骨恋地獄 バキっ☆骸骨だらけの地獄巡り ~ばきゃりもあるよ~
『恋愛の精霊ファーシアのドキドキ☆恋ダンジョン』は、カップルで、互いの仲を深めることを目的としたダンジョンである。
しかし誰しもが最初から、一緒に恋愛ダンジョンに入ってくれるような、仲の良い異性のフレンドが居るわけではない。
人付き合いが苦手とか、誘うのが怖いとか、友人とプレイ時間が合わないとか。あと、女性と話すのが怖くて、嫉妬の炎に包まれてPKになっちゃった人とか。
そう言ったプレイヤーでも問題なく遊べるように、ダンジョンの受付ではマッチング機能があり、建物内のお独りさんや予め登録されたフリークブルグ内の旅人に案内が届くようになっている。
パーティではなくマッチングで参加した場合に限り、最初に五戦程度の準備運動が入る。ここで、お互いの自己紹介や戦闘スタイルなんかを確認。
その後に、ダンジョン内で敵のレベル帯とどのようなコースを進むかの選択になる。
ルンルン☆ハイキングコース。選択可能レベル:10,20,30,40
ワクワク☆アドベンチャーコース。選択可能レベル:15,25,35,45
ドキドキ☆肝試しコース。選択可能レベル:20,30,40,50
ボクサツ☆地獄巡りコース。レベル選択不能(50相当)
それぞれのコースで、ダンジョン内で出る敵の傾向やコースの景観、求められる能力や難易度などが異なる。
ダンジョンを訪れたカップルは、力をあわせ、時には『きゃー』とか言って抱きついたりしつつ、困難を乗り越えて互いの仲を深めるのだ。
―――と、いうコンセプトのダンジョン、なのだが。
どういうわけか、ハイキングコースであっても、出現する敵は半数程度は骸骨系。
穏やかな日差しの草原、のどかな雰囲気の中で、列を為して襲いくる骸骨と戦うというパニックホラー系の演出が待ち受けている。
どうも恋愛の精霊ファーシアの能力がネクロマンサー系統らしいという噂なのだが、真実は社の闇の中。事情を知っていそうな受付嬢に尋ねても、笑顔でマッチングを進めてくるのみだ。
ともあれ、ブレイブクレスト内で屈指の骸骨アイランド、それが恋愛ダンジョンなのである。
まあある意味では、男女の仲を深めるのにぴったりかもしれないね。うん。
主目的がカップルの仲を良くすることなので、このダンジョンをクリアしても戦闘力的な強化や金銭的な報酬は見込めない。
手に入るものは大体が見た目を飾るだけの装備で、ペアルックとかペアアクセサリー、相手の名前入りのペンダントとかそういう系統のものばかりだ。
ドロップと経験値も全く手に入らないため、カップル的要望がない人にとっては、ほぼ
ちなみに、ソロの場合のクリア報酬は『独り身のペンダント』とか、そういう嫌がらせ的なアイテムのみ(譲渡不可、一部アイテムは能力値にマイナス補正あり)
そんな場所と報酬なので、実装直後はカップリングに夢見る人達でそこそこ賑わったようだが、
いまだに世界は語り尽くされず、ここではお金も経験値も手に入らず。今ではよほどのアイテムコレクターでもない限り、ソロの人はここに来なくなった。
無理にソロで来る理由を探すなら、隠れて必殺技の練習とか、あとはデートコースの下見とか、かなぁ?
