異変2
「あああああああああああああ!!!!」
(コイツ、めっちゃウゼェな)
叫びながら剣を振り回す、ネクロちゃんの攻撃を必死に捌く。 脳内に響き渡る魔王の呑気そうな声が少し気に障るが、今はそんなことを言っている場合ではない。
「シュヴァリエ、魔人化って病気なんだよな? 治るんだよな?」
(病気とは区分は別だが、今の段階なら治るぞ)
「頼む、助けてやってくれ!!」
(嫌だよ、めんどくさい)
ネクロちゃん攻撃をギリギリで回避して、少し距離をあけたところで魔王は、キッパリと否定した。 何故と思うよりも先に魔王は言葉を続ける。
(特効薬を作る工程も面倒くさいし、更に時間がかかるんだよ。 その間、お前がガキに殺されるかもしれんだろう? 戦って殺した方がマシだから、さっさと殺ってしまえ)
「俺は死なないから!! 約束する。 だから薬を作ってくれ」
会話の途中でもネクロちゃんの攻撃が止むことは無かったために少しだけ足を斬られる。
(ほら見ろ、その程度の攻撃も捌けない癖に、何言ってるんだ。 それに、薬を作るのに3日はかかるぞ。 防御しかしない、お前の方が体力が先に尽きて死ぬのは目に見えているだろう)
魔王が言った3日という言葉が頭の中に響く。 確かに3日間、リミッターの外れた攻撃を受け続けるのは無理かもしれない。
「でも、だけど……」
3日間やるしかない。 彼女が魔人化しかけているのは、元をただせば俺のせいだ。 ならば大人として、防ぎきるくらいできないで、何が男か!! 覚悟を決め、頬を叩いて気合いを入れる。
「3日だな!! 何とか持たせるから絶対に何とかしてくれよ」
(だから無理だって、攻撃を捌き続けるのキツイだろ? それを3日間休憩もなしだぞ? 面倒だから殺してしまえよ)
「辛くても耐えて見せる。 いくら時間がかかろうが構わない!! 頼むから、ネクロちゃんを助けてやってくれ」
(……遠回しに断ってダメみたいだからハッキリ言うが、普通に特効薬作る作業もダルイから嫌だ。 それに、ただの人間を救うために何で私がそこまでしなければならないんだよ? 意味わからない)
俺の言葉に対して、実に面倒くさそうに、魔王が答える。 最初からネクロちゃんを救う気は魔王には無かったらしい。
「分かった、じゃあ俺はネクロちゃんに殺されて死ぬことにする」
(はぁッ!? どうしてそうなるんだよ!?)
「シュヴァリエも俺が死ぬと、また新しい人間を探さないといけないから苦労するだろ? 俺には交渉材料がこれしかないからな」
(もしかして、私を脅しているのか?)
「そうだ、俺に死んでほしくなければ特効薬を作れ!!」
(お前ふざけんなよ? 誰のおかげで新しい人生を得られたと思ってんだ? いいからガキはぶっ殺せ!! めんどくせーんだよ!!)
ワザと、避けられる一撃を避けないで左腕を剣で貫かれた。 動脈を切られたため、血が噴き出すが構いやしない、子供一人救えない命など程度が知れている。
(チッ。 メンドクセー、分かった分かったよッッ!! だが、お前が死にそうなくらい追い込まれたらそいつを殺せよ。 これは、譲れない最低条件だ)
「ああ、分かった。 ありがとう」
魔王に転送されてきた回復薬を飲み、体の傷を全快させる。
(うっせボケッ!! ぜってーお前、今度の人生もロクな死に方しないからな? マジで覚えとけよクソ野郎!! それと、作業中に回復薬の転送はできないからな!? マジで死んだら殺すから覚悟しろよ!!)
一通り俺に対して暴言を吐いた魔王は、作業に入ったのか、それから声がパッタリと途切れた。
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