も言って、3人が抱きしめられた腕の中にいるのを見計らってか妹ちゃんはそっと涙を流した。


「大丈夫……大丈夫……」


妹ちゃんの大丈夫と安心させるために言った声は自分が涙を流すたび、励ます声がどんどんと涙声になっていく。

私はそんな様子な子達を見て、泣きすぎた反動とあまりの絶望感のせいで涙を流せずに、ただうつむきながらそっとその場を去った。

一層暗くなってしまった私は心配させながら母に迎えられ、今日の事を話した。

母への要件がすむと私は直ぐ様自分の部屋に戻りすぐにベッドへ駆け込んだ。


その次の日


学校で特別集会が開かれ、6限目に昨日あった事故の事が全校生徒がいる前で話された。


「最後に何度も聞いたと思うが葬式は8時からだからな、一人でも多い方が先輩たちも喜ぶだろうからなるべく皆行くように」


集会が終わり、今日は最後にホームルームがあり先生がそう葬式の日程を解散の言葉にして今日はこれで終わりとなった。

その言葉を合図にクラスメイトが退室していくのを見計らって、いつも通り私は一番最後教室を出る。今日は部活に行かず家に帰り、少し遠い場所だったので7時くらいに母親の車で葬式の場所まで連れて行ってもらった。

黒服なんて何年ぶりだろう、おばちゃんが死んだ小4の時以来な気がする。おばちゃんも音楽が好きで私に色んな歌を教えてくれた。

その一つにフォークソングがあった。

車のガラス窓に移る私の黒服姿を見て、少しでも明るい事を考えようとふと思いだした死んだおばちゃんの事を考えたが、全く気持ちは晴れるなく寧ろ少し雲ってしまった気がした。

葬儀場につき3人の写真が飾られた祭壇へ、私は一目散に向い、怖かったが先輩達の亡骸を見に行った。

先輩達は綺麗に眠っていた。その綺麗さは今の私にはただ悲しさを深くさせるだけだった。


「楓、大丈夫?」


遺体を見る私が余りにも悲しそうだったのだろう。母は私に心配の言葉をかける。

その言葉に、小さく頷き何事もなかったかのようにすぐ近くの椅子に座る。

座るとゾロゾロと先輩達の親族達や、ウチの学校の制服を着ている制服が何人も来て、しばらくすると葬式が始まる。

先輩達の親からの涙ながらお別れの言葉と子供への思いの言葉。

三笠先輩は大人しく少し抜けている所もあるが皆から愛される存在だったと言う。

そして、三笠先輩のとても上品そうな母が涙ながら別れの言葉を言った。


「三笠は天国へ行ってもそんな愛される存在であってほしいです、さよなら三笠」


凪先輩は真面目でとてもしっかりとしていていつも私達の頼れる存在だったと言う。

そして、凪先輩の背の高いとても先輩に似ている父が拳を握りながら優しい気持ちで別れの言葉を言った。


「凪、天国に行ったら誰にでも頼られる奴でいろよ」


紺子先輩はなかなか言うことを聞かずにイタズラばかりしていたと言う、でも妹達には優しくとてもいい姉であり面倒見がよく、少しヤンチャだが誰とでも話してすぐに友達ができていたという。

そして、最後は紺子先輩の少し美人な母が笑顔で紺子先輩同様の訛ったしゃべり方別れのエールを送る。


「紺子、あんたはホンマ…… ホンマ手を焼かせる天才やったで…… でもなそんなあんたやったからこそ沢山友達ができた……

だから、天国へ行っても…… 天国行っても仲のいい人いっぱいつくれや!」


最後に紺子先輩の母が最大に号泣して、妹ちゃんたちに抱きしめられ、紺子先輩の父が涙しながらハンカチを渡した。

私はそんな先輩たちへのエールを聞き、今日ためていた涙を一気に流し、お経が終わるまでずっと泣き、最後に母が私を抱きしめハンカチで涙を拭いた。


「ありがとうお母さん……」


私は母に慰めらたが、病院で先輩たちが死んだ時以来、この痛みは決して消えることはなかった。


「おーい行こうぜ行こうぜ」


「ああ、部活だるいだるい明日から夏休みだからもっとえらくなるぜ……」


部活…… 放課後の廊下に響く生徒達の声に気をとられないように、私は第2校舎に足を踏み入れ、一人で悲しい気持ちのまま旧音楽室に向う。


「し、失礼します……」


小さく挨拶をして入ると、そこにはあたまりまえのように誰も居なかった。

誰も居ないこの教室に、ただ窓から外からの光が虚しさを試聴するみたいにこの教室を照らす。


「フフ……」


光の試聴があまりにもおかしかったかっまのか、私は小さく一人笑いを浮かべた。

その後、私は涙がまたあの日みたいに止まらなり、その場に崩れ落ちた。


「紺子先輩…… 三笠先輩…… 凪先輩…… 」


そして、もうこの世には居ないの三人の名を、何度も何度も呼んだ。

三笠先輩が使っていたドラムセットに、凪先輩が使っていた黒く光るベースギターに、紺子先輩が使っていたボロボロになって少し汚い赤いエレキギターに何度も呼び続けた。

泣くせいで声が枯れようとも、その呼び声を止める事もできずに……



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