そういうわけなので、ぼくとしては、他の人が居ない場所で淡々と戦い続けられる、戦闘訓練用の穴場だと思ってたわけなんだけどね。
右上の腕による袈裟斬り、続けて左下の腕による横薙ぎ。
それらを振り抜く一閃で同時に弾き、続く振り下ろしを盾で打ち上げる。
「開戦の狼煙!」
弾き返された武器と盾に体勢を崩しつつ、真横に跳んだ
しかしそれは、戦う相手が二人いるこの場では明確な隙でしかない。
「銅打!」
骨武者を挟んでぼくと反対、敵の死角から真っ直ぐに突き出される拳。
一撃必殺よりも確実に当てることを狙った一撃は、肩甲骨の下あたりに突き刺さり鎧にひびを走らせる。
「鉄割!」
右のストレートに続く二撃目は、左のレバーブロー。
といっても内臓なんてなく、あるのは骨ばかり。斜め下から刺さる一撃が、ひびの入った鎧を砕き割る。
殴り飛ばされる衝撃に逆らわず、距離を開きながら自らの鎧を砕いた襲撃者を振り向く骨武者。
骸骨の視界にローブ姿の巫術士が映っただろうタイミングで、すかさず今度はこちらが死角から攻め立てる。
「重破断!」
圧力重視の一撃をわざと鎧の背にぶちあて、突き飛ばすように体勢を崩させる。
と同時に、スキルでも何でもなく、ブーツの重さに任せただけのただの蹴りを相手の踵に叩き込む。
たまらずよろけて上体が反れたところへ―――
「銀砕!」
左のハイキックが右下の腕の脇に刺さり、腕一本をへし折りつつ軽い
ローブの裾が翻り、チャイナドレスのような深いスリットから一瞬覗いた真っ白い太ももとその奥の白い布が眩しい。
ちょっ、中にスパッツとかそういうの履いてないのかよ……! それはちょっと
「金、穿!」
連撃スキル、四撃目。
ハイキックから踵落としに繋いだとどめの一撃が、体勢を崩した骨武者の頭蓋骨に突き刺さり―――ばきゃりっと激しい破砕音を立て、ヒールに打ち砕かれた骨武者は光と散った。
ここの敵は死ねば消えるので、ちゃんと倒したかどうかがとても分かりやすい。
勝利を確認して小さく息を吐き、軽く剣を払って鞘に納める。
「いい動きでしたわ」
「そちらこそ、綺麗な連携ですね。惚れ惚れします」
短い賛辞と共に、こちらは素手、向こうは金属と皮で作られた手甲で、軽く拳を触れ合わせ。
背中合わせに、構え直す。
すぐに我々を囲むように円形に真っ黒い光が立ち上り、今度は十体ほどの骸骨軍団が姿を現した。
「うふふ……今日は大漁だわ。
さあ、叩いて殴って蹴飛ばして、ストレス発散するわよーっ!」
「……まあ、たまにはこういうのも悪くない。
いけるとこまで、がんがん暴れるとするか!」
背後で嬉々として拳を振るい骨を叩き折る巫術士をちらりと見つつ、こちらも相手の剣のみを攻撃し全て斬り飛ばすなんて
当たり前だが、
完璧に攻撃を入れないとこちらの装備も傷むし、同時に襲いかかってくる敵も多いので鍛錬にはちょうどいい。
無心になって、受け、捌き、流し、斬り、避け、払い、また斬る。
自分の分を片付けた巫術士が横手から襲い掛かるのに内心で合掌しつつ、全ての骸骨の武器を斬り飛ばした後は、武器を失った骸骨達を順番に斬り捨てた。
ボクサツ☆地獄巡りコース。レベル選択のない固定マップで、出現するのはプレイヤー適正レベル50相当の骸骨の大軍団だ。
現在のレベルカンストが50の中で、ぼくのレベルはまだ42。数値だけ見れば、十分に厳しい戦いである。
だがここの骸骨達には、レベルが上がっても戦闘AIは大差ないという弱点が存在する。例えレベル差が大きくとも、戦い方次第ではきちんと勝負として成立する相手なのだ。
もちろんのこと、高いパラメータによる数値の暴力は単純ながら脅威的で、少しでも力比べになろうものならすぐさま押し込まれる。
だからこそ、攻撃を打ち落とし、武器を斬り払い、常に完璧な立ち回りが求められるわけで、数値に依らない鍛錬にちょうどいい。
剣を振り、盾でいなし、全ての攻撃を丁寧に処理して。余計な考えを落とし、錆び付いた身体を研ぎ澄ませ、ただ眼前の敵に集中し無心になって戦い続ける。
七戦目の骸骨軍団、その最後の一匹をぼくの剣と巫術士の拳で同時に打ち砕く。
巫術士。ここの入口で、なぜか受付通過後にマッチングさせられた、キタキツネさんだ。
裾から太ももまでの長いスリットの入った、チャイナドレスのような白いローブにスレンダーな長身を包み。
深緑のボブカットに指を通し、深い息を吐きつつばさばさと空気を送り込んでいる。
髪に空気を通した後は、服のとても平たい胸元を―――
「!」
何も言ってないのに、なんかすごい勢いで睨まれた!?
服をつまんで軽く空気を送り込みつつ、なぜかじりじりとこちらに向き直るキタキツネさん。
両の拳が固く握りしめられ、重心を低く保ちいつでもいかなる一撃でも打ち込めるようにと、意識を集中させていくのが分かる―――目の前のぼくに向かって。
いやあのちょっと、何でこんな緊迫した空気出してるんですかね。まだ私、何も言ってないですよ?
戦闘態勢に切り替わっていく空気に触発されたかの如く、部屋の中に光が溢れ出し、
飲み終わったMPポーションの瓶を片付けつつ、わざとらしく骸骨に向けて剣を抜き構えた。
小さな舌打ち一つ響かせて、キタキツネさんも骸骨へと向き直る。
助かった、なんて考えつつも。姿を現す骸骨どもに剣と拳が襲いかかったのは、見事に同時だった。
「さあさあ次の骸骨を早く、早くプリーズ!
私に戦わせなさい、殴らせなさい、ストレスぶちまけられて砕け散りなさい! でないとあんたを殴る!」
言葉通りに戦い、殴り、襲いかかる巫術士。
使うスキルも格闘術ばかりで、巫術の気配はどこにもない。
「なんで巫術士やってるのか知らんが、おそるべき戦闘狂だな」
いやほんと。武器も杖系ではなく手甲だし、普通に格闘士やればいいのにねぇ。
巫術士とは特殊なバフ効果をもつ巫術を使って戦闘をサポートする、特殊バフ職だ。
職業の系統としては、見習術士>法術士>巫術士となる。
魔術士系よりマシとは言え、やっぱり法術士系統の巫術士は後衛職。そのステータスは魔法系能力に寄り、物理的な戦闘力は高くない。
武器の適性だってそれほど高くないだろうし、
「巫術士が敵を殴っていけないわけ? ストレス発散していけないわけ?
みんな職業に型を当て嵌め過ぎなのよ。私は殴りたいの、蹴りたいの、叩きのめしたいの! リアル上司の代わりに!」
「最後の一言はどうかと思うんだが。まあ、気苦労お察しします、と言っておいてやろう」
社会人も社会も怖いです。学生で良かった。
そんなこともちらっと思うわけだが、息を合わせて次々と戦い続けるこの戦場に、こちらもいい感じにテンションは上がっている。
お互いがお互いのフォローをし、お互いに相手を囮にし。目線で意志を交わし、背を預け時に盾にし、ひたすら二人で戦い続けるのは楽しい。
「だが、型を当て嵌めるなという意見は同感だ。
こちとら相殺型の受けタンク、中途半端でもどっちつかずでもなくはっきりとDEX全振りなんだよ!」
「
マニアック過ぎてとてもいいわね、私も
補助役だから
「はは、だったら今から全部振り直しちまえ!」
「あはは、それは色々掛かり過ぎぃ!」
二人して笑いながら、ひたすら骸骨と打ち合いを続ける。
拳で盾を跳ね飛ばし、槍を剣で払い、斧を躱して蹴り入れ、ぐらついたところにとどめを刺す。
「あーっ、私の獲物!」
「二人で戦ってるんだから、どっちがどっちでもいいだろうに。
ほれ、くれてや、るっ!」
肘から先を斬り飛ばした骸骨を、盾でキタキツネの目の前まで弾き飛ばす。
すぐさま開いた隙間に詰め寄った骸骨の一撃をかわしつつ、視界の端でキタキツネが
「いいじゃない、とてもいいわ。あなた、いいわね!」
「食べ放題と違ってお代わりに限りがある、後で足りなかったと言わないようにしっかり食ってくれな」
「もっちろーん。
全部! 上司の! ハゲだと! 思ってるわ!」
嬉々として叫びながら満面の笑みで次々にハゲ……もとい、頭がい骨を殴りつけていく美女。
うん、酷い絵面だ。キタキツネが美人なのが、余計に何とも言えずもったいない。
「油断だけは、してくれるなよ!」
なんとなくハゲに見えてきた骸骨の頭頂部からやや目を反らしつつ、丁寧に相手の攻撃を打ち払い、武器を斬り飛ばす。
敵の数が多く次々と攻撃が迫ってくるが、やることは変わらない。この程度で変える必要はない。
こちらは今のところ無傷だが、キタキツネの方は何発か攻撃を受けている。
やはり一撃で倒すには火力が足りず、あれだけの数に囲まれれば被弾ゼロとはいかないのだろう。
しかも敵は50レベル、後衛職なら一発もらうだけでもそれなりのダメージを受けているはずだ。
「ヒーリング!」
だが、敵の群れから抜け出し、手の空いたタイミングで治癒士の回復スキルを使い自分で回復。
最下級のスキルだからこそ、詠唱も硬直時間もほぼない。細かい傷をだいたい回復し、再び笑顔で骸骨に襲いかかる。
系統の違う治癒士のスキルであっても、一度就職してスキル習得後に転職すれば他職で使用可能。
巫術士なのに、自分のスキル系統である巫術も法術も使わない姿勢に、むしろ感心しつつ。
殴って殴られて回復して、殴って殴られて回復して。ほっといたら永遠に戦い続けてそうだなぁと、背後の巫術士に苦笑しつつ次の骸骨へと斬りかかるのだった。
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