黒春宵花 黒き魔術師は君に訴える、ロリコンは犯罪です
昼寝は、夢も見なかった。
1,2時間くらい寝ただろうか。少し重たい頭を引き締めるように水を被り、頭と顔をまとめてざっと洗う。
適当な冷凍食品をレンジに放り込み、手抜きな昼飯とした。
一眠りして、だいぶ落ち着いた。
我ながら、朝から本当に不安定だなぁ……ははは。
ため息と苦笑しか出てこないね。
朝から半死半生だったし。
みかんさんと会えば、極端にテンション上がってたし。
他の人間のところに行かれれば、ものすごく落ちるし。
乱高下はげしすぎて、なんというか謝罪しか出ないです。
でも、顔を合わせるのはまだ不安なんだけどな。
とりあえず、食後のお茶で一服し。
VRシステムを眺めて、インしようかどうしようか悩む。
……少し気晴らしに、
レンタル空き地は入場禁止に変更したけど、インしたら会ってしまうかもしれないし。今はちょっと顔を合わせ辛い。
逃げてる自覚はあるんだけど、もうちょっとだけ、休ませて下さい。お願いします。
―――よし、ちゃんと謝った! だから今日はゲームやっていい!
逃避と分かっているけれど、それはそれ。遊ぶからには楽しまなければならない。
いそいそと引き出しからやりかけのゲームを取り出し、VRシステムではなくディスプレイにつなぐ。
『バグだらけの世界であるもの』
メーカー曰く、バグった製作者がバグったチームで作った世紀のバグゲー、ただしテストプレイは通常ゲームの十倍頑張った、とのこと。
なかなか頭が疲れるゲームなのでやりかけで放置してたけど、色々忘れて没頭するには頭を使うゲームのほうが良かろう。
お茶とつまみを手元に用意し、少しだけオフゲーを遊ぶ事にした。
舞台は、現実世界とは異なる理に縛られた世界。
異なる法の下、異なる情に従い生きる人々。
いや、人と言っていいのかどうか……多分、生き物たちが。不可思議な中で、一定の規則に従い生きている。
その世界に迷い込んだ主人公は、同じく迷い込んでいる妹を探して旅をする―――というお話。
なぜか定期的に分かる妹の情報を追いかけて、街から街を渡り歩く。
時に人外やケモノ、一般市民に襲われて、戦い、脅し、罠に掛け、騙し、買収し、手管を尽くして障害を乗り越えていく。
それらの行為が恨みを溜め人軸を狂わせ、今と未来に影響を与えながらそれでも進んでいく。
己が何者か、お前は何者か、常に問いかけながら―――
(没頭してます)
(熱中してます)
(白熱してます)
「―――ん?」
熊大帝の既婚の娘に差し出す
ふと気づけば、時計の針は8時を差していた。
って、すでに夜8時!?
どんだけ集中してたんだよ!(※8時間くらいです)
あー、そりゃ身体中痛くなるわけだわ。
流石に休憩しよう。
とりあえずゲームをセーブし、身体をほぐして残っていたお茶を呷る。
いやー、ものすごい集中してしまった。
バグゲー、おそるべし。
とりあえず、画面に表示されるセリフと、音声で聞こえるセリフがちょくちょく違うこと言うのやめてくれ。
おかげでボイスを飛ばせず、ちゃんと全部聞かないとゲームにならないという……
そのくせ、音の方がフェイクで文字が正解だったり、プレイヤーに対する罠が多すぎる。
説明書も嘘だらけだったしな……おのれバグ次郎。全然修正されないじゃないかよ、ちょっとバグとかそういう次元じゃねーじゃねーかよ!
……ふう。
だが、すごいゲームであることは認めよう。
クソゲーと切って捨てていい作品じゃない。確かに、十倍のテストプレイ時間を費やしただけのことはある。
でもまぁ、本気のバグの十個や百個まぎれてたところで、みんな仕様だとしか思わないだろうけどな!
休憩を終え。
何の気なしに、ルーチンワークでVRシステムを装着してブレイブクレストにログインする。
熊大帝の攻略方法をうんうん考えながら降り立ったぼくを待っていたのは―――
「……ライナ。
随分と、早い、お戻りね……?」
立ち入り禁止の空き地にただ一人待つ、笑顔のはるまきさんでした。
「あ……」
「言いたいことがあるなら、聞くわ」
あの、なんで立ち入り禁止の場所に居らっしゃるんでしょうか?
ああいえいえ、言わなくていいです、方法は知ってます。
立ち入り禁止と言ってるけど、実際はあくまで『その場所に入場することを許可する』という設定のこと。
最初から中に居る相手を追い出す効力はありません(追い出しは別の機能として存在する)
ただし、空き地内部でログアウトした人がログインしてきても、許可されていない場合は最寄のログインポイントへ強制移動させる。それが、
8時間後にこの場所に居るということは、すなわち―――
「……すみません、お待たせしました」
「ええ待たされたわ。
まさか、この場所でログアウトも出来ずに8時間も待たされることになるなんて、思いもしなかったわ」
はるまきさんは、一度も
傍らに山と積まれた座布団が、はるまきさんの待ち時間の長さを如実に現していた……
「ふふ。
ここまで私を待たせたんだもの、覚悟することね?」
その、妖艶で凄みを感じさせる笑顔に。
我知らず、電子の身体を強張らせ、唾を飲んだ―――
「ライナに言いたいことがあるわ」
「なんでしょうか、はるまき様」
「……敬語も不服だけれど、まずは一つだけ、言わせてもらうわ」
「はい、なんでございましょうか、はるまき様」
地面(ゴザも座布団もなく、土の上だ)に正座させられたぼくは、目の前で大きな胸を抱え上げるように腕を組むはるまきさんから、とりあえず一点だけお言葉を賜った。
「ロリコンは、犯罪よ」
「……え?」
「ロリコンは犯罪よ、ライナ」
「えっと……そう、ですね?」
「ええ、そうよ。
ロリコンは犯罪なのよ、ライナ」
「あの、三度も言わなくても分かりましたけど……」
「黙りなさい。
ロリコンは犯罪です。はい、復唱」
「ええっと……
ロリコンは、犯罪です……」
「よろしい」
うん、なんだこれ。
何が起きてるんだ。
よく
指先でくるりと輪を描いて、空を指差した。
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