異変4

「シールドッッ!!」


 魔王の声が聞こえたため、詠唱して魔法を発動させる。 軽い立ち眩みがした後、一瞬で、俺の体をシャボン玉の様な薄い膜が覆った。


「ああああああああああああ!!」


 ネクロちゃんは、絶叫し、俺を切り刻もうと攻撃を続けるが。 攻撃は全てシールドの魔法によって弾かれる。 その様子を、朦朧とする意識の中で見ていると魔王の声が脳内に響く。


(防御魔法を選んだのは良い判断だ、回復薬を転送した。 さっさと飲んで止血しろ。 それ以上出血すると、本当に死んでしまうぞ)


 魔王の言葉で、いつの間にやら転送された回復薬の存在に気が付き、一気に口から流し込む。 すると僅か5秒足らずで傷が塞がり、足が再生した。 相変わらず凄い効果の回復薬だと実感する。


「ありがとう。 助かった。 でも、何でこんなに早かったんだ? まだ一日も経っていないと思うんだが、薬を作るのに、3日は、かかるんじゃなかったのか?」


(そんなにかかる訳ないだろ。 3日と言ったのは、作るのが面倒だったから、お前をあきらめさせようと思って言った嘘だ)


「タチの悪い嘘をつくなよ、もうダメかと思ったじゃないか」


 まあ、嘘であったために助かったのだから、結果的に良かったのかもしれないが。


(うるせーよ。 それよりコレをガキにかけろ。 魔物の血液を中和するハズだ)


 転送されてきた瓶には、毒々しい色合いをした液体が入っていた。 とても薬には思えないので魔王に直接聞いてみる。


「毒にしか見えないが、本当に、この液体をかければいいんだな、コレで治るんだよな?」


(魔物の血が原因だったら間違いなく治る。 つーか、それで治らなければもう知らん、その時は素直にあきらめろよ)


「諦められるほどの器量が無いから俺はアナタに生き返らせてもらったんだけど……本当にあきらめると思う?」


(言ってみただけだ。 だが、ダメだった場合は、本当にこれ以上のことはしないからな。 あとはお前で何とかしろ。 私はもう知らん)


「了解だ」


 一通りの会話を終えると、まるでタイミングを見計らったかのように、シールドの魔法が解けた。


「あああああああああああああ!!」


 同時に、檻から解き放たれた獣のように、雄叫びを上げ、ネクロちゃんが襲い掛かってくる。 音を置き去りにするほどの速度で剣を振るうが、体調が万全となった今では、その程度の攻撃が当たるわけがない。 体を捻り、最小限の動きで攻撃を躱しきる。


(ほう、対人戦がそれなりのレベルになっているな。 案外、良い訓練になったんじゃないか?)


「言ってろ。 それよりも、これで治ればいいんだがな」


 魔王の戯言は軽く聞き流して、ネクロちゃんの剣を持った腕を片手でつかみ攻撃できないように動きを封じて、転送してもらった液体を頭からかける。


「ああああああああああああああ!!」


 するとネクロちゃんは、頭を抱えてその場でのたうちまわりだした。


「おい、本当にこれで治るのか? メチャメチャ苦しんでいるように見えるが、やはり毒だったんじゃないだろうな!?」


(毒ではない、理論上はコレで元に戻るはずだ。 苦しんでいるのは薬が効いているからだと思うが、詳しいことは知らん)


 なんとも頼りない言葉だが、すでに液体はネクロちゃんに全てかけてしまった。 あとは様子を見守るしかできないため、俺はその場でのたうち回るネクロちゃんをオロオロとした態度で、見守ることしかできなかった。

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