赤層異界 守護者は天地を青く染め、されど護りを穿たせず
ばしばしと叩きつけるような音と軽い衝撃、シャワーで水を浴びせられるような冷たさが全身を襲う。
盾を構えてそれらに耐え、遅れて表示されたダメージを確認する。
片手分を破術で打ち消し、かなりの距離も稼げたためオレの受けたダメージは大したことない。壁際かつ
対して、魔術による防御もなく、そこそこの距離で攻撃を受けることとなったマリーンは大ダメージ。その後方のイグニスは、レベルと職ゆえの高い
アクアマリン・ガーディアンのトリガー行動その1。HP50%を切った際に使用するスキル『空には海』
両手に魔力をそれぞれ集め、メイスを介して部屋全体に解き放つこの攻撃は、回避不能の
メイスから部屋中に広がるエフェクトゆえか、ガーディアンから距離が近いほどダメージが大きく、眼前で受ければ前衛が単発で消し飛ぶほどの威力を誇る。それが二連発だ。
ただし、タイミングはシビアだが、一発だけなら破術または破術刃で打消し可能。単純にダメージが
まあ調子に乗って二発目も打消しちゃうと、ガーディアンが爆裂して本当に酷い目に合うんだけどな(体験談)
あと、魔力が溜まり切る前に打消した場合も、再度チャージし直しとなるのでわりと不幸になれる。運営、破術に対する
ちなみに破術刃はマニアックなネタスキル扱いですが、破術の方はもう少し使い勝手良いです。破術刃専用の
一発目のトリガー行動を凌いだ後は、すぐさま詰め寄ってヘイトスキルを順番に叩きこんでいく。
みかんも、オレがヘイトスキルを撃ち込むのを待ってから矢で攻撃を開始し、少しずつボスのダメージが増え始めた。
一拍遅れ、HPポーションを飲み終わったイグニスが火魔術を使い始め、耐性に阻まれたダメージを与え始める。
戦闘シーンは、再び体力の削り合いに移行した。
遠距離から攻撃を撃ち続ける後衛アタッカーとは違い、マリーンはガーディアンの背後に接近して剣で攻撃し、一定時間ごとに離脱してHPポーションで体力を回復する。
スキルと同様にクールタイムのあるポーションだけでHPを全快にするために必要な時間と、与えたダメージでボスの二つ目のトリガー行動が発生するまでの時間を感覚で計算。
「みかん、スキルなしで通常攻撃のみにしてくれ!」
「っ、はい!」
オレの短い指示に、詰まりつつも返事をくれるみかん。横手から飛来する矢が、スキルを纏わぬただの通常攻撃のみに切り替わった。
レベルはまだ20と低めで、今週覚えたばかりの弓スキルのレベルもまだまだ低い。
それでも通常攻撃のみと比べれば、クールタイムごとにスキルを放つことで結構ダメージ量は変わるのだ。
これでどうにか二発目のトリガー行動前にマリーンもHP全快にできるはずだ。次のトリガーを凌げば、このまま安定して削り切れるはず。
―――そんなオレのダメージコントロールは、またしても打ち壊される。
「ウィンドボール!」
ここにきて、イグニスが初めて火以外の魔術を放つ。
使えたんだな……覚えてないのかと思ってた。
放たれた風球は先ほどまでの火球より小さく、着弾後のエフェクトもしょぼい。風魔術のスキルレベルが、火魔術と比べてかなり低いのだろう。
だがアクアマリン・ガーディアンが有する耐性は火属性のみ。風属性に耐性はなく、魔術に込められた威力に対し100%のダメージをもたらす。
結果として、火魔術よりもかなり高いダメージを叩き出し、イグニスが笑った。
くそ、いちいち邪魔してくれる……!
だがこちらには劇的にヘイトを稼ぐ方法はない、慌てず騒がずこれまで通りにヘイトスキルを繰り出すだけだ。
バ火力によるダメージが上昇したため、トリガーまでの時間を稼ぐためにみかんには通常攻撃もやめて待機してもらった。
圧縮された風球が後頭部に当たり、傾いたガーディアンが一瞬停止する。
「トリガー準備!」
叫びながらオレが少しだけ下がると、攻撃を仕掛けようとしていたマリーンもガーディアンの向こう側で慌てて距離を取った。その傍らを風球が通過しガーディアンに当たるが、あっちはもう無視だ。
そんなばたばたする人間達に格の違いを見せつけるかの如く、ガーディアンはゆっくりと体勢をただし、両拳を胸の前で一度だけ打ち合わせた。
「直線状に並ぶと巻き込まれるぞ!
