回想土曜 特濃八人分の休日から夢に到るまで
「はふぅ……」
湯船に浸かると、水圧に押し出されたかのように声と息が吐き出された。
やや暑くなってきた季節だが、現実では今日も家から一歩も出ていない。
室内では24時間空調のため、健康の授業日以外は季節の変化もあまり関係ないよな。
だからこそ、夏場でも熱い湯に浸かろうという気になるんだけど。
そんなことをだらだらと考えつつ、手にすくったお湯で軽く顔を洗った。
今日という一日を振り返れば、息継ぐ隙もない程どこもかしこも濃厚でした。
まず朝一、あやづるさん。厨二ボタンが著しかった。設定が盛りだくさん過ぎて、細かい部分はもう覚えてません。
続いてトマスさんと王女様。あっと驚かされるハプニングに、老害のおっさんともやりあったなぁ。余波で備品が壊れていた気がするが、あれ大丈夫なんだろうか。
昼前はクルスさんと黄光銅の採取へ。笑い過ぎるクルスさんの姿がちょっとえろかった、ごちそうさまでした。もう少し仲良くなれて嬉しい。
昼休み、掲示板で千鶴の暗躍を目撃してしまった……忘れよう。吹き過ぎた。
その後はみかんさんと座布団の試作して。みかんさん、裁縫お上手だったなぁ。涙目が可愛かったとか言ったら怒られそうだね。
夕方からキタキツネさんと恋愛ダンジョンへ。色々ぶっとんだ人だったが、ひっくるめて楽しかった。
で―――
「ハルマキさん、なぁ……」
なんとも複雑な気持ちで、きっと複雑な表情で、その名を呟く。
色んな想いが、色んな思い出が、色んな気持ちがあって。その全てに、様々な気持ちを抱え、息を吐く。
きっと複雑な自分の表情を洗い流すように、再度顔を軽く洗い。
「よし、一杯やるか!」
考えることは全部放り出して、とりあえず酒だ! あと飯だ!
たまには脳も休めないと、パンクしちゃうしね!
誠意を尽くした説明で、最終的にハルマキ様は納得して下さった。
いえいえ、納得も何も、あっしはあった事実を淡々とご説明しただけなんでやすけどね? へっへっ。
まあ、そういうのはもういいか。自分を誤魔化しても仕方ないし。
ちょっと暴れたい気分だったので、荒行のために恋愛ダンジョンに向かった。
受付で独り身を選択したのに、なぜか転移間際でマッチングさせられた。
予定通り地獄巡りコースに向かい、ボスを撃破した。
撃破したら、倒したのがまだ未討伐のエクストラボスだったらしく、アナウンスが流れた。
―――まとめると、だいたいこんな感じ。その後のファーシアの発言? 全く知りません、いや本当に。
ダンジョンに向かった理由は話してない。
余計な心配はさせたくないし、たかがフレを消されたくらいで女々しい、と思われたくない。
うん、弱いね。自覚はあるよ?
でもこればっかりは、どうしても思い出してしまうので、なかなか難しい。
むしろ、ハルマキさんの尋問、いや詰問、じゃなくてご質問のおかげでその辺を気にする余力がなくなったのはありがたかったかもしれない。
キタキツネさんの事とか、
あと、キタキツネさんの胸のサイズを答えた時に、次元を越えて殺意と冷気を感じたのはきっと幻覚、そうに違いない。というか、なぜぼくにそんなことを聞くんだか理解できないなぁ。
エクストラボスというのは、通常では出現しない、特別なボスモンスターのことだ。
出現条件は個々に設定されており、短時間でダンジョンを突破とか、単純に低確率とか、撃破回数とか。
今回の恋破れ紋十郎の出現条件は分からないんだけど……マッチング限定とか、一度も死ななかったとかかな?
いずれも、初回討伐者には特別な報酬と、世界全体へのアナウンスという栄誉?が与えられる。初めての経験です。
今回名前が出されたので、少しは七夕の宣伝になるかもしれないね。いや、一瞬名前が読み上げられただけだし、流石に望み薄か。
そんな風に、ハルマキさんと質疑応答を交わし。
埋め合わせとして、今度『空』に付き合う約束をさせられた。
「埋め合わせも何も、穴に埋まったのはぼくなんですけど……」
現場では何となく口にできなかった突っ込みを、今更ぼやきつつ。
それでも、悪くない気持ちで缶ビールを傾けた。
恋愛ダンジョンを出たのが、多分20時頃。
ハルマキさんとのお話が終わったのが22時前。
予定よりだいぶ遅くなったので、今夜の集まりは座布団の正式寸法だけ決めて終了。良かったら作成進めておいてね。
ぴろんぴろんとうるさいメールの効果音をオフにしつつ。にやにや笑いとかそわそわした態度とか腫れ物に触るような対応の数々にちょっと心を軋ませつつ。勢いづくみかんさんに明日の約束とかさせられつつ。
最後にラシャの事を割と本気でぎりぎりと締め上げてから、ログアウトした。
ログアウト後にもリアルの方にメールが届いてたけど、差出人の名前を見ただけでそっと閉じました。
うん、疲れてるんだ、ごめんね? 千鶴メールは
きっと後で後悔するんだろうなぁと思いつつ、入浴を済ませてこの
一人の部屋、一人の夜。
それでも、電子の世界に移動すれば、そこには友達と呼べる人たちが居てくれて。
一人だけど、一人じゃない。
そう自分に言い聞かせながら、ゆっくりと夜は更けていくのだった。
やがて、夜は更け、長い一日は眠りの淵へと沈み。
ゆっくりと、夢に埋もれていく。
夢に、過去を見る。失ったあの日を。
あの時あの場所で失ったものを。
あるいはこの先を暗示するかのように。
フリークブルグで全てを失う、そんな夢を―――
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