第02話 祝 女子と帰れた記念日-01

「ねえ?後輩くん?」

「え?は、はい、先輩!」


今、俺は必然的に先輩と帰宅している。ちなみに先輩は徒歩で俺は自転車を押しながら先輩と一緒に帰っている。

 

「それでさ、その人の音楽に最近はまっちゃってさ……」


最近のマイ歌ブームの情報をニコニコと嬉しそうに話す先輩。しかし、はまっている人は一体……


「後輩くんはこの人の事はどうなの?」

「え、え!」


俺は長時間の女子との接触に極度の緊張のせいか先輩の話をあまり聞いていなかった。

俺は取りあえず、何を言っていたのか記憶をたどる事にした。


約12分前 校門前にて


俺が頭が幸せで天に召された後、ちょうど良い時間なので帰宅しようと自転車を取りに行って校門前まで急いた。


(はあ、今日は色々あって疲れたな……買ったギャルゲーの続きしたいな……)


と疲労を早くも癒したいと思い、自転車をを急がせ校門を出ようとする。


「あ、後輩くん!」


門を出た瞬間、今日覚えたての栗色の髪と元気そうな声が視界と聴覚にすぐ反応して自転車をその場に止めた。


「せ、せ、先輩……」


自転車を止めて、俺は先輩のおぼこく可愛らしい顔を見て、初恋の人スイッチが入り赤面してソワソワする。


「一緒に帰ろう、後輩くん!」


彼女は何の疑問や感心も抱かず、ソワソワしてうつむきかげんな俺の顔を無理やり覗いて、無邪気な子供の妖精が遊びに誘うように言う。


「え!」


俺は嬉しさの驚き思わず大きな声を出した。

こんな声を学校であげたのは始めてだ。


「後輩くん……ダメ?」


先輩は俺の反応を迷惑と勘違いしたのか、しょんぼりとした顔をして妖精の羽が萎む。


「いえいえ、か、帰りしましょう先輩!」


俺はそれを必死に否定して、強く一緒に帰宅する事を肯定し妖精の誘い受けた。


「本当!?」


その誘いを受けると先輩は妖精の羽がかピクピクと動き出すように元気になり、先輩は同じ家路の方向だと分かるとそのままニコニコとしながら俺と帰った。


「へへ、初めて誰かと一緒に帰っちゃった……」(小声)

「……」(お、落ち着け俺!)

これ以降の事は、極度に緊張していたせいか全く思い出せない……


現在


「後輩く~ん」

「そ、そうですね……」(ヤバイ、本当に何の話だ……)


繕う表情と濁す言葉で先輩を誤魔化し時間を稼ぎ、思い出そうとしたは良いもののやはり思い出すことはできずそのまま適当な答えを返すしか選択肢がなった。


「え、あ……はい!いいですね」


また表情を繕い先輩の好きなアーティストを知っていた風を装う。


「フフ、同志がいて私も嬉しいな~」


先輩の心から嬉しそうな顔を見て余計に本当の事が言いづらくなり、このまま嘘を突き通そうとするしか術がなくなってしまった。

そう俺は心から焦りつつ、表情を繕い続ける。


「ぼ、僕も嬉しいです先輩!」


俺は繕ろうだけでなく、変に先輩のテンションに乗っかってしまいもう俺は後に引けないと嘘を突き通す覚悟を決めた。


「あ、私もうここ渡らなきゃ……」

「あ、そうですか」


俺の意識も回復して、話がこれからだと言うのに先輩は違う帰路に向かうべく十字路の横断歩道を渡っていてしまった。


「じゃあバイバイ!また明日!」

「はい!ま、また明日!」


乗せられたテンションのまま先輩に手を振って俺は別れを告げる。


「……」


しばらくの間、俺は鮮やかな栗色の髪の後ろを眺めている。その姿を眺め嘘を長引かせず済んでほっとする反面、先輩の好きなアーティストが誰か分からなかったのがすごく惜しい思いが俺の中に芽生えた。その二つが上手く循環しきれずにもどかしさを残し俺は今日を終えた。

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