第01話 はじまりの出会い-03

「……」


俺はご馳走さまも言わず飯を無言で食べ終え、

階段下で弁当の片付けをする。弁当を鞄に入れて色々と思いすぎて疲れたので、イヤホンを外して現実の音を聞くことにする。スマホのブラックアウト画面を電源ボタンを押して、ロックを解除して時刻を確認してみるともう5時前であった。早く帰ろうと思ったのだが、この短時間の濃い出来事のせいで足を自由に動かす事ができなかった。それと、俺の帰り道の帰路は約45分掛かる。

その事を考えたとたん、帰る事の気力を無くしたのか俺は何分かそこに静止する。今日の疲れを忘れるため、目を閉じて耳を意味もなく耳を澄まして見る。

しばらくすると、2階の方から何かの音が聞こえてきた。良く聞くとアコースティックギターの優しい音色のようにも聞こえる。

俺はそのギターの音を聞いて疑問に思った。

この学校には音楽の部活は吹奏楽部しか存在しないはずなのだ。吹奏楽ならジャズでも演奏しない限りギターなど使わないし、なんせ聞こえてくるのはアコギの音だ。

しかも、指弾きをしている。音を聞く限り相当な腕をお持ちのようだ。俺はそんな疑問と好奇心に駆られ、疲れなど忘れて2階にかけ上がった。

「恋に……揺れる……心ひとつ……」

上に近づくにつれ、歌の歌詞が聞こえて小さくだが聞こえてきた。

「お前……だけを……」

「追いかけているよ……」

俺はその声を似合わせて、聞き慣れしんだ歌を女性の声に合わせてふと口ずさみ、階段を上がりきってその歌声がする方へ耳を頼りに足を向かわせる。

「おいで……ここへ……僕の……そばに……」

バラードなアコギバージョンの松山千春の「長い夜」の女性の歌声はなにやら1階を上がってすぐの使われなくなり倉庫に使われてるかすら怪しい音楽室からしていた。

俺はその音楽室の扉の前に立って、その歌声を近くでもっと聞きたいと思いドアを少し開こうした。

「燃える……ような……口づけをあげる……」

指弾きでサビヘ入る前の伴奏のメロディーラインがが美しい奏でられると同時に俺はドアを少し開けた。

「長~い夜を、飛び越えてみたい」

その歌声は近くで聞くと透明感と美しい繊細さがあった。そして、そのきれいな歌声に俺は心奪われ、声の主をもっと間近で見てみたいと思ってもっとドアを開けてみた。しかし、ドアを開けても彼女の姿がよく見えなかった。なので、彼女にばれないようにドアをゆっくりゆっくり力を入れてもっと開けようとした。


「お前……だけに……この愛を誓う~!、星降る夜に誘われて……戸惑う……二人……」


「わ、わあ!」


彼女の歌がタイミングよく終わると、ドアがいきよく開いて俺は旧音楽室の入ってすぐの床に倒れ込んだ。


「うう……」

「……」


俺は倒れてうつ伏せの状態から目をばれない半開きにして彼女の姿を見ると、彼女は今の状況が理解できないと言った感じで倒れ込んだ俺を不思議そうに見つめていた。一方、倒れている俺はというと、半開きの瞳で彼女の姿を確認していた。

確認して見るとまあ、なんとも可愛らしい女性なのだろう。栗色の髪に茶色の瞳、なんと言っても甘く可愛らしい顔、不思議そうに見つめる表情がまたなんとも言えないぐらいかわいい。


