第01話 はじまりの出会い-02

「はい、授業はこれで終わり」

授業のチャイムが鳴り響くと先生がそう言って、級長の号令がかかり今日の一日の授業が全て終了した。とは言ったものの、俺は遅刻をしてこの授業しか受けていないのでなんとも言いがたい気持ちである。授業が終わり自分の世界から我に帰ると、周囲の者達は俺が遅刻し変な空気になった事などなかったかのように、ワイワイといつものざわめきが鳴り響く。


「今日も部活頑張るぞ!」

「はあ……皆今日も部活だるくない?」

「おーい、お前ら遊ぼうぜ」

「ねえねえ、みんなでお店行こう!」

などと部活動や放課後の寄り道や遊びの事を話す声が教室を歩き、廊下を出ててもそこらじゅうに響き渡っている。そんな楽しそうなざわめきに干渉するも事なく、俺はこれから反省文を書くために一人誰も気づかれないように、3階から2階の階段へと向かう。


「はあ……」

現在、俺は職員室まで後数十メートルという距離の所にいる。

楽しそうな会話が聞こえなくなり、毎回駆られる疎外な憂鬱感は皆無に等しいぐらいなくなったものの、これからやる事に対するめんどくさ差は否めなく、ため息を漏らす。

「失礼します……」

「おー、茂明きたか」

中に入ると石田が入ってすぐの真ん前に立っていて、俺を奥まで丁寧に連れって行ってくれた。

                   

「茂明、すまないなさっきは怒り過ぎてしまって……」

石田は俺に怒った事に対して、度が過ぎたと思い謝罪してきた。しかし、俺はそんなに度が過ぎたとは思っていないし、あの怒り方であれば普段注意する生徒達の仕打ちより、1000%ぐらいマシな物である。


「え?」

俺は突然な謝罪に驚き、綴る石田の思いの口を耳をすまして聞いた。


「由実ちゃんに言われたんだよ、言い過ぎですてもっと生徒を心配してあげなさ~いって」

石田は普段の全く違う感じで、口を溢して来て俺の中ですごくギャップが生じた。


「は、はい」

「由実ちゃんに嫌われたかな、つい対立しちゃうだよな考え方が違うからさ」

ついでに石田が由実先生に対して、本当は好意的な事も漏らし、俺は少し笑みを溢す。

石田とそんな感じで話していると、今話題に上がっている由実先生が紙を持ってやってきた。


「!?」

石田は急いでいつもの覚めた表情を整えて腕組みをして、必死にいつもの自分を演じていた。


「奥谷くん、はい原稿!」

「あ、ありがとうございます」

「じゃあ、先生部活あるから後は石田と仲良くね~!」

由実先生は少しバタバタした様子で俺に原稿用紙を一枚渡して、俺たちに手を振って自分の担当の部活である女子卓球部がいる体育館へと駆け足で向かっていた。


「フ、緊張した……」

由実先生が職員室から出て行くと、石田はいつもの調子に戻って俺を奥にある生徒指導室の監禁部屋に閉じ込め、「頑張れよ」と少し親しげにエールを送られた。ちなみに、部屋の前にはしっかりと石田がいる。悪どもは、この部屋から脱出したがるのであろう。

窓がそれなりに大きいし、外は校門の通り道にある庭なので、2階からでも協力があれば多少のケガはするかも知れないが脱出する事ができる。それもあってか、石田は「校庭にも先生を立たしてるから逃げようとするなよ」とさっき言われた。


俺もそんなバカでないし、この学校に協力者などいないし、そんな事をする訳はないが……しかも、たかが250文字を書くだけで、原稿用紙1枚にも満たない。250文字を書きたくないがために自分の体と学校の信頼をかけて脱走するなど、バカな行為に等しい。


だいたい、逃げて何をするのだ?

遊ぶのか?ケンカでもしにいくのか?デートの約束でもあるのか?バイトか?死んだ友でもよみがえったか?はたまた、世界の危機がせまっていて一刻の有余もなくそんな事をしている場合ではないのか?


