表現力は風も表情もすごいけれど一番はやっぱり熱々ホットドッグ

 大剣での戦闘。

 STRがあるので武器の重さはほとんど感じてないはずだが、大きさに取り回しが追いつかず大振りになっている。

 みかんさん自身が人より小柄なため、やっぱり扱いづらそうだ。


 片手剣+盾。

 石を投げつけられて向かってくるトドコウモリを、盾で受けてから剣を振るう。

 空中の敵でやりづらそうだったが、防御から攻撃への切替えは早く、反応は良かった。


 槍。

 最初はボアウルフの突進を正面から受け、支えきれずに槍を取り落とした。

 一度手本を見せたら、次からはかわして突くという戦い方にすぐ慣れた。呑み込みが早いね。


「ライナズィアさん、すごいですね!」

「ぼくは今は20レベルですから、レベルを上げればこのくらい出来るようになりますよ」

「全然、できる未来が見えません!」


 そこを元気よく肯定されるのもどうだろう? と思いつつ、ボアウルフを一刀両断した大剣を肩に担ぐ。

 ちなみに大剣の場合、サイズのせいで鞘に入れるとすぐに抜けない。だから移動中は肩に担ぐか、いちいちインベントリに仕舞うのが主流。

 すぐに武器を使えるようにする、というのは冒険をする上では大事なことなのです。

 異世界感のあるリアルってすごくいいよね。


「はい、次は弓でございます」

「私、弓を使うの初めてです」

「ガイド機能があるから、すぐに慣れると思いますよ」


 STRが高ければ、一定まで身に着けた装備品の重量が軽減される。

 それと同じように、器用さDEXが高ければ、弓での攻撃時に自動で命中するように補正が入る。

 この辺はVRシステムならではで、パラメータが高ければ現実の力量に補助が入るし、パラメータやスキルなしでは現実の動作の全てを再現できるかは難しい。

 リアルで曲芸が出来ても、ゲーム内でその通りに身体が動くとは限らないってことだな。

 なお、知識は除く。だからステータスに『知力』はない。



 ノンアクティブなモンスターとは、こちらから攻撃するまでは襲って来ない安全なモンスターのことだ。

 歩いている時に突然襲われたりしない分、戦闘の開始は常に自分たちが決められるし、常に先手が取れる。

 ここ『円空の丘』のモンスターは全てノンアクティブ。非戦闘状態では木や崖にぶらさがっているトドコウモリを、弓を構えたみかんさんが狙い撃つ。

 一発目を羽根に当てて地面に落とすことに成功するが、敵が地面を転がってきたせいでかえって狙いづらいようだ。


「接近戦になったら、武器持ちかえてもいいのでございますよー」

「あ、そうですね!」


 しまっていた自前の剣をインベントリから取り出し、つんつんと突いてトドコウモリを倒す。

 なんだかばっちぃものを突っついてるみたいだが、ちゃんと倒せてるのでそれで良し。


 次は胴体を射って一度敵を飛び立たせ、空中の敵を射撃。

 一発も外さず敵を射抜き、弓については予想以上の腕前を見せてくれた。


「戦士ってDEX低いから、ほとんど補正ないはずなんだが。みかん様、お見事でございますよ」

「えへ、ありがとうございます! なんかうまくいきました!

 はい、次はライナズィアさんの番ですよ?」


 番……番なんだろうか?

