祭りの夜より心躍る、青い海と白い砂浜の水着ドリーマー
【 前話、説明回の簡単なまとめ 】
・ 参加者も協力者も無料、費用は主催者のポケットマネー
・ 準備する設備
① 竹・短冊 >竹と糸は農家班(リーリー、みかん、はるまき)
② 天の川 >光る花は農家班、川は花火班(ラシャ、はるまき)
③ 観覧席 >畳が高額 座布団はたくさん必要 座布団素材は農家班
④ ステージ >大工班(チョリソー、ラシャ)
⑤ 屋台 >大工班 + 商人組(ひげせんにん、わきざしまる)
⑥ 花火 >花火班 + 花火師を捜索
⑦ 演目 >やってくれる人を探して交渉
細かい部分は一部決まっていない。短冊とか提灯とか。
農家班と大工班はハード。
わきざしまる、クルスは特に決まってない。
前回がひたすら説明回だったので、今回はほんのちょっぴりサービス回。
それでは、どうぞお楽しみくださいませ。
□ □ □ □
そんなこんなで、七夕説明会は終了した。
わきさんとクルスさんは、農家班および採集の手伝いということでやんわりとした役割分担を決定。
あとでひげさんに、メールで大工班の手伝いをお願いしとこう。
農家班と大工班は綺麗に男女で分かれることになったな。ぼくはどっちも手伝うし、花火班はラシャとはるまきさんだけど。
説明会後、日曜までレポートが忙しいチョリソーはすぐにログアウト。
わきさんも今のうちに作り溜めておくと商売に戻り、クルスさんもまた明日の夜来ますと言い残して姿を消した。
残ったのは、昨夜も居たみかんさん、はるまきさん、リーリーさんに、ラシャ。それとぼくだ。
大工は道具の準備と伐採から始めるが、今日はチョリソーが居ないので本格稼働は来週から。
打ち上げ花火についてはとりあえず各自で適度に練習しておいて下さいとして、まずは農家班が自由に活動できる下準備をしたい。
ということを説明し、綿花と布や糸類の種の買出しのため、ルートの開通を兼ねて隣村まで出かけることになった。
リアル休憩のため、一旦解散・ログアウトして、再集合は拠点に21時15分。
今日は金曜日なので少々の夜更かしはOKということで、親睦を兼ねて5人でお出かけです。
まあ、ラシャ以外は昨夜と同じメンバーなので心配はない。ラシャ以外はな……
皆が落ちたのを見送って、ぼくも一旦ログアウト。リアルの休憩を手早く済ませる。
程なくフリークブルグに戻ると、ゲーム内のメール受信を知らせる着信音が鳴った。
―――――――――
From:クルス
あんまりしゃべれなくてごめんなさい。
でも楽しかったです。
生産職は刻印職人です。スロットの余裕はあります。
明日もよろしくお願いします。
―――――――――
「嬉しいですね」
メールを読み、笑みと共に呟きをこぼす。
きっと、苦手なりに、一生懸命書いてくれたんだろうなぁ。
そう感じられる文面に嬉しくなり、できるだけ丁寧にお礼を返す。
―――――――――
To:クルス
こちらこそ、あまりお構いできなかった上に、事務的で面白い話もなく申し訳ございません。
明日からは活動が主体になりますが、よろしければもう少し話やお祭り騒ぎに付き合って下さいね。
自己紹介のリーリーさんの質問は、ちょっと驚愕でした。重ねてすみません。
あと、刻印職人、非常に良いですね。レアな職人とか大好きです!
クルス様さえよろしければ、刻印についてクルス様に依頼をしたいところでございますよ。
―――――――――
『刻印』とは、アイテムに名前やマークを入れる生産スキルだ。
刻印職人がスキルを使うと、プレイヤーが製作したアイテムに、目に見える形で好きな文字やマークを入れることが可能。
さらに、外見的な装飾だけでなく、アイテムの詳細情報にも製作者のキャラクター名や特別なメッセージを刻むことができるのだ。
とは言え、すでにあるアイテムにワンポイントや情報を加えるだけで、専門的に何かを作る事はできない。
自分が製作したアイテムの詳細情報に『製作者:○○』と表示させるだけなら、他の生産職で『刻印』スキルを利用すれば可能。
現実的には、他人が製作したものに依頼を受けて刻印を入れられるだけという、他人ありきな不人気職でございます。
蛮族の腰みのに、それっぽい説明文を書くとか。誰得。
ともあれ、もしイベントをやるならいつかは上げないとなーとか思いつつ手を出してなかった職、それが刻印職人。
専門家の協力を得られたのは、非常にありがたい限りでございます。これであれそれ仕込めるというもの。
なお、刻印職人の就職クエストは、イモをナイフで削り、自分の名前のイモ判を作るという一風変わったもの。
なかなか面白いので、是非一度体験下さいませ。
―――――――――
From:クルス
刻印職人を頼られたの、初めてです。
嬉しいです。頑張ります。
金属、布、木材、その他、情報。全ての刻印覚えてます。
―――――――――
……おおう、そりゃそうだよね、全部上げてるよね、うん。
刻印職人の不人気さの理由の一つが、必要な刻印スキルの種類の多さおよび過酷さ。
外見に対する装飾の刻印は、対象アイテムの素材により、金属、布、木材、その他の4種類のスキルに分かれ、ランクアップのためにはその全てでスキル上げが必要。
情報刻印というのがアイテムの詳細情報に文章を書きこむスキルだが、見習いでは使えないし、レベルが低いと文字数が極端に少ない。これもスキル上げが必要。
製作アイテムにしか刻印できない、刻印しても1つのアイテムにつき1回しかスキル経験値が得られない、そもそもスキル経験値が他の職より低いと徹底的に激マゾ仕様なのだ。そりゃぁもう、運営の
スキル上げの苦労にそっと涙しつつ、ランクアップできるまでスキル上げをした事への賞賛とともに丁寧にお礼を返し。
皆がログインしてきたのでメールを終える。
「おかえりなさいませ。
それじゃぁ皆様、種の買出しに隣村のレイールへ向かいましょう!」
緑の平原を雑に区切るように、蛇行して伸びる一本の道。
超初心者向けのエリア、フリークブルグ東。城下町の東門を出た直後のこの辺は、適正レベル1~5のゲーム内最弱フィールド。
後方にはフリークブルグ、左方遠くに森と崖を望みながら、5人でパーティを組んでのんびり街道を行く。
ラシャがまだレイールに行った事がないので、今回は馬車を使わず徒歩での移動だ。
大まかな感覚として、徒歩30分、2キロくらいの道のりです。
制限解除がクール中で使えないし、冒険ではなくあくまで移動目的のため、今回は制限機能は使わず剣士のままで参加。
頭以外を40装備の『獣烈の青皮鎧』シリーズに身を包み、腰には片手剣と刀を下げる。
頭装備は、場所によってはつける時もあるが、この辺の移動であれば装備はなくてもいいだろう。
短い黒髪を風に揺れるに任せ、盾だけ左手に持ったまま先頭を歩く。
「今日は結構風があるわね」
「雨さえ降らなければ、特に問題はございませんよ」
隣を歩くのははるまきさん。この前リーリーさん達の手伝いをした時と同じく、制限機能を使った20レベルの魔術師モードだ。
何レベルの装備であろうと黒一色なのは変わらず、黒のローブに身を包み、長い黒髪の上に乗った黒い三角帽子を手で押さえて、黒い瞳で明るい平原に目を向けたまま呟くように言った。
「今の季節なら雨はないわね」
「ここって雨も降るんですか?」
