第05話 先輩に優しいあの子と俺に優しくしてくれるあの子- 03 先輩の過去編1

私は宮崎楓15歳、ちょっぴりバカで変に人見知りの音楽同好会(仮)所属。

確かこの部活に入ったのは1年生のちょうど今の後輩くんぐらい時、周りの皆もクラスに慣れ自分だけ孤立してしまって行き場をなくして途方にくれ帰宅する日々が続いていた。

そんなある日、私は学校をたまたま散策していて、部活動に励む生徒たちを遠くから見てみとれていた。


「指の隙間向けて、こぼれ落ちたものは~」


みとれてる事に虚無感を感じて、私は誰もいなそうな第二校舎近くの裏庭で小声で聞いていた歌を口ずさんだ。何の偶然だろう、ランダムで再生しているのだが、一番好きな歌がかかってきた。今歌っているのは、安全地帯のひとりぼっちのエールという曲だ。


「砕けた悲しみの欠片……」


この歌は、とても心に沁みながら元気をもらえ今の私に一番勇気をくれる曲。


「両手で受け止めて、それでも落ちた物ははかない喜びのため息……」


自分より幸せな人にみとれて虚無を感じながらも、私は自分を励ますために歌う。


「心が傷んでも、寒い、夜は、いつか、終わる~」


こんな孤独を感じてもいつか終わる。

そう信じた……

そんな思いのせいか、ザビに入り次第に声は大きくなっていった。


「忘れないよ~ 新しい朝が光あふれ僕を待つ」


私は信じる。いつの日か、この払ってしまいたい気持ちを凪の彼方に誘う光が待っている事を。


「君のために流した涙の熱さが僕を、支えて、きたんだ……」


涙が出そうなのを堪えて、最後まで誰のためでもなく自分の勇気のために歌い切った。


「僕のために世界の片隅、泣いてる君はひとりじゃないから~!」


そう、この曲は最後まで安心して、そして大丈夫だと言い聞かせる。ひとりじゃないのだと……

歌の最後を伸ばしきると、ラだけのメロディになる。このラだけで繰り返すメロディ―はなんとも言えない安心感がわく。

私は光導かれながら明日へ向かっていけるような気がした。


「ラ、ラ、ラ、ラ、イエーイ」


歌い切ると今とても嬉しく。

一瞬、とても清々しくなり、同時に虚しかった。

大好きな歌を歌っただけではこの虚無感は消えない、消える事はない……

歌い終わると私にはしらける現実が待っている。

どれだけ歌の中で叫んでも、それはただの現実逃避に過ぎないからだ。

現実に戻り、私は自分を永久に出ることのできないリフレインする自問自答の入り組んだ迷路に捕らわれ続けている。


「はあ……」


自分の世界のベールを無理やり現実に剥がされ、私はため息をつく。

そんな時だった。

私はこの学校生活を一変させる事が起きた。




「わ、歌上手い!」


振り替えって後ろを向くと、誰だか知らない狐ぽい見た目の女の子の先輩が小さく拍手をしながら私の歌をニコニコと誉めてくれていた。


「は……」


まだこの時、あまり人前で歌うのは好きでなく、凄く恥ずかしさを感じて口と目を大きく開けながら顔を今年一番ぐらい、いや、風邪の時より顔を赤くしてしまった。


「はうう……」


その恥ずかしさのあまり、小さい頃から人見知りで無口だったので癖となってしまった口癖を発してしまう。

歌を聞かれたでも恥ずかしかったのに、自分が一番コンプレックスにしている羞恥も見られて、私の顔はまたさらに赤くなりそうになる。


「はう?」


「……」


その先輩は私の口癖を聞いた瞬間、不思議そうに首を傾けて恥じらっている私をその細い目で興味深々に見てきた。


「うう……」


逃げるにもここは誰もこないような行き止まりの場所だったし、この狐先輩が前に立っていたので逃げることができずそんな先輩に怯えてちじこまる。


「う~ん?」


先輩はそんな私を見ながら何故か嬉しそうにしている。

そんな狐先輩の私の歌以外の第一声は……


「か、かわ、かわ…… かわいい!!」


先輩はその言葉を発したとたん口角が最大に上がっていき、私に飛び付いてきた。


「はああ、いかん、かわいい過ぎやろこの子!」


飛び付いてきたと思ったら、この狐先輩は孫を愛でるおじいちゃんかおばあちゃんのように激しく頬擦りをしてきた。

私は激しく頬擦りに困惑し、思考回路が追いつかなかなず、長年の人見知りせいでクラスの人とも他人ともしゃべっていないので、初対面でしかも先輩にいくら狐でもやめてほしくてもそれのせいで言葉が発っせられなかった。


