祭りの夜へと揺蕩う、準備初日の参戦プレイヤーズ

 ちづるへの返信を送り終えた後。

 一仕事終えた気分で水分補給を済ませ、再びブレイブクレストへログインする。

 拠点である空き地に降り立てば、目の前には二人の美少女が座って談笑していた。


「あ、ライナズィアさんおかえりなさい!」

「おかえり、ライナ」


 オレンジのショートカットから左右二房を長く垂らしたみかんさんと、黒い三角帽から艶やかな黒髪を真っ直ぐ伸ばしたはるまきさんの二人。

 いずれ劣らぬ美少女達が、それぞれの表情で挨拶をくれる。

 ああ……それだけで、ちづるショックに汚染された心が洗われるようだ。最初にメールしたのはこっちだし、汚染は言い過ぎでちづるに失礼だけれども。


「ただいまでございます、お待たせしましたよ。

 公式に七夕祭りのイベント告知を出して来ましたので、お二人も一度ご確認くださいませ」

「告知とかすごいです!

……どうやったら見れるんですか?」

「私が表示するわ、一緒に見ましょう」

「はいっ、はるまきさんお願いします」


 ぼくが落ちていた数分の間にすっかり打ち解けたようなんだが。いったい何があったんだろうか。

 そもそもあのいい加減な説明でここにたどり着いているはるまきさんが不思議なんだけど……まぁいいか、魔女だしな。

 そのうち、ノーヒントで妖女の方も辿り着きそうで怖い……どっかから見られてないよな?


「七夕祭り……つまりライナは、大衆の前で目立ちたい」

「目立つことが目的ではなく、それはあくまで目的を達成するための手段でございますよ。

 はるまき様にも、今やれることとお時間など相談しつつ、色々ご協力願いたいです」

「いいわ。

 あなたがやれというなら、着物で織姫役だってしてみせるわ。帽子は取らないけど」

「そこは帽子も取れよ!

……こほん、失礼」


 思わず素で突っ込んだぼくに、やや勝ち誇った笑みを見せるはるまきさん。

 くっ、釣られたか……! ちょっと悔しい。


「あなたが水着で彦星をするなら、少しだけ考えてあげるわ」


 水着で彦星とか斬新過ぎるし、それなら自力で泳いで川を渡れそうな気がするから七夕が根本から不要じゃないかな?

 でも突っ込まない。今度は突っ込まない。


「で、この子は?」


 突っ込みたい気持ちと戦い勝利したぼくに、突っ込み不発でやや不満そうなはるまきさん。そんなぼくらのやりとりを、みかんさんはなぜか羨ましそうに見ていた。

 はるまきさんに示されたことで話題に入れたからか、嬉しそうに尻尾を振り―――違う、尻尾はない。犬尻尾+犬耳とか似合うと思うけど。


「はいっ。

 先ほども名乗りましたが、私はみかんです、よろしくお願いします」

「はるまきよ、改めてよろしく。

 ここに居るってことは、七夕祭りの協力者ということでいいのよね?」

「んーと」


 どこまで説明するか、まだ決めてなかったな。

 一応、みかんさんと話し合わないと。


「はるまきさんは、ライナズィアさんの相棒でパートナーでいつも隣に居る相手なんですよね?」

「ん?」

「ええ、そうよ。

 以前は毎晩のように二人一緒に夜空を飛んでいたものだわ」


 おそらくぼくがインする前に聞いたんだろう、みかんさんの表現をはるまきさんが肯定する。

 いつも隣に居る……うーん、そこはどうだろうか。相棒&パートナー他の二つはとりあえず否定しない。


「ゲーム内で空を飛べるんですか!?」

「あー、それはブレイブクレストとは別の、以前やってたゲームの話でございます。

 はるまき様とはそのゲームで知り合い、それからそこそこ長い付き合いになってございますよ」


 魔術師達がほうきに乗って戦う『ウィザーズ・スカイハイ!』

 全盛期は、毎晩ほうきに跨り空を駆け巡ったものだ。少し懐かしい。

 それはそれとして、この世界でも飛行魔術や乗り物がないとは限らないが、今のところは見つかってない。


「二人きりで隠れボスを撃破したりしたものだわ。

 その頃から、私はライナの相棒でパートナーよ」

「分かりました!