 いや、お手本にならないと思うんだけど。まあいいか、ステータスの力で良いとこ見せちゃおう。


 弓を引き絞り、放つ。

 ノンアクティブで動かぬ的、一撃で眉間を射抜き瞬殺。


「すごい、弓でも一撃なんですね!」

「ぼくのステータス、DEX全振りですので。パラメータ的には、弓も得意武器なのでございますよ」


 普段は剣で前衛だけど、敵によっては接近戦が難しい場合もある。

 今のところ、このゲームでは前衛死滅って感じのボスは居ないけどさ。


……いや、一匹だけ居たか。

 あいつは苦労したなぁ……鍛錬相手という意味では最適だった。


「DEX……攻撃はそんなに外れないし、上げたら何がよくなるのか分からなくて、上げてないです。

 優先的に上げた方がいいんでしょうか?」

「趣味の世界でございますよ。

 基本的には、MAG以外どれを上げても何らか強くなれるけど、DEXについては武器を扱うのに必要な分だけあればいいと思います。

 DEXで命中や的中、クリティカルに補正があるけど、結局は自分の身体を動かして敵を攻撃するわけですからねぇ」


 極論、武器を振るうためのSTRと、素早く身体を動かすためのAGIがあれば攻撃に必要なステータスは成り立つ。

 DEX全振りの戦士は、全く居ないわけじゃない……多分いるはず、いるといいな。特殊なケースだ。正直に言えば、あんまり居ないと思う。


 そんな特殊なケースのぼくのステータスはこちら。

 20レベルの制限中でございます。



-------------------------------------


名前:ライナズィア

Lv:20

職業:戦士 / 薬剤師


 STR: 40

 VIT: 20

 DEX: 35

 AGI: 25

 MAG:  5

 MND: 15


-------------------------------------



 DEXの半分ある程度振っているため、一番高いステータスはSTRだけれど。

 戦士のDEX全振りは、やっぱりレアケースです。普通は弓術士とかDEX武器使いしかしないよなぁ、そりゃ。




 そんな感じでシステム的な解説をしつつ、円空の丘を二人で進む。

 少しだけフリークブルグより標高が高いためか、街中より涼しげな風が吹き過ぎ心地よい。

 やがて前半の道のりを踏破し、中腹の安全地帯に到着した。


「ここで小休止といたしましょう」

「はい!」


 元気よく頷くみかんさんを促し、置いてあるベンチに布を敷いて座らせる。

 腰かけた二人の間に並べるのは、出がけに調達してきたホットドッグとレモネード。


「これは?」

「そろそろ小腹も減ったでしょうし、今日のおやつでございますよ。

 ぼくのおごりですから、遠慮なくどうぞ」

「そんな、悪いです!

 私もちゃんと非常食は持ってますから、大丈夫ですよ!」


 そう言ってみかんさんが取り出したのは、NPC産の干し肉。

 チュートリアルで必ず手に入る&食べるまで話が進まないため、皆がこの世界で一番最初に口にする、満腹度を増やすためだけのシステムアイテムである。

 味は、とてもおいしくない。


「それ、控えめに言いましてゴム」

「うっ」


 ぼくの指摘に、同じ事を思っていたらしいみかんさんが呻きつつ目を反らす。


 味がないわけじゃないが、何とも表現のしづらい、うーーーーんと眉間にしわを寄せて首を傾げるような味わい。

 食感は、密度の詰まったこんにゃくとでも言うべき、ハードなゴム。

 一生懸命噛まなければ飲み込むこともできない、精神的な体力・・・・・・を消耗する満腹度回復アイテムだ。

 ちなみに、ハサミで切ることもできない。噂では調理しようとして包丁が欠けたとかなんとか……


「ほら、プレイヤーが作ったホットドッグは、ちゃんとおいしいのでございますよ?

 出したばかりだから熱々で、上に掛けて炙られたチーズとピリ辛のケチャップがまた格別でして」

「ううう……で、でも干し肉、お安いんです! 庶民の味方です!」

「料理に求めるのは満腹度の回復ではない、心の満足感でございます」


 食い下がるみかんさんをノリノリでぶった切り、干し肉ゴムを取り上げてホットドッグ食べ物を持たせる。


「さあ、まずはご試食を。

 ブレイブクレスト、その表現力に圧倒されるが良いのでございます」

「うー。

 じゃ、じゃあ、せめてお金払います、払いますからね!」


 いくら呻いても一歩も譲らないぼくに折れたのか、みかんさんが拗ねたような眼差しのままホットドッグに齧りつき―――目を丸くする。

 おお、いつも以上におめめがおっきい。なんとも分かりや


「熱さで張りつめたウインナーに歯を立てた隙間から溢れ出す肉汁がパンに染み込み、噛み切る歯ごたえとパンの甘い香りがチーズの風味を纏い怒涛のごとく押し寄せてきます! さらに噛み進めることでキャベツの甘みとトマトの酸味、ケチャップに混ぜ込まれたマスタードの辛みが三位一体となって肉汁を彩り波状攻撃です! 隠し味に混ぜられた唐辛子と柑橘の風味が時々ピンポイントで舌に突き刺さり、飽きを感じさせぬ配分に手が、口が止まりません!

 有り体に言って、95点!」


「お、おぉ……う」


 ばくばくと食べ進めながらマシンガンの如く食評を唱えるみかんさん。

 ぼくの方が、その表現力に圧倒されました……


「あ、ありていに、なんだ?」

「はい! 有り体に言って95点です!

 90点越えたら、それはもう個人の嗜好の世界ですので実質100点です!」


 よく分からんが、べた褒めということでいいらしい。良かったね、ホットドッグ作ってくれたわきさん。実質100点だってさ。



「舌を引き絞りレモン汁を刷り込むようながつんとした酸味に、炭酸も舌を強く刺激して味覚の袋叩きにされてい―――」


 その後レモネードを口にしたみかんさんはまたもその表現力を炸裂させるわけですが、あくまで個人的好みによる評価としまして83点でした。

 点数が低かったからか、ホットドッグよりも食評は短め。もうちょっと甘い方が好みだそうです。

 お菓子類も買っておくべきだったかー。




 涼しくのどかな丘で、初心者を案内しながらハイキングを楽しむ。

 そんな穏やかな時間をぶち壊す危険が迫っていることを、この時はまだ知る由もなかった。

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