第02話 祝 女子と帰れた記念日-03

「……」

「があ……」


今、俺の目の前には大きめの鼾を掻いている学年一の金髪美少女葛城柚菜がいる。

数分前トイレに行こうとしたら、彼女の個性豊かな友達達に……


「ということで、もやし君頼んだよ~」

「すいません、奥谷くん頼みました」

「ブ、じゃあなもやし」

「奥谷くんとい言いましたね…… あなた柚菜さんに変なことしたら承知しませんわよ!」


と丁寧に頼まれたり、もやしとバカにされたり、忠告されたりし、俺は彼女を起こさなければならないのだがどうすればいいのだろう。


「があ……」

「あ、あの……」


初めての女の子を起こすという任務に戸惑い、頭も体をちじこまってしまい弱々しい声で彼女を起こそうとした。


「うう……」


案の定、起きる様子もなくふいに寝返りを売ってこちらを見ているような姿勢になり、鼾を収まっていく。それにしても、鼾が収まった彼女は宮殿に眠そべる女神のようだ。


「あの、その……」


俺は思わず起こすと目的を忘れて、彼女をずっと見てしまいたくなる。


「ぐ……んん」


葛城さんはこちらを向きながら、少しの微笑みを溢す。気持ち良さそうだ。


(あ……ヤバい)

俺は埒が空かないと思い、うっとりそうな自分を押し込み、腹から息を吸い込んで葛城さんに大声でこういった。


「お、起きてくださ~い」


歌で鍛え上げた声量で放たれた俺の声は教室中に広がり、周りのクラスの残された陰キャたちが俺と葛城さんの方を向く。


「あ……」


俺の声のうるささに嫌気が刺したのか、気持ち良さそうに寝ていた顔も一気に嫌そうでしかめた顔に変わる。


「……」


周りの俺の同志たちも、普段静かな俺の大きな人声を聞いてしばらく唖然としていた。

俺は内心、これでいいのかな?と戸惑いながら周りの様子と葛城さんの様子をオロオロと伺う。


「ああ、うるさいわね、何よもう」

「は、葛城さん……」


葛城さんはねぼけまなこで目を擦り、不機嫌そうに俺を見る。


「うん、あんた誰よ?」

「え、えっと僕は……」


俺は不機嫌そうな金髪美少女に慣れない様子で自己紹介とそれまで経緯を手短に説明する。


「ふーん、じゃああんたは佳也子達に頼まれて私を起こしてくたのね」


葛城さんはまだ寝起きで気だるさが少し残った表情で応えて感謝の意が全く見えない投げやりな言い方で礼を言った。


「まあ、あんたには感謝するわね」

「はあ……ありがとうございます」


とりあえず、礼を礼で返して自分の席に戻ろうとする。


「それじゃあ、僕はこれで……」

「待ちなさい、奥谷」



そのままその場を立ち去ろうとしたら、学年一の美少女は俺を引き止めた。


「え!?」


俺は足を止めた声をあげると瞬間、手を引っ張られて教室から廊下まで連れていかれた。


「ちょっと、どういう事ですか?こっち購買じゃないですよ」


彼女は黙ったまま、他の生徒に見つからないように裏取りしながら今は誰も人がいない第2校舎まで俺を連れていく。


「ちょっと……」

「……」


淡々と俺を第2校舎のどこかに連れていく葛城さん。その顔はどこか暗そうで最近の教室での葛城さんのようだ。


「……」


葛城さんは表情は変わらずいきなりその場で立ち止まる。


「え、ここて!?」


偶然なのだろうか知っているのだろうか?

今日から通う音楽同行会(非公式)の部室の旧音楽室の前じゃないか……


「え!?」


俺は訳がわからず頭がパンクしそうになったが彼女の行き場をなくした鳥のような瞳を見て、俺はこの娘の要件を飲む事にした。


「私、親友だと思っていた幼なじみの彼氏に裏切っられたのよ……」


学年一の金髪美少女は悲しそうな表情で床に座りながら俺に呟く。


「……」


俺は何も言わず、彼女の話を真剣な眼差しで聞く。


「私ね、バンドやってだんだ小学生の頃からずっと……」


葛城さんはふいに天井を仰ぎ見て、少し微笑んで二人の親友の事を語り出す。


「二人いるんだけど幸と聖也て言うの、幸はとっても優しくて私が困った時でも助けてくれて、聖也は私達こいつの夢に引きずり回されたけど、でも、一緒にいて気づいた、夢に純粋で素直なあいつが好きだったの、純粋で素直なやつだと思ってたのにそれなのに……」


葛城さんは聖也という人について語り出すと、

彼女の微笑みは今にも涙を流しそうに歯をしいしばる表情に変わり、その表情からは、彼女の裏切っられたという悲しみの怒りとどこから沸き上がる憎悪を感じる。


「……」


俺はそんな彼女を見て、何も言わずにただ寄り添うように話を聞く。


「聖也は私を……ぐ」


葛城さんはその場で膝で顔を隠して泣き崩れる。


「葛城さん……」


俺は自然と彼女を肩から手を覆い被せ、慰めようとする。


「こんな、俺で良ければどんな事でも話してください」

「ぐす……」


泣き崩れる彼女を優しい声で俺が包み込むと、彼女は小さく頷き再び語り出す。


「私ね、聖也と付き合ってだんだ……

楽しかった、幸も了承してくれて気も使ってくれたし応援もしてくれた……

デートもした、プリクラもとった、遊園地もライブも映画も行った…… でもね、キスとかそんな事はしてくれなかったの……」


葛城さんは昔の思い出を辛い心の痛みに耐えながら意識を必死に泣くことからしゃべる事に使う。


「でも私ねあの日見ちゃたんだ、幸としてたんだ色んな事……

しかも、二人とも私の悪口言って……ぐ

二人は私を騙してたの……何年も前から……」


彼女はすすり泣きながらも、初対面で出会ってまだ半日も立ってないボッチ野郎の俺に今までの悲しみをすべて吐き出そうする。


「信じられなかった…… 二人が私をこんなに邪魔に思っているなんて…… あんなに仲良かったのに…… ぐ……」


すすり泣きが、またどんどんと涙袋が膨らんで、悲しみの大きな粒がまた彼女の頬を伝っていく。


よほど酷い事を言われたのだろう……

辛かったのだろう……

死にたいほど悔しく悲しかったのだろう……


その気持ちは感じた工程は違えど、俺は痛いほど分かる。


「それに気づいたのは、1年くらい前

でもね、私あいつの事も幸の事も好きだったから、このままでいいからずっとあの温かく優しいあの三人で嘘で作られた偽りでもいいから一緒にいたいて思ちゃったの……でも、何週間か前私が直接見ちゃたの二人がそういう事してる所……」


葛城さんはうつむいてそう言いながら、悲しみを爆発させたような声でまた語る。


「私もうがんまんの限界で……

もう私は邪魔なんだったら、こんなセンスない使えないドラマーじゃなくて、ち、違ううまい人でも使ってデビューでも何でもしなさいよ……て言ってそのバンドも聖也の恋人と親友も、幸の親友もやめちゃったの……」


涙にまみれ言葉を少しつまらしながらも、俺に全てを晒す葛城さん。


「か、葛城さん……」


俺はその話を悲しみに打たれながらも必死に話して涙まみれになる彼女の顔を見て、俺も頬から大粒の涙を流した。


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