みかん、一発目が終わったらオレのすぐそばに来い!」
「はいっ!」
盾を構えながら早口で叫ぶ眼前で、ガーディアンが左手に一抱えほどもある巨大な氷塊を生み出した。
『空には海』と違いこちらのスキルに大仰な準備時間はない。バレーボールのスパイクのように、投げ上げた氷塊に振りかぶったメイスを叩きつけたのにあわせてスキルを放つ。
「岩鉄の大壁!」
メイスで殴られた氷塊が、拳大の散弾となってオレに襲い掛かる。
迎え撃つは、構えた盾を中心に広がった半透明の壁。
次々に飛来する氷弾がスキルの壁を叩いて大きな音を響かせ、数瞬の激突の後にヒビの入る音さえ飲み込んで一気に撃ち砕いた。
まるでガラスのような半透明の壁の残滓がきらきらと散る中、阻むもののなくなった空宙を氷弾が貫き。
しかして誰にも当たることなく、部屋の壁へと飛び過ぎていく。
そう。砕けた壁の後ろに、オレの姿はない。
初弾が壁に当たった瞬間に射線上から離脱し、攻撃を躱したのだ。
アクアマリン・ガーディアンのトリガー行動その2。HP20%程度で使用する『地に氷烈』
見ての通り、左手で作った氷塊を右手のメイスで砕いて散弾にする、氷属性の物理攻撃である。
『空には海』とは逆に、距離が遠いほど威力(氷弾の弾速)が上昇し、壁際ならば盾タンクの防御を貫いてぼろくずにする破壊力を有する。
流石はボス、そのくらいの緊張感はないと楽しくないよな。
拳を打ち合わせたガーディアンが、再び氷塊を生み出した。
氷塊の散弾は、戦闘に参加するプレイヤー全員に対し、ヘイトの高い順一回ずつ放たれる。二人目のターゲットはイグニスだ。
壁際で杖を構えるイグニスと、それを守るようにガーディアンとの直線状で盾を構えるマリーン。
メイスに叩き砕かれた氷塊が散弾となって、イグニスとの直線状に陣取るマリーンに襲いかかる。
「くっ、うう……っ」
盾を構えて攻撃を受け止めても、攻撃力に対し防御力が不十分であれば、ゲームシステム的にダメージは発生する。
身体を打つわずかな痛みに呻くと、手にしていた盾を取り落としてマリーンはその場に崩れ落ちた。システム的な
射線上にあった
痛みとマリーンへの不満を叫びながら、しかし届いた氷弾はたったの数発だけ。残念なことに、黙らせるには足りなかったか。
そんな本音をよそに、ガーディアンが三度氷塊を生み出す。
ターゲットは、オレのすぐ後ろにいるみかん。気合の入った表情で、重そうな
……この笑顔が、その手が。他の奴に向く、んだよな。
ちらりと過ぎる、先ほどの光景。イケメンに手を取られ、笑顔で同行を受け入れるみかん。
また、ぼくの所から居なくなる―――
いいや、違う。しっかりしろ。
みかんはイベントのために一緒に居るけれど、それがなくたって友達だ。
何より、今この場は、オレは前衛でタンクで、ガイドで護衛でパーティで。オレがみかんを守りたいから守るんだ。
「……ありがとう。姫望の神盾!」
飛来する氷塊を見据えながら、スキルと共に呟くのは感謝の言葉。あるいは覚悟の言葉。
空気を切り裂き飛来した氷弾が立てる激突音の中、ただ盾を構えて微動だにせず耐え続ける。すぐ後ろの、みかんを守るために。
やがて十秒にも満たぬ短い時間が過ぎ、氷弾を乗り切ったオレは深い息を吐いた。
姫望の神盾。
味方をターゲットにした攻撃で発生するダメージに対して
ダメージは物理魔法/単体範囲を問わないが、攻撃の発動ターゲットが特定の味方個人の場合にしか使用することができない。
例え味方を庇っていても、部屋全体に対する攻撃とか、前方範囲攻撃とかに対しては無意味なのだ。
使いどころが難しい分、防御能力は非常に高い。それなりのダメージは受けたが、まだまだ戦闘を継続するに不足はない。
四発目の『地に氷烈』で沈むイグニスの怨嗟の声を聞きながら、剣と盾を構え直し。
まだ背後で盾を構えているみかんに笑いかける。
「これでボスの必殺技は打ち止め。あとは最初と同じように、丁寧にダメージを溜めるだけだ。
「っ、わかりました、お願いします!」
慌てて盾をしまい弓を構えながら、みかんが真剣な眼差しで頷く。
ボスに向き直り。
スキル発動のトリガーではなく、己を鼓舞するキーワードとして、剣を突きつけて叫ぶ。
「いざ、尋常に。勝負!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます