祭りの夜を刻む、意気揚々の青春ステューデンツ
その男は、一言で言えば蛮族だった。
頭に羽根飾り、顔に隈取り、上半身全裸、木の枝を巻き付けた腰みの、藁を編んだ
「チョーッチョッチョッチョ! 見つけたぞライナズィあぁぁ、この宇宙人パレード男めチョ!」
「いいえ人違いです、失礼しましたっ」
「チョっ、待っ」
ぼくは一切の迷いなく、踵を返してダッシュで逃げる。
なんとなく後方から、らあらあ聞こえてくる気がしたけれど、蛮族的雄叫びと決めつけて無視することに決めた。
あんな教育的指導の入りそうな奴、初心者に会わせたら毒だと思います。
どうせ今逃げた所で、説明会の集合場所と時間は知られているから夜にまた会うんだけどさ。
受け取り予定だった家具?
お金で買えるアイテムよりも、蛮族からダッシュで逃げるネタ的対応の方が大事です!
多分、夜にも持ってきてくれることでしょう。お願い、持ってきてね。
昨夜は結局、はるまきさんとみかんさんも含め、各自に詳しい説明はしなかった。
初日から思った以上に協力OKのメールが多かったので、個別の説明は諦め、集まってもらって翌日に説明会を行うことに決定。
説明会に参加できない人は、説明会の様子を記録しとくので後日確認してもらうことにしよう。
なので、メール対応後はみかんさん・はるまきさんと、協力しに来てくれたリーリーさんの4人で見習農家&見習製作者(見習裁縫職人の前段階)の就職クエをさくさくとクリア。
はるまきさん以外の3人が生産職を見習農家に転職し、拠点の一角で畑作り。はるまきさんも初級の土魔術で貢献、予定してた規模の畑をなんと一日で耕しきった。
あとは見習農家3人でスキル上げのために野菜類の種を植え、予定以上の進捗で準備初日はめでたく解散。
信じられないくらい順調な滑り出しに、喜びより不安を感じるあたり、我ながらいつも行き当たりばったりだったんだなぁとしみじみしちゃう。
あと、みかんさんだけじゃなくリーリーさんもイベントのためにあっさり転職したりとか、皆さん宴会屋の素養が高くて嬉しい限りでございます。
そういうわけで、怒涛の準備初日から一夜明けて、今日は金曜日。
まずは今日の説明会に向けた準備として、講義の空き時間でチョリソーと待ち合わせて―――冒頭の逃走劇に到る。
本気のダッシュだったので追いつけなかったらしく、恨みの篭った大量メールがフレンドの機能として届く。それを生産職『記者』の『書記』スキルを駆使した高速入力で倍返ししつつ、適当に買出しなんかしてからゲームをログアウト&大学へログインだ。
空いた一時限目の時間をゲームに費やした後の二時限目。
当然学業に身が入るわけもなく、表面上は課題をこなしつつ考えるのは今夜のこと。
とは言え講義中に入力デバイスを使うとばれるので、書いて考えをまとめることも出来ず、だらだらと講義が終わるまで過ごした。
いやいやいや、ちゃんと勉強しましたよ。この講義は期末試験はないけれど、まだ期末レポートの提出が残ってるから。
午前の講義を終え、昼休み。
リアル昼食は後回しで電子の食堂に顔を出すと、データ茶とケーキをトレイに乗せた小金井と遭遇した。
「お、もやしゲーマーじゃん」
「お、デコピくぁおぉぉっ!?
フォークで目を狙うんじゃありません、ありません!」
「ちっ……仕損じたか」
「デンジャラ過ぎる!」
お約束のやりとりも、例え攻撃がクリーンヒットしたところで強い痛みや後遺症がないからこそ。
とは言え目に迫る金属の先端は十分に恐怖を感じるものであり、ぶっちゃけぼくが訴えると多分勝てちゃう。
「つまり、国家権力に訴えさせていただく」
「お許し下さいもやし様、謝罪と慰謝料の気持ちで粗茶を進呈致します」
「つまらないもの過ぎるなぁ」
「昨日のお返し、だよっ☆」
デコをキラっと光らせるのやめて下さい、眩しいです。
結局スナック菓子を小金井に買わせることで手を打ち、テーブルについてデータ茶を啜る。
「んで?
昨日今日とゲーマーがわざわざゲームのない世界にログインして、どうしたのよ?」
「
昨日と同様に取り出した入力デバイスを、画面を消したまま振って見せる。
「七夕デートか、七夕デートか!」
「七億
「K点越えて天文学的評価!?
あ、でもマイナスとマイナスを掛けたら」
「デコに油を掛けても光るしかない、つまりピッカリデコ神・ドマイナス」
「言ってることは分からないが言いたいことは分かった、ようするに戦争ね」
「じゃあ今日の競技種目はデコダーツな」
「そろそろ角生えるぞこのやろー!」
打てば響くデコ、もとい会話を惰性で
デバイスに情報を表示し、目の前の小金井に見えないように整理していく。
―――――――――
【準備&当日スタッフ】
ライナズィア 見習農家(転職可)
みかん 見習農家(転職可)
はるまき 調理師
リーリー 見習農家
ラシャ ?(がち初心者)
チョリソー 大工(蛮族)
【未定、協力見込み】
ひげせんにん 剣職人
わきざしまる 調理師
【その他】
クルス ?
C ?
・ 説明会
6/22(金) 20時~
不参加 :ひげせんにん
返信待ち:クルス
未連絡 :C
その他メンバーは参加可能。
・ 説明内容
……
―――――――――
「ねぇ」
デバイスとにらめっこしていた目線を上げれば、こちらを見つめる小金井の金茶の瞳。
いつの間にかテーブルに追加されていたチョコクッキーを手に持ったまま、目を反らさずに小金井が続ける。
「それは面白い?」
……また、何とも難しい質問をなさる。
明快で快活で、ノリで坂道を駆けあがるようにテンションを上げて逝くいつもの会話とは違い。
その瞳は深く綺麗で、その言葉もまた深い意味を感じられた。
小金井なりに、何かが気になり真剣なんだろう。
真面目な質問を茶化す気はない。デコを叩くよりは面白いとか、むしろデコボタンを押す方が面白いとか、そういう回答は全くこれっぽっちも考えてません。
少しだけ、自分の考えやこれまでの経験と結果、相応しい表現を考えてみる。
きっかけと自分で決めたこと。
望むこと、ぼくの『欲』。
面白いのかどうか。
ぼくの、スタンス。
「……面白いかどうかは、後で分かる。
と言うか、終わった後に参加したみんながそれぞれ判断する事だと思ってる。
だから、みんなに面白かったと言わせて、満足して胸を張れるように頑張るんだな」
「そう」
大真面目に答えたぼくの返事をどう捉えたか、噛みしめるように数秒考えた後。
「青春、してるね」
少し、楽しそうに。あるいは嬉しそうに。
小金井は、神聖ささえ感じさせるような、透明で美しい笑顔でそう言った。
「そうかな?」
「そうよ。青春してる最中は、分かんないもんよ」
「なるほど、実感がこもってらっしゃる」
「どうかな?」
お互いに、言葉少なくふわふわと。
いつものレーザーを倍速で反射しつづけるような会話とは違う、どこか照れくさい会話。
―――なるほど。確かにぼくらは、今この瞬間、青春してるのかもしれない。
会話の外側、頭の片隅で少しだけそう感じさせられた。
まあ。顔だけは無駄に美少女なデコにそんなことを言うのは、恥ずかしいから嫌だけどな!
そんなぼくの恥ずかしさを感じ取ったか、あるいは別の何かに突き動かされたか。
誤魔化すように視線を切ってデータ茶を煽ると、小金井は透明な笑みにいつもの快活さとにやにや感を乗せて言ってきた。
「青春
「青春が輝き過ぎデ
「ふふふふ」「はははは」
「クッキー手裏剣!」
「お盆シールド!」
そうして我々は、またいつものようにバカ騒ぎをする。
少しだけ、熱を持った顔を、赤くなった頬を誤魔化すように―――
良ければ小金井も、一緒に青春してみないか?
その言葉は、声に出さずに投げかけた。
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