果てなき世界で一緒に見つけよう自分だけの専用マイウェイ

 ブレイブクレストのキャッチコピーは「果てなき世界で、自分だけの何かを見つけよう」である。


 フルダイブ型のVRMMOとして、この世界でプレイヤーは何だってできる。

 これは、ただ単純に「戦士でも魔法使いでも好きな職業で攻略してね」という意味ではない。

 人として身体を動かす、物理法則に従う限りで、およそやれることの制限がない、ということだ。


 例えば、フィールドに生えた一本の木。

 素手で殴れば手を怪我するが、斧を打ちつければ伐採することができる。

 伐採した木を加工して木材にして、道具や装備を作ることができる。

 戦闘で使った木の盾が壊れたら、砕いて燃やしてたき火にすることができる。

 そのたき火で肉や魚を焼けるし、燃え残った炭で字を書くことだってできる。


 およそ、物理法則や化学法則に従う限り、何だってできるのだ。

 とは言え全てが現実世界の法則100%ではなく、そこはゲームらしく便利な機能や時間短縮は満載。

 切り倒した大木は、皮をはいだり干したりすることなく、大工の材木加工スキルを使えば短時間で木材が完成する。



 とまぁ、ここまではシステムや法則に従った、言わば現象的な『何でもできる』だが。

 生活的、あるいは文化的にも『何でもできる』のだ。


 最初に言った、戦闘を行い冒険をすることはもちろん。

 職人として何かを作り、冒険を支援することも。

 街に住む人々を相手に、生活の一部を担い、対価を得ることも。

 畑を耕して野菜を作ることも出来るし、船で海に出て漁も出来る。

 新聞記者だろうがお城の兵士だろうが、暗殺者だろうが何でもだ。


 つまり、何が言いたいかと言うと―――


「みかん様が、このブレイブクレストの世界で、何をやりたいかが大事なわけでございます」

「ほわぁ……」


 露店で装備を選ぶにあたり、どんな装備が欲しいのか。

 確認してみたところ、欲しい装備のイメージは特にないそうだ。

 ただ漠然と、最近大変になってきて辛いから、装備をよくすれば楽になるはずと考えたらしい。

 今までの装備も、最初の説明プレイチュートリアルでもらったから使っていただけで、そもそもゲーム自体に慣れていない。


 この状態で装備を買っても、パラメータ上は改善するけれど、すぐにまた辛くなってきて根本的な解決にはならない。

 少なくとも、楽しさを向上するには、もう少し違ったアプローチが必要だろうな。

 そう思ったので、今はその辺で売ってたアイス片手にベンチでお話し中です。


 ひとしきりぼくの説明を聞いたみかんさん、隣に座って感心するような表情が少しくすぐったい。

 あ、アイス垂れちゃいますよ? 早く食べてね。


 アイスとは言っても、NPCが販売しているアイスキャンディー。

 コンビニとかによくある薄味の果実水を、ただ凍らせてなぜか柔らかくなったみたいな、現実では再現しにくい食べ物です。


「何の装備を買えばいいか分からないというのは、やりたいこと、得意なことが分からないからこそだと思うわけで。

 そもそもこの世界でどんな風に過ごしたいか、何はしたくて何はしたくないか。

 そういうところから、この世界での生活の仕方を一度考えてみると良いのではないかと思うのでございますよ」

「やりたいことは―――」


 ぼくの言葉に、衝動的に口を開きかけ、硬直し。

 やっぱり目線を反らして口を閉じる。


 それから溶けかけのアイスを慌てて舐め、手元アイスが安全になってからアイスを見つめたままためらいがちに口を開いた。


「えっと。

 ゲーム自体初めてで、そんなこと考えたこともなかった、です」

「ゲームが初めてですと、そうかもしれませんね。

 ならとりあえず、冒険をする上で、どういう戦闘スタイルが楽しいか、無理がないかを探してみませんか?

 少し、一緒に外をお散歩でもしながらね」

「えっと、あの。

 よろしい、んですか? 時間とか、そんなに付き合ってもらって」

「大丈夫でございますよ。

 この時間帯は友人フレも居りませんし、今日の予定は特にないですから」


 制限用装備の修理も終わったし、暇と言えば暇。暇と言わなくても暇。


「この世界での生き方を模索し、誰かが楽しく過ごせるその一助になる、というのは……言ってみれば、ぼくのライフワークでございますれば。

 むしろ、こちらから頭を下げて『ご一緒させて下さい』なのでございますよ」

「そんな!

 えっと、私のほうが、その、ご一緒させて下さいです!

 あの、よろしくお願いしますね」


 丁寧に頭を下げるみかんさん。

 お辞儀にあわせて揺れた髪の長い部分がアイスにべっとりつき、泣きそうな顔で慌てているのを笑うのを堪えて拭いてあげる。

 スキルで洗浄すれば一瞬なんだけどね!