はるまきさんとは反対、左から見上げるように訪ねてくるのはみかんさん。
今日は長く伸ばされた髪を細い三つ編みにし、ティアラのように頭の後ろでまとめているのが華やかで良いですね。
服装も先日の駆け出し装備から一新、胸当てと関節部に補強の付けられた初心者用の服『新緑の旅装』シリーズ一式に身を包んだ、春らしいフレッシュな装い。
職業は戦士のままだが、背中には中サイズの弓も背負っている。
「フリークブルグには四季がございまして、今頃はほとんど雨が降らないのですよ。
冬には稀に雪が降っておりましたし、秋には雨季があるそうでございます」
サービス開始から半年程度、ブレイブクレストは未だに夏と秋を迎えたことがない。
だから、夏の暑さも秋の雨もどの程度なのかは不明だ。
とは言え、冬の寒さも上着を一枚羽織る程度で済んだし、フリークブルグ周辺ならそれほど酷いことにはならないだろう。
雪国や南国行くと、どうなるか分かったもんじゃないが……
「もうすぐ夏、ですもんね」
「そうよ。
ここでなら、水着で海水浴だってできるわ」
「海水浴! いいですね、行きたいです」
クールなはるまきさんと愛らしいみかんさん、いずれも魅力的な美少女に挟まれて。
水着で海水浴の言葉に、思わず彼女らの水着姿を想像してしまう。
絵に描いたような、いつか空想に絵描いたような、青い空と青い海、寄り添う白い砂浜。
空の太陽から降り注ぐ眩しい光と、海が反射した煌めく光の中で、水着姿の美少女達がそれぞれに笑顔を見せる。
こちらを振り向いた拍子に、普段は黒衣に包まれた真っ白い素肌が光に煌めき、黒々とした髪も艶やかに光を弾いて広がり。
手を振りながらぴょんぴょんと飛び跳ねると、地に踊る太陽のように明るい色の髪が、健康的に日焼けした肌の周りで装飾のように舞い踊り。
静かな美しさと余裕の笑みの下では、寄せられた腕に押されてぐぐぐっと盛り上がり存在感を深く深く見せつける谷間が。
華やかな可愛らしさ、水を跳ねてはしゃぐ声。海辺で飛び跳ねるにあわせて暴れるように弾む、可愛い身体に不釣り合いに巨大な胸が。
―――うん、すっごい。すごくいい、というかとてもよろしい。二人とも最高です!
「……」
ふと。
そんなことを考えていたら、何か言いたげに、でも無言でじっとこちらを見つめてくるはるまきさんが無言でいつの間にかすぐ隣に無言で立ち止まっていた。
無表情と言うか、表情の読めない眼差しになんとなく居たたまれない気持ちでいっぱいになり。
そっと、思わず顔を背ければ、反対側にはみかんさん。こちらは邪気のない明るい眼差しでぼくをじーっと見上げてくる。やっぱり無言で。
今日は無言祭りか。なるほど、今は無言シーズン到来中らしいよ。
静かに、何事もなかったので、さも何事もなかったように、前方に視線を向けた。
「……いいえ、何でもないですよ?」
努めて平静を装い、背景に平常心と書かれそうな勢いで、静かに答えながらいつの間にか止まっていた歩みを再開させる。
「―――ふふ、楽しみにしてなさい?」
「ライナズィアさん。一緒に海水浴、行ってくれますか……?」
とても平静な様子で波風を立たぬ心持ちのままそれでも期待を裏切るのは失礼に当たるから彼女たちを悲しませないために付き合いでぼくは頷いた。
「二人の水着姿、すっごい楽しみです!」
ライナズィアさんにもそういうとこあるんですねぇ、というなんだかしみじみしたリーリーさんの物言いが妙に胸に
そんなぼくの後方で、ラシャは意味深に含み笑いをし続けていた。
……あいつの場合、水着姿を空想して笑ってるんじゃなく、ぼくの窮状を嘲笑ってる方だ。間違いない。
仕方ないじゃない、二人ともとても可愛いんだもの、スタイルもすごく良いんだもの!
ブレイブクレストの表現力も相まって、そこらのバーチャルアイドルや雑誌など目じゃない、本当は緊張しちゃうくらい美少女なんだもの!
つまり、不可抗力! 普通です、普通のことなんです!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます