異変

 大振りだったため軽く身を翻してネクロちゃんの攻撃を回避する。 ネクロちゃんの剣はきれいな弧を描きながら、空を切った。 


(ほう、躊躇なく頸動脈を狙ってきたな)


「大振りだったから良かったけど、急所を的確に狙ってくるって、強い弱い関係なく、恐怖なんだけど」


「何故、避けるッ!? おとなしく首を斬られてよぉおおぉおおッッ!!」


 何故か泣きながら、ネクロちゃんが柄を返して更に三連撃を放つが、コレもギリギリで回避する。


「シュヴァリエ、ネクロちゃんが狂った原因って、本当に睡眠不足と精神的不安だけなのか? 急に尋常じゃないほどに狂ってきてるんだけど!?」


(ごめん、原因違うかも、たしか前にどっかで、こんな感じで狂った人間を見たんだよなぁ、どこだったっけ)


「大至急思い出して!! 出来れば、対処方法も!!」


「シショウ!! しんでくださいよぉぉおお!!」


 ネクロちゃんは唾をまき散らして叫びながら、先ほどとは比べ物にならない速度で連続攻撃を仕掛けてくる。 コレは、完全に回避することはできずに、わずかに剣先で二の腕を斬られた。


「ッッッ!! シュヴァリエ、ヤバイ、何故かドンドン速くなってきてる」


(こっちも反撃すればいいじゃん。 元々、気絶させるつもりで戦いに挑んでたんだし、何を躊躇する必要があるんだよ)


 魔王が言うことはもっともだ。 確かに、最初は、そう思って戦いに挑んだんだが、実際に対峙すると、子供相手に手を挙げるのは抵抗がある。


「ごめん。 無理だ。 ほかの対処法を頼むイッッ!!」


 ネクロちゃんは魔王との会話の途中でも容赦なく、ものすごい勢いで攻撃を仕掛けてくる。 手数があまりにも多すぎたため、再び体をわずかに斬られてしまった。


(対処法と言われてもな……どこで、この光景見たっけな。 思い出せそうなんだよ。 もうここまで来てんだけど……)


 脳内で呑気に呟く魔王だが、こっちは必死に攻撃をさばき続ける。 全ての攻撃を捌くのは不可能だったが、それでも可能な限りダメージを最小に抑えながら捌き続けると、急にネクロちゃんの攻撃がピタリと止んだ。


「ネクロちゃん?」


「あああああああああ!! 何で!! ナンデ!! 殺せないのぉおおお!! こんなにもコンナニモ頑張っているのにぃいぃいい!!」


 一瞬正気に戻ったかと思って声をかけたが、そんなことは無かったようだ。 というかネクロちゃんの目が真っ赤に充血して、更に目の周りの血管が浮き出て見た目がグロくなった。 一体、何が起こっているのだろうか?


(あっ、思い出した。 魔人化する前の人間がこんな感じだった)


「何それ?」


(魔物の血液って人間にとっては毒らしいんだよ。 それを大量に浴び続けると肉体的にも精神的にも魔物化するらしい)


「……ちょっと待て、じゃあ何で俺より先に、ネクロちゃんが魔人化するんだよ。 この世界に飛ばされてから、魔物の返り血浴びまくってる俺の方が魔人になるのが先だろう?」


(いや、だってお前の体、私が作ったし。 そんな脆弱な弱点を付けるわけ無いじゃん)


「………俺って、ひょっとして人間の形状をしてるだけで、中身はすでに人間辞めてない?」


(今更だな。 別にいいじゃないか不具合があるわけでもないんだし)


 肯定しやがったコイツ。


 魔王の唐突なカミングアウトによって、少しだけ俺は傷ついた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る