第01話 はじまりの出会い-05 END
「奥谷茂明だったな」
「は、はい……」
先生は授業でも厳しい感じなのだが、その厳しい感じで面接をしているような感じになる。
名前を聞き終わると、先生は俺に近づいてさらに厳しい視線を俺に向ける。その視線は普段やる気のない生徒を見る視線に似ている。
俺はこんなにじろじろ先生、しかも女の人に見られた事がないので変に汗が出そうになる。
厳しい表情はしだいに眉がひそまり、疑いの感情を俺に伝わっていく。
「奥谷茂明……」
「は、はい!」
この先生の表情は普段注意する表情と似ていると思ったので、普段注意されることの俺は少し声が震えた。
「お前本当にやる気あるのか、この部」
先生は直球にそんな事を聞いて来た。
「あ、ありますよ……何いってるんですか先生」
先生は腕組みをして俺に迫り、厳しい疑いの表情が俺にどんどん近づいてくる。
「本当か?」
先生のそんな表情に顔が臆面になる。
確かに先輩にあれな部分もあり成り行き感いなめない入部である。でも、この根暗に過ごして来た小中学校生活の中で、そんな悲しい連鎖をたち切ってくれた事には変わりない。
だから、この部活に入りたいと思う気持ちは世界の誰よりも負けなかった。無論、やる気も世界で誰よりも負けない。
「ほ、本当です……先生!」
俺は目に火花を走らせ、やる気の決意をこの視線に込めて先生に言い放った。
「……」
先生は俺の視線をじっと見つめて、俺の顔に厳しい表情のまま触れた。
「……」(ゴクッ)
俺は先生に顔を触られて、変な緊張を覚えてたのか唾を少し飲み込む。飲み込むと同時にこのままでは埒が開かないと思い、俺は見つめている先生に負けまいとさらに火花を散らせて熱い視線を送りながら、こう言ってやった。
「……」
「ほ、本当です!お、俺はこの同好会を成立……いや、軽音部にしてみせます!」
俺が熱く先生に訴えると、先生の厳しい表情は少しずつ緩み、さっきまでの緩い感じの先生になり、先生は突然腹を抱えて笑いだした。
「はは」
「な、何がおかしいんですか!」
俺は笑う先生に真剣な声で反発する。
「いや、お前があまりにも真剣に言うからついな……」
俺の真面目さが死ぬほどおかしかったのか、ハンカチで涙を拭っている。さっきまでの厳しい形相が嘘のような光景を目にした俺は、真剣で思いつめられた感情と妙な緊迫感もなくり肩からふっと力が抜ける。
「はあ……なんなんですか先生」
力が抜けるとため息をつきながら俺はその場に崩れ落ちそうになった。
「悪いな、奥谷ちょっとお前を試させてもらった」
先生はいやらしい微笑みで俺を見て、全く反省のなさそうな謝罪をしてきた。
「そうですか……」
俺は疲れきった声で先生に答えて、その微笑みを見せられてさらに疲れが溜まりそうになる。
「あ、そうそうさっきの録音したからな」
そういって先生はイタズラ気に嬉しそうな顔になり、ポケットからボイスレコーダらしき物を取り出し三角を横に向けたマークのボタンを押した。
ボイスレコーダの音(ほ、本当です!お、俺はこの同好会を成立……いや、軽音部にしてみせます!)