 そんなわけで。

 戦闘スタイルの確認用に、安物の武器を自動取引掲示板で何種類か購入。

 アイテム整理やらおやつやら準備を整え、みかんさんを連れてフリークブルグの西門から平原へと繰り出した。

 天気は晴れ、もうじき夕暮れという時刻。街道をはずれ、平原を突っ切る形で二人で歩く。


「ライナズィアさんは、戦士なんですよね」

「ええ。今はみかん様と同じでございますね」


 みかんさんのレベルは15、職業は20制限のぼくと同じ戦士。

 パーティ組んだので見れるステータスは、こんな感じでした。



-------------------------------------


名前:みかん

Lv:15

職業:戦士 / -


 STR: 34

 VIT: 21

 DEX: 12

 AGI: 26

 MAG:  4

 MND: 13


-------------------------------------



 STRは力、VITは体力、DEXは器用さ、AGIは素早さ、MAGは魔力、MNDは精神力。

 それぞれ、物理攻撃力、物理防御力、命中、回避、魔法攻撃力、魔法防御力と大ざっぱに覚えてれば十分。

 HPやMPの計算式とかクリティカル率とか異常抵抗力とか色々あるが、ステータスを割り振る時に簡単に説明が表示されてるから、細かいところは覚えなくても大丈夫だ。


 戦士は特徴として、STR体力VIT素早さAGIが高く、魔法関連MAG&MNDが低い。

 ステータス値は、レベルアップごとに職業固定で4,5点上昇し、さらに2点分を自分で好きなように割振りできる。

 どうやらみかんさんは、STRとAGIに高めに振ってるようだ。


「あ、あのぉ」

「はい、なんでしょう?」


 ステータスの確認をしてたら、胸元に手を当て、少しだけ困ったように見上げてくるみかんさん。

 街の外に出たからか、今は両サイドの長い髪を耳の後ろでツインテール風に束ね、頭には駆け出しの額当てをつけている。

 全身駆け出し装備で、武器はインベントリにしまっているためか両手は素手。


「えっと、あの。

 私の方が年下ですし、様とか、あの、いらないですよ」

「ああ……なるほど」


 初対面でこの呼び方+口調だと、時々こんなことを言われる。

 具体的には、昨日会ったリーリーさんとか。


「VRMMOとは、ネットワーク上で他の方と一緒に遊ぶゲームですから。

 初対面の方を相手に礼儀を尽くすのに、年齢の上下とか関係ございませんよ。

……そもそも、外見と実年齢は必ずしもイコールじゃないですし」


 このゲームに限らず、VRシステムの制約上、フルダイブでは体格については実際の肉体から大きく変更する事はできない。

 だが顔については少し制約が緩く、多少の生え際・・・や肌の状態は変えられる。

 なので、某ひげづらの仙人様だって、リアルで小柄な老人か小学生かは不明なのだ。


 ちなみに性別と声もキャラメイクで変えられないが、声はスキルやアイテムで一時的になら機械音声に変えられる。

 リリース直後、モンスターの皮を被って機械音声の集団パレードとかやったなぁ……

 NPCの衛兵が大勢でやってきて一悶着あったことで、結果的にこの世界の衛兵NPCのAIがすごくよく出来ていることを理解できました。

 なんとも言えぬ苦々しくも珍妙なものを見たけれど笑ってはいけない、という引きつった衛兵の顔は表現力の素晴らしさを世に知らしめる珠玉の一枚として


「あ、あう……

 でもなんか、その、そんなに私立派じゃないっていうか」

「ははは。

 これはぼくのロールプレイキャラ立てでございますれば。諦めてね?」


 3分の1の理由を前面に押し出し、否定はさせない。

 特別失礼な呼び方をしてるわけでなし、そう言われればちょっと不服そうでもみかんさんは頷き


「なっ、なら!

 私も、ライナズィア様って呼びますから!」

「いや、それはちょっと」

「なんでですか、私もキャラ立て?です!」


 それで立つキャラはメイドとかそれ系だと思うんですがみかんさんにメイド服とか可愛らしくてよく似合うと思います。

 胸以外はちっちゃくて可愛らしいし、妹メイドとかなってくれると最高級。


 とか騒ぐ合間に、大きなねずみが近づいてきた。

 身体はこげ茶色、頭には大きなでっぱりのある『コブネズミ』である。

 ほぼ、最弱モンスター。


「お、出ましたね。

 みかん様、まずはスキルを使わずに、普通に倒してみて下さい」

「分かりました」


 ウインドウを操作し、何も持っていなかった手の中に大剣を握るみかんさん。

 駆け出しの大剣……チュートリアルクリア後にもらえる、耐久のバカ高い装備品だ。


「えーい!」


 手にした大剣を、可愛らしい掛け声とともに真上から振り下ろす。

 スパっというより、ぐちゃっといった感じで、一撃で撃破。

 まあ雑魚過ぎたか。


「うん、お見事です」


 剣の重さを利用した、真っ直ぐな振り下ろし。正解でもあり、間違いでもあり。

 敵が弱すぎて、なんとも判断つかないですね。




 その後は時々あらわれる雑魚を退けつつ、平原をやや早歩きで抜ける。

 辿り着いたのは『円空の丘』

 アクティブモンスターの存在しない、ハイキングにぴったりの場所だ。

 推奨レベルは前半が10、後半が15から。


 お互い時間に余裕があることを確認し、一旦ログアウトして10分ほどリアル休憩。

 万全の準備を整えて、いざハイキングへ!

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