第04話 金髪少女の決意-02

「分かりました私入ります、先輩たちの部活に入ります!」


葛城さんは悩みのない真っ直ぐな瞳で先輩を見つめ自分の決意を表しながら、そう言い放った。


「柚菜ちゃん……」


「葛城さん……」


俺達は真っ直ぐな瞳で言った曲がりのない言葉を聞き、少し驚きで静寂するもすぐににこりと嬉しそうな顔になり、お互いを見合う。


「本当ですか!」


「本当よ」


「そうですか」


そう俺が問うと、葛城さんは表情一つ変えずその決意に揺らぎが無いことを示した。

決意を示した葛城さんの言葉を聞き、俺は口角が上がり、自然な微笑みが出た。


「柚菜ちゃ~ん!」


「わっ、せ、先輩」


先輩は口角よりも先に気持ちが上がり、今度は嬉しさのあまり葛城さんに抱きついた。


「ありがとう柚菜ちゃん!」


先輩はぎゅっと葛城さんに抱きついて、頬をスリスリとよせる。


「フフ、もう先輩てば」


葛城さんはそんな無邪気に体を寄せてくる先輩に笑顔を溢しながら、先輩の頭を優しく撫た。俺は仲慎ましそうにする彼女たちを見て、自然な笑顔が溢れ出し、心から葛城さんを祝福するのであった。


「ありがとう葛城さん……」


「う、うん……」


「ヘへ、柚菜ちゃんまた照れた」


祝福され素直に喜べず撫でる手を止め照れた葛城さんを、ニコニコとしながらからかう先輩。


「も、もう先輩てば」


「はうう……」


からかう先輩のせいでさらに照れてしまったのか葛城さんは撫でるのをやめた手で先輩の両頬を軽く掴んで、しばらく先輩の口がからえないようにした。


「おお、ああいえおうああん」(もう、話してよ柚菜ちゃん)


口を軽く封じられたせいで母音しか話せなくなり先輩が、少し早口ぎみで必死に両頬を掴んでいる腕を離すように言う。


「フフ、嫌です」


しかし、今度は仕返しとキラッとズルい表情をして葛城さんはその腕を離そうとしない。


「あうう、うああんのいいあう!!」(もう、柚菜ちゃんの意地悪!!)


先輩は自分の意地悪な行為を仕返しされ、焦って声を荒げ抵抗しようとし少し半泣きになった。


「フフ、冗談ですよ、冗談」


しばらく少し半泣きになる先輩を観察した後笑いながら葛城さんは腕を離して、先輩をしてやったりとした表情で見る。


「はうう、ごめんさい」


腕を離してもらった先輩は、とても反省したようでさっきとは全然違う声色で話して葛城さんを魔女に怯える小人のような目で見つめる。


「もう、仕方ありませんね」


金髪の可愛い魔女は意地悪そうに言って、腕を離してピクピクと怯える小人な先輩のおでこを優しくツンと叩いた。


「仕返しです先輩」


「はうう、調子に乗りすぎました~」


「フフ、ウフフ」


「ヘへ、えヘへ」


二人のじゃれあいに方がつくと二人は顔を見て自然に微笑んだ。

気品がありいかにも女の子らしい葛城さんの微笑み、天真爛漫でとても笑顔が素敵な先輩の微笑み、そんな二人を見て俺と先生は何故かおかしくなり少し声を大きくして笑った。


「はは、なんですか二人とも」


「フフ、たく私らは何やってるんだか」


俺と先生は穏やかな微笑みで二人を見守る。


「まあともかく、入るならこれにサインしろ葛城」


先生は俺と同じ穏やか微笑みのまま、部員登録の紙を出して正式に顧問の玉置早苗先生は葛城さんを迎えた。正式とは言っても、非公式の正式なのだが、それはいずれ何とか公式にする事を神に願いたいものである。