 ライナズィアさんの相棒さんでしたら、私も全部お話しますね」

「ん……みかん様、よろしいのですか?」

「はいっ。

 ライナズィアさん、どこまで話していいか困ってましたよね?」


 おおう……結構しっかり見てるんだな。

 ちょっと感心しつつ、頷いて返す。


「この後も全員に話すかどうかはまだ分かりませんけれど。

 ライナズィアさんの相棒のはるまきさんには、私からちゃんと説明しますね」

「事情はわからないけれど、信頼されたならそれを裏切ることはしないわ。

 ライナに誓って」

「それは、神様に誓うより凄そうですね!」

「ええ、最高よ」


 よくわからんが、人を判断基準にするのはやめてほしい。

 ともあれ、みかんさんが事情を説明してくれるそうなので、ぼくは少したまっていたメールの処理に取り掛かる。



 当日暇なら行くーとか、楽しみにしてるよーとか、頑張ってねーとか、とりあえずの返信をくれたのが5人。

 協力してくれそうな雰囲気なのがリーリーさん。

 それぞれに対し、お礼や挨拶など返事のメールを出していく。

 ああ、課金速達っていいなぁ。こんなに便利だと、イベントのたびに課金ちゃりんちゃりんしてしまいそうだ。


 それから―――


「あー、告知出してからまだあんまり時間経ってないのに」


 公式に掲載されたイベント告知を見て連絡してきてくれたのだろう、フレンド以外からのメールが2通届いている。


―――――――――


From:チョリソー


リアルメールも確認しましたチョ。

また祭りをするから手伝えというメール翻訳で当ってたみたいだチョ。

おっけー、手伝うチョ。



実は、サービス開始後の宇宙人パレードの時に、すでにらあが居ること気づいてたんだチョ。

衛兵と問答してる姿を写真に撮って晒したのはチョであるチョ。ざまあw


―――――――――


「ちょりそぉぉぉ!」


 ぼくの雄たけびに、二人がびっくりしてこちらを振り返った。

 小さく謝罪してなんでもないと返すと、二人はまた話に戻る。


「それで、PK?っていう人たちに襲われた時なんか、片腕で抱きかかえられて、命に代えても守りますって、守りますって! きゃー!」

「それはずるいわ、私なんて最近はすっかり戦力扱いで、まったく守ってくれないし、ずるい。

 一昨日なんて、私にボスの相手を任せてその間に若い子を口説いて―――」


 おいこらちょっと待て、あんたら何話してるんだ。

 七夕祭りの目的とかみかんさんとお姉さんの話をしてるんじゃなかったのか、はるまきさんもずるくないし戦力として頼ってるんだし良いだろうが相棒のウィザード。


……気になる点、突っ込みどころはすごく多いが、見えてる地雷原に自分から足を踏み入れるほど無謀ではないつもり。

 聞いてなかったことにして、去年大学であった恥ずかしい話を添えて適当にチョリソーに返した。



『フレンド以外からのメール』と言ったが、ある意味間違いでした。

 別ゲーではフレンドだし、リアルでも友人だった。つまり、以前からの知り合いでござった。


 チョリソーは大学の友人で、ラシャ・ちづるに続いてリアルでメールを送った3人の内の1人だ。

 かつては別ゲーを一緒にやってたし、去年まではいくつかの授業が同じだった。

 そのよしみでイベント戦力として宛てにし、期待通りの参加表明。

 しかもラッキーなことに大工らしい。日曜までレポートが忙しいらしいので、月曜からたっぷりこき使うとしよう。

 あ、早めに椅子とか机だけ余ってたら回してもらおうっと。



 メールの返事を書きつつ様子を伺えば、どうやらウィザーズ・スカイハイ!のほうきの構造についてはるまきさんが講釈中。

 おいあんたら、七夕どこいった。


 まあ二人はほっといて、チョリソーには適当な返事とともにフレンド申請を送って一段落。