その横三角ボタンはやっぱり再生ボタンだったのか、先生が録音した俺の声が流れる。
俺は今までに聞いたことないぐらい真剣な声で言う臭いセリフを聞いて、ものすごく恥ずかしくなり、そのレコーダを先生から奪おうと先生に掴みかかろうした。
「先生返してくださいよ」
「いいじゃねか~、初めての青春の思い出の記念てことでさ!」
先生は以外にすばしっこく、なかなかボイスレコーダを奪う事ができない。しかも……
「あ……なんてカッコいい茂明君、これで狙いの先輩もいちころだなぁ~」
先生は俺に茶化しながら、何度もボイスレコーダをリピートして俺を肉体的にも精神的にもバテさせようとしてきた。
「くそー、なんか色々ツッコミたい所があるけど早くそれを渡せ!」
俺は先生への敬語も忘れて奪う事に夢中になった。しかし、2分ほど激しく取っ組み合いになったがなかなか奪う事ができず、俺はその場に転げ落ちた。
「は……もう無理」
「やれやれ、この程度か」
俺は全力疾走したかのように汗をかき息を切らして、先生に普段大人しく真面目な国語の女国語教師とは思えない圧倒な運動神経を見せつけていた。ちなみに、先生は厳しいというレッテルのあまりか回りの生徒たちから友人関係があまり良くなさそう思われており、他の先生からも玉置先生の話は一つも耳にしたことがない。
「なんかお前、すごくお節介な事を心の中で思わなかったか?ま、いいや」
床に崩れ落ちる俺を憐れそう見つめながら感でなんとなく当たった追求もせずに、先生は奪おうとしたボイスレコーダを俺に渡した。
「せ、先生……」
「それは煮るなり焼くなり好きにしろ、あ、そうだ後はお前の大好きな先輩を呼ばなきゃな」
俺はボイスレコーダーを返されてほっとした瞬間、賑やかにからかう先生の言葉を聞き、その気持ちが妙な苛立ちによって書き消された。
「後輩君大丈夫だった?」
疲れて椅子でぐったりとしていると先輩が心配そうに話しかけてくれた。
「ええ、まあなんとか……」
俺は疲れを隠そうと引き摺った微笑みを返す。
それにしても、この面接は意味があったのだろうか、俺は大丈夫にして安心し喜ぶ先輩よりもその疑問がふと頭に浮く。
「まあ、お前のやる気はわかった?それでお前楽器は?」
「はい!えっとギターを少し……」
「そうか、じゃあギター♪ギター♪」
「え、え!」
先生は何の前ふりもなく楽しく歌いながらボロそうな倉庫部屋から余っているギターを持ってきた俺の能力チェックを始めてきた。
どうやら、今からが本番のようだった。
「え?後輩くんギター弾けるの?」(ワクワク)
先輩は興味深々で俺を見てくるので、俺の中で変にハードルが上がる。
「ま、まあ……コードをならすぐらいは」
先輩の中のハードルを下げるため俺は控えめにそう言う。さっきの演奏を聞いた限り確実に先輩の方が上手いだろう、第一俺はファイブピッキングやハンマリグは少ししかできない。
「う、歌は自信ありますけど!」
これは何故か自分のプライドのせいかこの事は自信満々に言ってしまった。歌に関しては上手さは個人の評価だがくせや表現に関しては誰にも負けない自信がある。なにせ俺は人との対人関係を幾度となく拒絶し、俺の友達は歌だけだからなのだ……。
「はは……」
自信満々な気持ちと同時に現実の喪失感も感じて虚しい笑いが溢れる。
「じゃあ……」
俺はギターをゆっくりと優しく鳴らして、ボディを叩いてカウントを取って曲を演奏し始めた。
「うつむきかけた……あなたの前を……静かに時は流れ……」
俺は先輩が「長い夜」を歌っていたので、同じ松山千春の「季節の中で」を演奏する。
「めーぐる、めぐる季節の中で、あなたは何を見つけるだろう」
俺は高く強い声で切なさを表現しつついつものように熱く歌った。
「わあ!後輩くんすごい!」
先輩が思った以上に喜こんでくれたので、にやけそうになる自分を必死に抑えて、「それはよかったです」と顔をひきつられせながら普通に喜んだ様子を装い振る舞う。
「うん、新入りにしては上出来だ」
先生は俺のだいたいの実力を見極めたのか、納得したように頷いている。
「そ、そんな先生まで……」
先生にそう誉めらると俺は普通に照れくさく素の反応になって、自然に少し口角が上がる。
「フフ、後輩くん嬉しそう、かわいい」
先輩に森にいる小動物を見ているように俺の素の笑みをかわいいと言われて、俺は心の中の気持ちが最大限に揺すられ、頭の中で後輩くんとかわいいという先輩のさっきの言葉が交差する。
「あ、いや、その、えっと……あの」
俺はその交差する言葉のせいで俺の言語能力と思考がショートして、胸に手をあってて心臓の鼓動を感じると同時に何も言えなくなる。
「うう」
「あれ、後輩くん?」
「おいおい、こいつなんかショートしたんじゃねえか」
こうして、俺は成り行きで俺と先輩と先生しかいない非公式の音楽同好会に入部する事になった。
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