『七夕の約束を叶えるために』 ~癒えぬ傷痕 触れ合う心~

悪夢 あるいは、ただの過去と未来絵図

 無人の自宅。

 父も母も居ない、どこにも居ない。

 ただ小さく、部屋の隅に、二人の名残が並んでいた。

 何も言わない。何も聞こえない。

 一人きりの家が嫌で、ドアを開けた。


 空に分厚い雲はなく、日差しと賑わいに溢れた街並み。

 見慣れた通りを、ガルデシアの大通りを歩く。

 見覚えのある、だけど一人として見知らぬ人たちの間を歩く。

 見知った人を求めて。聞き馴染んだ音を求めて。

 けれど溢れる街並みで、目は人を見つけず、耳は音は拾わず。

 通りに人はあれど、それはつまり何ものでもない。

 何もなく、誰も居ない中を、慣れ親しんだ場所へと走るように辿り着き。

 ぶつかるように扉を開け、転がるように飛び込めば。

 そこには、ただ空間が広がるだけで。何も、なかった。

 ただただ、何もない空間が広がり、誰も居ない空間が記憶とともに砂と崩れた。


 悲鳴にも音がない。

 ドアにぶつかる音も、床に転がる音も、駆けだす足音も全てない。

 音のない世界で、背を向ける人々をかき分けて走る。

 景色に色彩もない。

 色がない、線がない、意味がない。

 何も聞こえない。誰の顔も見えない。

 ふと立ち止まり、手帳を開けば。

 オブシダンネットワークの名刺帳、そこに入っていたはずの名刺が一枚残らず消滅していた。



 誰も、居なかった。


 リグニオ・メルト・エタニティのフレンドリストはゼロ。


 神器鎧装エステリアで、何もない宇宙にただ一隻で浮かび。


 ウィザーズ・スカイハイ!で、灰色の石ぼうきを片手に、飛び立つ人々を地面から声も出せず見送る。



 そうして、無人の自宅で。

 最後の居場所へ、VRシステムを装着して向かい。


 廃墟と化したフリークブルグで、一人の人も見つけられず、慟哭した。


 哭き声さえ、音にならず。


 無音の。

 無色の。

 無人の。


 廃墟と化したフリークブルグで、声が枯れるまで、哭いて。


 そして、ぷつんと、世界は途切れた―――






 ふっと、電源が入ったように、静かに目を開き。


 現実が、脳に染み込む。

 夢が、心に染み込む。


 現実が染み込む。夢が染み込む。

 現実が染み込む。夢が染み込む。


 そうして、現実と夢を脳と心が認識して。



 ただの一言も発さぬまま、音もなく。

 ただ、開いた瞳から、一筋の涙が横に流れ落ちて枕に染み込まれた。

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