第03話 金髪少女の相談者-07 END
「じゃあ、バイバイ柚菜っち!」
「バンドの練習頑張って来いよ!」
「頑張ってね柚菜ちゃん」
「柚菜さん、が、頑張ってください……」
「う、うん、行ってくるね!」
今日の授業も全て終わり、私は皆の出迎えを受けながらいつものようにバンドの練習に向かった。
「来たよ!」
「柚菜ちゃん来たね~」
練習場所の小屋に着いてドアを開けると、幸がお菓子やお茶などを用意しながら私を嬉しそうに出迎える。
「今日のお菓子は最近できたホップコーンのお店から買って来たんだ~」
そう言って幸はルンルンした気分で色々とお菓子を出している。いつもこのような感じだ。何も問題はない。
「……」
「うん、どうしたの柚菜ちゃん?」
私は何食わぬ表情で嬉しそうにしている幸を見て一瞬思考を停止させる。
「え、あの今日ちょっとさ寝坊しちゃってさ……」
幸を心配させないために私は今日あった出来事を適当に話す。
「へ、大変だったね」
「そうなのよ、久しぶりに全力疾走して腰が抜けちゃってさ、もう友達に迷惑かけちゃったし……」
幸は親身になりながらいつものように話を聞いてくれている。昔から今もこの優しそうな感じは変わらない。
「柚菜ちゃんが遅刻だなんて珍しいね、フフ」
「うん、多分初めてかも入学してから」
お菓子つまみながら、私たちはいつものように雑談をしている。
「来たぞ、お前ら!」
私たちが話しているとドアが開き聞きなれた元気な男の声がこの小屋に響く。
「せ、聖也!」
「もう遅いよ、いつもいつも」
聖也がいつも最後に来ることもいつもとないも変わらない。そして、その遅刻に対して幸が呆れるように注意するのももう見慣れた光景である。
「よし、始めようか二人とも!」
「もう、聖也は調子いいんだから!」
「……」
そんなお決まりの掛け合いが終わると、私たちはいつものようにバンドの練習に入る。
「チューニング、チューニングと……」
相変わらず幸は顔をニッコリとさせながらベースに触っている。よほどベースが好きなのだろう。
「おっと、お前はちょい高い下げろ下げろ」
聖也はいつも慌ただしくチューニングをしている。結成した初日とこの感じも変わらない。私はと言うと至って普通にドラムの音を合わせ二人が終わるのを待っている。
「で何する?お前ら」
「ライブのセトリ通りの通しでいいんじゃない」
「あ、それなんだけど新曲入れたいんだけどさ、いいかお前ら」
聖也がそう言って私たちに譜面を渡して来た。
無題
作曲 聖也 作詞 幸
「……」
「あ、私が書いたやつ……」
「今回の曲の感じはなんか柚菜より幸の詩の方があってる気がしたから」
何気なくそう言う聖也、でも何年か前からか幸の詩を使う頻度が多くなってきている気がする。私はそんな疑心を誤魔化しつつ、皆との練習に心を向け、何事もないように練習に打ち込んだ。
「よーし、終わり終わり!」
「イヤ、今日も疲れた……」
「じゃあ私用事あるから」
「どうしたんだ?柚菜一緒に帰ろうぜ?」
「今日は急いでるから、車呼んでるから」
「そうか……」
二人に素っ気なく対応して、小屋を出て誰も知らないような遠い周りの道で家路を歩く。
「……」
私がこうやって聖也を騙して一人で帰ることは珍しくない。でも、今日は少し悲しみの訳が違う。説明をしておくと、幸と聖也が私を差し置いて色々としていたという夢は事実である。そして、悪口を言っていた事も。
多分、そんな夢を見たせいでこれまで蓄積した悲しみが一気に崩壊してしまったのだろう。私はそんな崩壊して溢れていく悲しみと向き合うたび、もうどうしていいか分からなくなり、一人で帰ってしまったという訳だ。
「……」
そんな悲しみを必死に抑制しつつ、足を家に急がせた。ともかく早く帰ろう、そう自分言いかせてそれ以外何も考えなくしようとした。
「私どうすれば……」