「あ、そうそうまあウチは三年生のまあこれはスリッパみれば分かるな」


激しい頬擦りが終わり、私がその反動で頭がクラクラとする中、勝手に狐先輩の自己紹介が始まる。


「フフなんて…… 実はウチはな、この学校の狐の妖怪でな…… たまたまこの辺おったら、まあ可愛いらしい声がしな……」


「ひっ」


狐先輩はなんだか怪しい声のトーンで自分が妖怪であると告白し、ゆっくりと耳元に近づき嫌な予感を察する言葉を言いながら、そっと肩に手を置く。

私はその行動に反射的に驚き、少し声が裏返って恐怖し涙目になる。


「フフ、なんておいしそうな女の子なんやろ…… 特にこの頬っぺたうまそうや」


私は体を迫られ狐の妖怪に食べられてしまうと死を覚悟した。そう覚悟した時だった……


「フフ、なんて~、嘘や、嘘嘘!」


先輩の怪しい声のトーンは一気に明るく愉快痛快なトーンに変って、私をからかっていた事を告白した。


「いや~、ついついウチの出来心で」


「ブー……」


私は思わず口を膨らませて怒りを現にする。

そう怒った私に狐先輩も謝って、改まって自己紹介をしてくれた。


「改めてウチは三年生の桐山紺子や!」


「紺子先輩……」


「あんたはなんちゅうの~?」


紺子先輩は自分の紹介が終わると、私にも嬉しそうに自己紹介をするように言う。


「一年の、宮崎楓、です……」


私は少し暗いトーンで戸惑い、言葉が途切れながらも自分の自己紹介をする。


「へへ、楓ちゃんか、かわええな~」


「う……」


また狐、じゃなく紺子先輩はさっき頬擦りしている時と近い表情で見てきた。

これはまた、頬擦りの刑が執行させるのか、私は悪寒がしていたがしばらくすると紺子先輩は真剣な表情になり、私にあることを頼んで来た。


「なあ楓ちゃん、お願いがあるんよ」


「う、は、はい……」


紺子先輩のその真剣な顔を見て、私は耳をしっかり傾ける事にした。


「じ、実は楓ちゃん音楽好きそうやんか……」


まあ、私はフォークソングは大好きであるが

あ、しかし玉置さんは別である。

という具合に偏りがあると思うが私は音楽は好きである。


「だからな、音楽同好会に入って欲しいんよ~」


紺子先輩はすがるような声で頼んできた。


「え……」


私は人見知りだし、そんななにじめるかどうかも分からないし、色々迷惑かけたくなしそんな感情が勝手によぎってその誘いは断ろうとした。が、しかし……


「ウチ合わして三年生3人だけで、同好会になるためには4人いるんやけどいつも吹奏楽学か軽音部にとられてあと一人たりへんねん!

このままやと部活なくなってまうや……」


紺子先輩は凄く悔しそうな顔を噛みしめながらそう言った。

しかし、こんな私に絶対にどっちて足を引っ張るし…… 人見知りではうう……

頭の中で私はそんな風に影踏みをしてしまう。


「頼む見学でもいいから来て、なあ?」


凄く強引に迫る紺子先輩。

私は先輩のそんな真剣な思いと強引さに乗せられて第二校舎の旧音楽室に向かった。


第二校舎 旧音楽室前にて


「さあ入って入って!」


先輩は何の躊躇もなくドアに押し込み、私は旧音楽室の中に入れる。


「三笠ちゃん! 凪! 新入部員連れて来たで~」


まだ私は見学をしに来ただけなのに、狐の紺子先輩は入部したと勘違いさせるような発言をする。


「え! 紺子ちゃん本当?」


「バカ三笠どうせまた強引に誘って来たんだろ……こいつの事だから」


どうやら、この先輩方はまだまともそうで助かった。見る限り紺子先輩みたいに厄介そうではなさそうだ。


「紹介するわ! こっちのおっとりしてんのが早見三笠ちゃんで、この色々頑固そうなのは凪な!あ、名字は松山」


三笠先輩はなんだかフワフワとし、可愛らしく親しみやすそうな感じがする。

凪先輩は少し気を張っている感じがして、紺子先輩とは違う意味ではめんどくさそうだ。


「わ、私てそんなおっとりしてるかな……」


うん、確かにそれが親しみやすさを感じさせるのかも知れない。


「おいなんだよ色々と頑固そうて!」


「いや~だって凪、昔から頑固やん~」


まあ、この気を張っている感は昔ながらの凪先輩の持ち味なのだろうか……


「お二人は幼なじみなんですよ~、あ、えっと……」


「一年の宮崎楓です……」


「あ、楓ちゃんね、よろしく」


「は、はい……」


よろしくとは言ったがまだ部に入ると決まった訳ではないが……


「たく、紺子はいつも私をちゃすな」


「うう、楓ちゃん…… 凪が怖いよ~」


紺子先輩は凪先輩に恐怖して、私を寝る前の女の子たちのお守りのテディベアみたいに前から抱き締めてきた。


「はう!」


テディベアのように強く抱き締められた私は紺子のお胸が顔に窒息する。


「こらお前やめろ、てか死ぬだろそれ」


「大丈夫大丈夫、ずらすからずらすから」


「いや、ずらすだけじゃなくてさ……」


「皆さん遊んでないで、部活紹介しましょうよ~」


話が凄く脱線してこのままだと永遠に二人の押し問答合戦になりそうだったのを見越して三笠先輩が腕をバタバタと駄々をこねるような事をして二人をまとめさせ、私への部活紹介が始まった。


部員はいたってシンプル、自分達がやっている楽器の紹介と演奏をするというものだった。やりたい楽器があったら顧問の国語教師の玉置先生が教えてくれるそうだ。

そして、演奏が終わると自然と雑談していて私もぎこちないしゃべりだったが参加した。

とても言葉が途切れ途切れになってしまっていた。しかし、みんな嬉しそうに色々と聞いてくれていた。そして先生もきた。

先生は私にどんな音楽が好きなのかを聞かれたのでそれを皆に答えたように繰り返し話した。

雰囲気も悪くなかったし、親しみ安そうだし、楽器も引いてみたかったので一応仮入部をした。

そして次の日からアコスティクギターを触らせて貰ったり、実際に弾いてみたりしてみた。弾くと以外と難しく苦戦したが、弾けるようになりたいし、何よりこの先輩たちとならと思い私は入部を決めた。


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