 最後の一通のメールを確認する。


―――――――――


From:クルス


はじめまして、告知を見てメールしました。


イベント、何かできることはあるでしょうか。

どうすればいいんでしょうか。


興味があります、フレンドも欲しいです。


―――――――――


 何と言うか、口数は少なめだけど、とっても普通の人。ちづるヤンデレとかチョリソー盗撮者の後だと、すごくほっとするメールで嬉しい。

 こういう普通の人が大事なんです。主に精神的疲労感が少ないスタッフという意味で。

 丁寧に対応しましょう。




 さて、ここまでの状況を整理しよう。

 七夕の思い出イベントに到る経緯を共有したはずの二人を呼び寄せ、メモ帳と言う名の、ブレイブクレスト内の入力画面を取り出して二人にも見えるようにする。


「まず、現時点のスタッフおよび候補でございます」


―――――――――


【準備&当日スタッフ】

ライナズィア なんでも(転職)

みかん    裁縫職人&農家

はるまき   調理師

ラシャ    ?(がち初心者)

チョリソー  大工


【未定、協力見込み】

ひげせんにん 剣職人

わきざしまる 調理師

リーリー   ?


【その他】

クルス    ?

C      ?


―――――――――


「もうすでに何人も集まってるのね。

 りーの生産職は見習薬剤師、ランクアップ後はほとんど上げてないはず」

「分かりました、修正っと」


 はるまきさんからの情報に、リーリーさんの職業を変更。見習薬剤師なら、採取系は適正あるからそっち方面かなぁ。

 一体何人…とかぶつぶつ呟くはるまきさんの横で、みかんさんが申し訳なさそうに尋ねた。


「がち初心者って、すごく初心者ってことで合ってますよね?

 そんなに初心者の方に、お手伝いとかしていただいていいんでしょうか?」

「ラシャのことであれば、構いませぬよ。

 ぼくが雇った、いわばイベントに対する傭兵・・でございますので。戦力としては一級品ですかと」

「リアル?」

「ええ、リアルの友人でございます」


 はるまきさんの端的な質問確認に、首肯と共に答える。

 こき使える間柄、感激です!

 すまんラシャ、頼りにしてる。チョリソーともども、自重せずに超こき使うつもりです。


「私のことも頼ってくれて構わないわ、というか頼りなさい」


 ラシャに謎の対抗意識を燃やしたのか、大きな胸を張るはるまきさん。あんまり揺らさないで下さい、つい視線が釣られちゃうから。


「ありがとうございますね」

「で―――」


 胸を揺らしたはるまきさん、そんなぼくの返事に一つ頷くと―――目を細めて、静かな静かな声を出された。


「二つ聞かせなさい。

 この中に、女は何人いるのかしら?

 わざわざ伏字にした『C』とは誰のことかしら?」



……いや、あの。冷気が滲みだしてるんですけど……




 男:4名(まだキャラには会ってないが、ラシャ・チョリソーとも中身は男。あとはひげせんにんさんとぼく)

 女:4名(みかんさん、はるまきさん、わきさん、リーリーさん ※参加表明順)

不明:1名(メールをくれたクルスさん。名前しか分かりません)


 Cはスタッフとして参加するか未定のため、まだ名前は出せません(女)




 ほうら分かっている限りは男女同数です! Cはカウントしないしクルスさんは男かもしれません、問題なし! って待って頬を抓らないで痛い痛い凍る凍る!

 あとなんか、みかんさんからもわきばらぐりぐりしないで、やめてくすぐったい敬語ロールプレイが崩れちゃうから!

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