何も考えないようにしようと言った矢先、私はそんな一言を呟やき、デートスポットの公園の入口の前に立ってしまった。ここの公園には三人でも二人でも来たことがある懐かしい場所だ。最近はこんな所へデートしたりも遊んだりもしないので、まるで時間が巻き戻った場所に来たような感じだった。
大きな遊具には小さかった頃の私たちが遊んでいて、ベンチには私と聖也が仲良く話している姿が今でも浮かんでくる。懐かしさに浸りきり、私はもう満足したと思い帰ろうとした。しかし……
「あ……」
「う……」
帰ろうとし出口に方を向いた直後、ベンチで聖也と幸が息を荒げながら、激しいキスをしているのを私は見てしまった。一瞬、隠れようとも思ったが、その場で立ちすくんでしまった。私はすぐにうつ向いて、視線を逸らしす。そして、私は涙を流した。あの時のように……
懐かしく思い出された私の中の風景が一気に崩れ去っていく。消し去れない記憶のはずなのに、音もなくして一週で私の中でその楽しい記憶たちが消されていくような気がした。
「ゆ、柚菜……」
「柚菜ちゃん……」
二人が私が泣き崩れている姿に気づくと、血相を変えて普段の私との二人を取り繕おうとしている。しかし、二人は私を呼ぶことしかできずその場で青ざめた様子で黙り込んだ。
「知ってたよ、二人とも……」
黙り込む二人に私は泣きながらゆっくりと口を開く。
「知ってた、知ってたよ、二人がそういう関係だって……」
私は涙を拭いながら、ぽつんと言葉を垂らして悔しさの涙目で二人を見る。
「でも、私皆とバンドしてるのが楽しかった、三人でどんな形でもいたいて思った……」
「……」
純粋な私の声でも、二人は反応を示す事はない。ただ私を警戒している瞳をしていた感じがした。
「でもまだ知ってる、私が邪魔だって事も……」
私はそんな瞳と感じると感情のあまり二人への核心を付く言葉を言ってしまう。
「そ、それは……」
その言葉口にするとやっと聖也は口を開き、言い訳でもしようとして失敗をしたのか口ごもる。
「……」
幸はその事に動揺しているのか、私の顔を見ないように下を向いている。
そんな動揺している二人を見て私は今まで溜まっていた二人へ負の感情が爆発し二人に怒鳴った。
「もう私は邪魔なんだったら、こんなセンスない使えないドラマーじゃなくて、ち、違ううまい人でも使ってデビューでも何でもしなさいよ!」
「……」
私が怒鳴ると二人は再び黙り青ざめた様子になる。
「う……」
私は悲しみを胸抱いたまま何も言わず走ってその場所を去った。二人の方に決して振り替える事もなく。ただ家に……
その日私は練習には行かずバンドを実質やめた事になっている。そして、二人には二度と会わないと心から決めている。が、スマホに入っている二人の連絡先は消すことができないでいる。もとい連絡など最近は取っていないが、履歴を見たら2週間前の練習の予定報告の事ぐらいしかない。それぐらい私などうでも良かったのだろう。
「……」
この事は親も友達も知らない。彼らは私がまだ楽しくバンドをしているとでも思っているだろう。
そして現在、私は彼らが心配するといかないと思い、必死にいつも通りの私を彼らに見せている。
「柚菜さん、どうしまったか?」
「う、うん何でも……」
そう必死に……
「なんか最近元気ないぞ?お前」
「え?そ、そうかな……」
しかしながら、私は周りから少し変わったように悟られてしまっている。
「柚菜ちゃん……」
「柚菜っち……」
4人は心配しながらも、あまり私に追及はしない。私を気遣ってくれているのだろう。
「だ、大丈夫だよ、みんな!」
気遣ってくれているので私も4人に気遣って笑顔で振る舞う。私もあの時の二人みたいに皆といる時の自分を取り繕っているのだと気が付く……
音もなく崩れ去ってたはずの記憶がまた蘇り、また心が悲しくなる。私はそんな日々を過ごしていくばかりで今にも張り裂けそうだ。
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