裁縫準備 栽培→採取→紡織→染色→裁縫→最初に戻る
『栽培』 布の素材となる植物を育てる
『採取』 育てた植物から原材料を収穫する
『紡織』 収穫した原材料から糸と布を作る
『染色』 出来た糸と布を好きな色に染める
この四工程を完了することで、やっと材料となる糸と布、および綿が揃う。
で、それらを原料に『裁縫』することで、求めていた座布団が出来上がるのだ。
「うわぁ……思っていたより、ずっとやることが多いんですね」
「ええ、本当ですね。ぼくも最初に知った時はびっくりでございましたよ」
原料を栽培して収穫すれば、あとは縫うだけだと思ってた時もありました。
とんでもない、そんなぬるいものではございませんでしたよ。
大工や家具職人が、製作の前段階のサブスキルとして『材木加工』や『木鑑定』が必要なように。
裁縫職人の場合、サブスキルとして『紡織』と『染色』が必要になる。
さらに、自前で素材となる植物を育てようと思ったら『栽培』が必要だし、できれば『採取』も欲しい。
以上より、裁縫職人をメインでやっていくには『栽培』『採取』『紡織』『染色』『裁縫』の5スキルが必要となるわけだ。
うん、過酷。
「素材を自分で育てないなら栽培と採取は不要になりますが。
それでも、紡織と染色はないとランクアップ試験に受からないそうでございます」
「紡織っていうのは、布作りってことですよね?」
「
そこの2つが分かれてたら、必要なスキル数はさらに増えたわけか……恐ろしい。
「座布団を縫うのは出来る限り皆でやるとしても。
紡織と染色は、決めた担当者がまとめて頑張ったほうがよさそうな気も致しますねぇ」
「わかりました。
私、頑張ります!」
イベント準備のためにどれだけスキル数を空けてもらえるのかによるが、全部を皆で一緒にやるのはちょっと気が引けるところだ。
やり方を教えるのも一苦労だし、色のばらつきも少ない方がいいだろう。そういう意味でも、一部の担当者がまとめてやったほうが効率的。
みかんさんが引き受けて下さるなら有難いし安心だ。
「そうですね、みかん様にも協力いただけると、非常に助かります」
「協力なんて言わないでください。
私が望んだことなんですから!」
ちょっとむくれたみかんさんにごめんと謝りつつ、買っておいた道具や材料を積み上げていく。
紡織に必要な紡織機。
染色のための、樽と染料。
縫い針などの裁縫道具一式。
今回作る座布団の材料はどれも低ランクなので、道具類もお安い最低ランクのもので済んだ。
紡織機と樽はとりあえず3人分、裁縫道具は大量に用意。
ちなみに、白い染料は
それら道具の隣に、ここ数日で作った原材料の一部を適当に取り出して準備OK。
「それじゃぁ一緒に、採取した材料で一通りの流れを実践してみましょうか」
「はいっ、よろしくお願いします」
まずは『紡織』を行う。
集めた素材を紡織機に突っ込んで紡織スキルを使うことで、まず素材が糸へと変わっていく。
5分ほど続けて十分な量の糸が出来たら、今度は糸を紡織機に突っ込み、再度紡織スキルを発動。糸を材料に布を作り出す。
糸作りよりは遥かに短い時間で布作りを終え、こうして十分な量の綿、糸、布が完成。
「これで、第一段階は終了でございますね。
いや、栽培と採取が第一段階かな? じゃあ第二段階が終了です」
「はぁぁ……結構、疲れますねぇ」
ちょっと大きなため息をつきながら、椅子に座っていたみかんさんがテーブルに突っ伏した。
ぐにゅりと潰れて広がる大きな胸を意識しないように、テーブルになりたいとかこれっぽっちも考えず、手元の布に語りかけるように答える。
「まだ全然慣れてないし、スキルレベルも全く上がってませんからね。最初はやっぱり、大変でございますよ。
でも、不慣れで目新しいからこその楽しさもあると思うわけです」
「あ、分かります。
最初に糸と布が出来たときは、ちょっと感動しました!」
「ええ。
すぐに感動など毛ほども感じられず機械的に作業を繰り返す存在になりますから、今の気持ちは忘れないで下さいね?」
「ええっ、そうなんですか?」
ぼくの言葉に、がばりと起き上がってちょっと大げさに驚くみかんさん。
でも目元が笑っているから、半分冗談だと思ってるんだろう。
平和だなぁ。
冗談じゃないんだよね? ははは。
「MPは大丈夫でございますか?」
「あ、はい。
生産スキルも、地味にMP使うんですよね」
「ええ。そちらもレベルが上がれば軽減されますので、徐々に慣れますよ」
「はい。
ちょっと休んだので大丈夫です、第三段階にいきましょう!」
「わかりました。
では次の『染色』に移りましょう」
染色を大雑把に説明すると、樽に水と染料を入れ、布を突っ込んで色付けし、乾かす、という作業になる。
「栽培とかと違って、染色はスキルがあってもなくてもあまり差がなさそうですよね」
「ふむ。
じゃあちょうどいい機会だし、最初はスキルなしで染めてみて、後で違いを比べてみましょう」
「あ、面白そうですね。じゃあそれでお願いします」
スキルの恩恵があると知識で聞かされても、実体験は重要だ。
流石にリアル時間で
「それでは、早速始めましょう」
「はいっ、よろしくお願いします」
笑顔で頷くみかんさんに樽と染料を手渡し、じっと観察する。
「……えっと、あの。これから、どうすればいいんでしょうか……?」
「まず、樽に水と染料を入れます」
敷地の一角に水道は据え付けられているので、そこで樽に水を入れる。
どのくらいがちょうどいいかは、正直よくわからない。適当だ。
続いて染料。こちらもよく分からないので、おそるおそる入れてみる。
「……先にスキルありでやって雰囲気を掴んでから、スキルなしでやれば良かったね」
「あ、本当ですね」
「でも今更変更するのもあれだし、このままやっちゃう」
「わかりました、頑張ります」
樽の中に適当に入れた水と染料。そこに、糸と布をこれまた適当に、多分座布団1枚分くらい入れる。
しばし、適当に木の棒でかき回し。
「このくらいでしょうか?」
「えーと、多分?
いい気がしたら、それが適当でございます」
スキルがあるなら、適切な値という意味での適当なんだけどね。
スキルなしの場合、いい加減という意味での適当となる。
2人して樽から材料を引き上げて―――
「えっと、干す場所考えてなかった」
一度布を樽に戻してから、椅子とテーブルの間に棒を渡し、即席の物干し台を作る。
「あ、すみません。
私何も考えてなくて、ライナズィアさんに任せっきりで」
「いえいえ、ぼくも似たようなものでございますし。
これから2人で、一緒に慣れていきましょうね」
「は、はい! お願いします!」
なんせ、処理する布の量はばかみたいに多い。
嬉しそうな笑顔のみかんさんには悪いけど、これから二週間、何百回この作業をやることになるやら―――
うん。あまり先のことは考えないようにしよう。
「これであとは、乾けば染色完了のはずでございます」
「初めてなのもあって、すごく段取り悪かったです……」
「あー、すみません。ぼくもちょっと考えが足りてなかった」
「あ、違うんです、悪かったのは私の方で」
いえぼくが、いえいえ私がとわいわいやりつつ。
干し終わった布はほっといて、今度はスキルありで染色作業に入った。
一旦、ちょっともったいないけど樽の中身は全て捨て、改めて一から染色スキルに教えを請う。
水、染料。適当にやっても、ちょうど良い量というのがなんとなくわかる。
入れすぎちゃっても、ある程度はスキルがブレを吸収してくれる。
というかさっき樽に入れた水の量、明らかに多過ぎでした。染料も大分もったいなかったな。
適切な量の染料が入った樽に布を入れたら、軽くじゃぶじゃぶとかき混ぜた後に引き上げる。
2,3度振って水分を飛ばしたら、干すこと2,3分。あっと言う間に乾燥も終了しました。
ものの数分で、染色した布が完成です。
「早いです!」
出来上がった布を手に、みかんさんが歓声をあげる。
スキルの力で、染める、干すの工程は大幅に短縮。
まだ干されているスキルなしで染色した布を横目に、スキルの力で染め上がった綺麗な青い布をテーブルの上へ広げる。
あ、本番の染料は紺にするけど、今日は実験用ということであえて青の染料を使ってます。
失敗したときに、間違えて本番で使わないようにね。
一つくらいハズレの座布団が混ざってるのも、それはそれで面白いんだけどさ。
手を動かしながらそんな説明をしつつ、残る布を全て染め終わり。
「……ライナズィアさん、最初に染めた布っていつになったら乾くんでしょうか?」
「普通に洗濯物を干したときと同じくらいと思えば……3時間くらいですかね?
でもリアルで午前中から午後まで干すくらいと考えれば、1時間半くらいかな?」
今はゲーム的にお昼を過ぎたが、あと1時間で乾くかはちょっと分からない。そもそも脱水とかちゃんとしてないから、無理なんじゃないかなーという雰囲気もある。
きっと夜の間は余計乾きにくそうだし、どれだけかかるのかはちょっと検討がつかないよね。
仮に栽培と同じ速度だとしたら、50倍……2時間前後か。
「うん。この布のことは、今日はもう忘れましょっか」
「はい。
スキルの力って、偉大なんですねぇ」
「スキルの偉大さをみかん様に伝えることが出来たので、きっとこの布達も成仏できることでしょう」
「死んでませんから! ちゃんと乾いたら布になります、多分なるはずですからね?」
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