異変3

「あああああああああ!!」


 奇声と共に向けられた殺気を受け流して、攻撃をかわす。


「くそっ、捌きにくい攻撃イッッ!?」


 一瞬の気のゆるみから、攻撃を受け流すことに失敗して、左手の指が2本吹き飛んだ。 アレから、まだ1日も経過していないにもかかわらずこの様だ、果たして3日持つのだろうか。


「いや、疑問に思うことは止めよう、持つ。 持たせて見せる」


「あああああああああ!!」


 自分に言い聞かせて発した声をネクロちゃんの絶叫がかき消すと同時に、再び攻撃が再開した。


「ッッ!? 早いッッ!!」


 ここにきてネクロちゃんの攻撃が速度を上げる。 素早い攻撃に対して必死に避けるが、やはり全ては避けきれない。


「ぐッッ!!」


 今度は、かすり傷ではなく、右足を突き刺された。 ネクロちゃんが奇声を発しながら剣を抜くと鮮血が噴き出す。


 マズイ、今までは致命傷を負うことが無かったために何とか攻撃を防ぐことができていたが、この傷は違う。 明らかに俺の動きを制限する。


「あああああああ」


 負傷した足をかばいながら、回避に徹するが、簡単によけられるほど甘い攻撃は仕掛けてこない。 見る見るうちに体中がネウロちゃんの攻撃で赤く染まっていく。


(面倒だから殺してしまえよ)


 ふと、魔王の言った言葉を思い出した。 そして一瞬だが、殺してしまえば楽になれると考えてしまう。


「ああああああああああ!!」


「しまッッ!!」


 ネクロちゃんの奇声で正気に戻り、再び攻撃を躱そうとするが、今度は左足がズタズタに引き裂かれてしまった。


(面倒だから殺してしまえよ)


 左足の激しい痛みと共に再び、魔王の言った言葉が脳内に響いた。 殺されなければ殺される。 そう強く実感した時に、拳が自然とネクロちゃんの頬へとめり込み、気が付けば殴り吹き飛ばしていた。


「……俺は、何をした?」


 吹き飛び砂埃を巻き上げて地面を転がっていくネウロちゃんを見て俺はひどく後悔する。


 この子を救うと決めたのに、 無意識とはいえ殴ってしまった。 それも年端のいかない子供をである。 罪悪感が体中を支配する。


「ああああああ!!」


 その場で髪を掻きむしり、奇声を上げたネクロちゃんを見て、安堵すると同時に恐怖を覚える。


「今の一撃を受けて、無傷か。 この辺の魔物だったら空中分解するんだけどな。 これも魔人化が進んできている証拠なのだろうか?」


 もしも、魔人化が進み、今以上に強くなられたらと思うと、少しだけ恐怖を覚える。


(面倒だから殺してしまえよ)


 魔人化しきっていない今なら殺せるだろうと、俺の中で声がする気がした。 そんな誘惑を振り切るために、自身の頬に平手打ちをかまして気合いを入れる。


「変な考えは捨てろ、助けるって決めたんだ。 逃げるな俺!! 今できる最善を尽くせ!!」


 気合いを入れながらネクロちゃんの剣に対して、拳で刃が付いていない部分をピンポイントに殴りつけ軌道をずらす。 


「ああああああああ!!」


 叫びながら残像が残るほどの速度で俺の体を切り刻もうとするネクロちゃんの攻撃を剣を殴りつけ防ぐが、それも長くはもたなかった。


 今度は右足が切断されたのだ。 斬られるではない、切断である。 当然立っていることもできずにその場に倒れ込む。


「くそッ!! 終わった。 俺の人生」


 結局一日持たなかったなと諦めの感情が沸き上がる。 足を切断された今、もはやネクロちゃんの攻撃を躱し続かることは難しい。 10秒と待たずに絶命する未来が鮮明に想像できたために思わず瞼を閉じた。


(出来たぞ、クソ野郎……って死にかけてんじゃねぇか!! だから殺せといったんだバカ野郎が!!)


 死を覚悟して瞼を閉じた瞬間に、何故だか聞き覚えのある声が、頭の中を反響した。

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