そんなハガげた事を考えてこの部屋に入ってものの35分で半分ぐらい文字が埋まった。反省文を書くのは初めてなのでか、意外に書くことが思いつかずたかが250文字であるにも関わらず、利き腕の左手がしばらく止まる。

しばらく左手を止めると、不快にも今日の事を思いだし、疲れがぞっと襲ってきて机に顔を伏せた。


「はあ……」

学校に来てから2時間足らずだと言うのに、何回のため息を溢した事だろうか。

疲れを感じながらも10分後、無事に250文字を書き終えてドアを開けて外にいる石田に書き終えた原稿用紙を渡す。


「よし、帰っていいぞ茂明……」

石田は渡された原稿を流し見して、それを違う先生に渡し行くためか俺を廊下に出すとそのまま職員室に戻って行った。廊下には沈黙が響き、俺はすぐに何事もなかったかのように歩き出して玄関に向かう。


は、イヤホンのさしてあるスマホを起動して1990年代の軽快なポップスを聴きながら、急いで玄関に足を運ばせようとしたのだが……


(ぐう……)


後数十メートルで玄関につきそう、しかも曲のサビ前の一番良い所で腹の虫が鳴った。

朝から俺は何も食べていないからだろう、今朝は起きてから鞄を持って顔を洗わず、すぐ学校へ自転車を走らせたからだ。唐突なタイムアタックは、元ベンチ代表、現在帰宅部にとってはものすごい体力の消耗だったろう。俺は空腹を満たすため、鞄に入っている旅行中の両親が用意してくれた美味しい弁当を食べる事にした。


しかし、困ったものだ食べる場所が思いつかない……

その場に座るのも、玄関を通る変な野郎に絡まれたり哀れな目で見られるのもあまりよろしくない。食堂に行こうとも思ったが、今は閉まっている。三階に戻って、自分の教室に行こうとも考えたが家のクラスは主力な仲良し集団がいるのでよく人が溜まる、仲良し集団でワイワイとアゲアゲでバイブスが上がってる中に何気ない顔で飯を食べるような精神は俺にはない。

そう考えた中で俺はある結論が出た。


この校舎に居ては一人で落ち着いて飯は食えぬ、旧校舎に行こう。


結論が出ると、近くに直通で繋がっている所から旧校舎へと向かった。通り道からグラウンドが見えて、たくさんの生徒たちが体操服やユニホームを着て運動している様子が遠くから見える。陸上部らしき誰も座っていないベンチの端っ子に目を向け、自分の中学の時の元ベンチ代表の思い出が蘇る。


思えばなぜ、やる気もなかったのに陸上部なんかに入ってしまったのだろう……


2000メートルの走り込みとパートナー(先生)との補強が終わると選択で距離距離、短距離、幅飛び、高跳び、など色々あった選択種目の中で一つ選び、楽そうなので短距離を選択したのだが、1年の時の1学期の頃は周囲の人間や先輩たちが仕方なさそうにリレーとかにも付き合ってくれていたのだが、夏休み近くになるとそれぞれ全員のレベルが分かってきて、それぞれの扱い方も決まってくる。

その頃になると、俺は全く戦力外なので毎回100メートルや200メートルを記録もろくにに伸びないのに走っていた。

たまに、ただひたすら校舎の敷地周りを長距離の団体と紛れて走ることあった、戦力外なので俺は大会の選手にすら選ばれない。

絶対出なくてはならない小さな大会でも全く生き残れず、俺は他の選手が全部走り終わるまでベンチに座っていたのを頭の中で走馬灯ように脳裏に駆け巡らせ、またもや嫌な事を思い出してしまった。


俺はやっと正気になり、今やるべき事を思い出す。

今、向かっている旧校舎は、授業ではほとんど使われる事はなく、文化部の活動の部屋に使われている。入学早々の部活見学の記憶が少しを思いだし、その記憶が正しければ3.4個数程度だったような気がする。当然、どこも厳重な事に鍵がかかっていそうなので俺はどこの部屋も開けようとせず、旧校舎の一階の階段で朝昼兼用のモーニングランチをいただく事にする。

飢えた獣の如く弁当を開けると、中にはご飯と赤シャケと煮物とキピンラゴボウという内容で昭和さながらの弁当であった。

その飯たちをほほ張りながら、俺はある白い髪の少女の事を思い出す。

この娘を思いだのは、もう何度目の事だろうか……

もう4か5歳の頃だろうか、思えば一瞬の儚いモテきだった。俺は孤児院に生まれた時から引き取られ、その孤児院に入るときから院にあるギターと楽譜を借りては、他の子達と混ざる事なく、音楽を一人楽しんでいた。

そんなある日、その少女がいきなり院に来て俺のまだおぼつかないギターと歌に興味を持っては色々話すようになり、仲良しになった。

でも、彼女と出会って1年も立たない内に俺は今の父と母に引き取られ、彼女と悲しい別れを告げたのだ。彼女との別れのショックと元々の内気な性格から、こんなダメダメボッチ人間ができあがってしまったのである。


あの娘の名前は何と言ったか……


食べるのを少しやめ考えたがいつからか分からないが忘れてしまった。

情けない事だ、唯一生まれてはじめてできた友達だというのに……

彼女も誰かに引き渡されたのだろうか、俺が彼女の名前を忘れた事よりそっちの方がはるかに心配である。



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