なにわともあれ、早速の新入部員しかも経験者は人数が壊滅的なこの部活では嬉しい限りである。


「はい、先生!」


「よしよし、判子判子」


先生は服の内ポケットから玉と書いてある判子を取り出して上機嫌そうに紙に押す。その姿を慎ましやかに見る俺達。


音楽同好会部員登録用紙 

    1年3組 葛城 柚菜

             印 玉


部員登録の用紙に難なく名前を書いて先生に判子を押され、これで葛城さんも音楽同好会(非公式)の一員になったのであった。


「よろしくね、柚菜ちゃん!」


「よ、よろしくお願いします葛城さん!」


元気で明るくよろしくを言う先輩につられて、俺も慌てて先輩に合わせて同じように言う。


「よ、よろしく!」


俺達の歓迎の言葉に葛城さんは笑顔で笑って答えて紙を先生に渡す。渡された先生は穏やかな顔で安心させるようにこう言う。


「お前も私達の仲間だ、だから迷った時困った時は遠慮せず私らに言えよ」


「なんか先生に仕切って言われるとちょっと照れ臭さいですよ」


「はうう……」


その言葉に俺と先輩は照れ臭くなり顔を赤くして、それをお構い無しに先生は俺達二人と肩を組んできた。


「うんありがとう、先輩、先生、茂明……」


葛城さんはそんな言葉を掛けられて安心しきってしまったのか、また涙を流してしまった。


「はわわ、ゆ、柚菜ちゃん!」


先輩は再び涙する葛城さんにはわわと言った調子で慌てて、今にも走り出しそうな感じで体をブルブルとさせる。


「はわわ、か、葛城さん!」


俺も先輩のはわわにつられて同じように慌てふためく。


「フフ、だ、大丈夫だよこれ嬉し涙だから……」


慌てふためく俺達を見て葛城さんは嬉し涙だと微笑みながら服の袖でそっと涙を拭った。

そんな葛城さんを見ると俺達はすぐに安心し、ほっとなり焦りが収まった。


「もう葛城さんでは……」


俺はほっとしてため息が不意に出る。


「もう、てっきりまた悲しくなっちゃったのかと思ったよ~!」


ほっとすると先輩は顔を急に少し怒りぎみになり、顔を膨らませながら葛城さんに注意をした。そう怒る先輩がなんだが小動物が吠えてるみたいで可愛いと思い、俺は少しぽっとなった。


「フフ、ハイハイすいませんすいません、フフ」


葛城さんもそんな先輩に可愛さを感じったのか、すぐさま笑顔になり反省していないように謝る。


「もう、絶対柚菜ちゃん反省してないでしょう!」


「いえいえ、そんな事ないです先輩~」


何も濁りのない声の明るいトーンから全然反戦していない声が手に取るように伝わってくる。


「そ、そうですよ先輩~」


俺は緩んだ顔で先輩を見て念のため葛城さんのフォローを入れ、その顔でチラチラと先輩を見る。


「おいおい、なんだそんな下心丸出しな顔して」


緩んだ顔をしていると、先生が意地悪な顔をして図星をついてくる。


「え、せ、先生……」


下心など微塵もないと言えばそれは嘘になってしまうが、怯みながらもさっきまで緩んだ顔を何事もないように誤魔化す。


「何でもないですよ……」


「おい本当か、あっ?」


先生は悪びれた言い方で俺の体をつつき、嫌らしい顔でまた追及してくる。


「はうう、後輩くん……」


「うわ、茂明きも」


「ちょっと二人まで……」


二人に引いた態度を取られ、誤魔化す事ができなくなり俺は半泣きになりかけた。


「うう……」


確かに下心を持ってないと言えば嘘になってしまう。でも、先輩を悪いように穢れたようには俺は見ていない。だだ塀の上でシャーと吠えている子猫が少し可愛くにこりと眺めように見ていただけ、だだ純粋に目が惹き付けられ自然に顔が緩んでしまっただけだ。


「……うう」


しばらく下を向いて半泣きして溢れてきそうな涙を堪える。先輩に引く態度をとられて俺はとても自分恥じて、先輩に嫌われたという思いがその涙を加速させそうになる。


「……うあ」


「わあ!」


涙を出しそうになった瞬間、先輩が大きな声で驚かして来た。


「せ、先輩……」


俺は嫌われ嫌なやつへの捨て台詞を言われる覚悟するが、先輩は何やらニヤニヤとしていて何か様子がおかしい事に気が付く。


「冗談だよ冗談だよ、面白かっちゃっただけだよ」


満面で先輩は今にもイタズラに舌を出しそうな声でそう言う。


「え、えー!」


俺はどこかの国民的亭主並みに声がひっくり返って驚き、半泣きの涙も嘘のように引っ込んでしまった。まあ、何はともあれ先輩に嫌われた訳ではなかったので驚きはしたがその驚きが悲しみまで流してくれたようだった。


「まあ、私は普通に引いたけど」


「あ、先生もだ」


「て、そこは笑って先輩の言葉に便乗しといてくださいよ!」


俺は本音を言っている二人に今日最大なツッコミを入れて、俺達は盛大に笑い合った。

その後、適当に明日の予定を立ていると時間も他の部活の定時時間より30分ほどオーバーしていて先生が婚活に遅れるとの理由で部活は強制終了となった。





















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