「……」

そんな彼女が不思議そうな表情のまま、倒れた俺に近づいてくる。


「あの、大丈夫?」

「は、はい!」

彼女に話しかけらると、半開きの瞳をパチリと開けてその場で上半身を起こして座った。

「君?どうしたの?」

彼女は俺の動揺する心などお構い無しで、俺のまじまじと見つめてきた。

「え……」

俺は顔を赤くしながら、しばらく床に座ったままでいた。


「そ、その、何か音がするなて思ってたどって来たらたまたまここで……」

恥じらいながらも、俺は栗色の彼女にあったままの事を包み隠さず説明した。

「そう」

栗色の彼女が納得した顔をすると、俺はともかくこの場から去ろうと思ったのが……

「ねえねえ?君の名前何て言うの?」

「はい?」

あまりにも予想だにしない問いかけに俺はまた静止しかけたが、止まりそうな思考回路を動かしその問いに答える。


「奥谷、茂明ですけど……」

俺は途切れつつも自分の自己紹介をする。

「へえ、茂明くんて言うんだ」

名前を聞けて彼女は満足そうに微笑み、俺はその笑みに終始見とれていると彼女は再び口を開いた。

「そういや、君いつまで床に座ってるの?こっちの椅子に座りなよ?」

そう言われて俺は見とれるのをやめて、その場に立って彼女の言われるがままに奥に並ぶ十数の学習机と椅子の方に誘導されて彼女が座った席の後ろの席に座った。


「よいしょっと……」

彼女が俺に続いて椅子に腰かけると、横においてあった女子にしてシンプルな灰色のチェック柄のストラップがついたアコースティックギターを肩にかけた。


「よーし、茂明くんなんか歌って欲しい歌とかある?」

彼女は嬉しそうギターで明るい音をならしてそんな質問をしてきた。

「え、と、特にそんなのは……えっと」

いきなりの好意的な彼女の行動に、俺は上手く対象しきれないでいる。

「うん……じゃあメロディーでもいっとく」

やる気満々にそう俺に言い放して、彼女が何をしたいのか全く分からないのでさらに俺は戸惑い、反応に困る。


「ワン、ツー、スリ」

「……」

戸惑う俺など気にしないで彼女は勝手にカウントを取って演奏し始める。俺はとりあえず淡々と彼女の歌声を聞くことにした。

「メロディー……泣きながら~、僕たちは、幸せを……見つめたよ……」

彼女の歌声は素敵である。透明感があり透き通る声でしかも表現力が相当な物だ。至近距離で聞くことにより、その事がよく分かる。そして、歌っている時の彼女はせつめさとその中にあるかすかな光みたい感じがした。俺はそんな歌声に聞き惚れて、頬が少し赤く染まり再び静止し拍手を自然と溢す。


「へへ、ありがとね付き合ってくれて。あ、そういや、まだ名前言ってなかったな私。て、あれ、おーい茂明くん?」

彼女は俺の顔の前で手のひらを上下に降って、俺の意識を戻そうとしている。

「え、は、はい!」

俺は我に帰ってビックリした声を上げ、彼女を見る。

「えっと改めてまして、私は2年の宮崎楓よろしくね、後輩くん!」

彼女は自己紹介すると俺にいきなり手を差しのべて、窓の向こうに移る夕日とバックに彼女の笑みが照らされる。俺はその可愛らしい笑みにまたみとれてしまう。


俺「よろしくお願いします。せ、先輩……」

初めて発する先輩という言葉に戸惑いながらも、「先輩」と言って手を差し返す。

「うん、こちらこそ」

微笑みながら先輩は俺の差し返した手を握って、女の子にしてはガッチリとした握手をしてきた。その握手はまるで、旅であった旅人たちの馴れ合いの握手のようだった。

その程度の握手なのだろうが、俺は何か胸の高鳴りが込み上げてくるのを感じた。一体この感情は何なのだろうか……、微笑む彼女を直視できないながも見つめつつこの疑問を解決しようとしたが一体どうして良いか分からない。


「ねえねえ、君さこの部活入らない?」

疑問な感情を抱かせる彼女は唐突に部活の勧誘してきた。

「は、はい……」

その勧誘に小さく返事して、ニコニコと嬉しそうに足をバタバタさせる彼女を見ながら俺はその話を流されるように聞いた。

「そのね、まだ非公式な部活なんだけど」

自分から部活の勧誘をしておきながら、彼女は恥ずかしそうに話す。

「このボロボロな昔の音楽室で音楽同好会をやってるんだ、部員はまだ私しかいないけど……」

恥ずかしいのをごまかすために少し笑って、彼女は勝手に勧誘の話を進める。

「はあ」

俺は色々と彼女が説明する音楽同好会についてだた呆然と頷く。

「だからさ、入ってくれたら嬉しいな後輩くんが……」

彼女はもの欲しいそうに俺を見つめてくる。

その可愛らしい瞳に見つめられ、胸がドキッとして脊髄反射で彼女に返事を返した。

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