少女7

「大丈夫ですか?」


「キミこそ大丈夫なのか? 回復薬を飲めといっただろう、何で飲んでいないんだ」


 駆け寄ってきた少女が、未だに止血すらできてない現状に軽い怒りを覚える。


「回復薬なんて希少な物を受け取るわけには、いきません」


「その回復薬はシュヴァリエが作ったものだ。 市場では希少かもしれないが、貯蓄は結構あるから気にせずに飲んでくれ」


「そうなんですか?」


「嘘を言ってもしょうがないだろ、良いからさっさと飲んでくれ」


 少女は、申し訳なさそうに瓶の蓋を開けて一気に回復薬を飲み干す。 すると彼女の体が淡く光に包まれて、先ほどの戦闘で受けた傷が全快した。


「えっ? 瞬時に傷を癒すなんて、回復薬ってこんなに凄いものだったんですか?」


「一般的な回復薬の効果は分からないけど、シュヴァリエの作る回復薬はどれも、こんな感じだ」


「そうなのですか、流石、伝説の大精霊ですね。 強いだけではなく薬学の知識までお持ちとは」


(ハハハッ。 なかなか物分かりの良いガキではないか。 私が、知的であることが理解できるとは。 嫌いではないぞ!!)


 魔王がえらく機嫌よく何か言っているが、軽く聞き流す。 少女は、空になった瓶を見つめると、まるで宝物を扱うかのように、その瓶をポケットにしまい込んだ。


「それより、無理を言って魔物と戦ってもらって、すまなかった」


「いえ、良いんですよ。 どの道、魔物との戦闘は避けては通れない宿命ですし、それに結局アナタが倒してくれたじゃないですか」


「まあ、そうだが。 それを抜きにしても、危険だったことには変わりがないだろう。 一歩間違えればキミは、死んでいただろうしな」


「どのみち、この刻印が刻まれた時点で、遅かれ早かれ魔物に殺される運命ですので、気にしないでください」


 少女は、どこか表情に影を落として、呟くように言葉を発した。 俺は、その言葉を聞いて、まだ幼い少女が、自分の死を受け入れようとしている事実に胸が痛んだ。


「……提案なんだが、もし、よければ、キミを鍛えてあげたいんだが。 どうだろうか?」


「えっ?」


「もちろん嫌ならいいんだ、だが、このままキミ1人では、この場所で生き残れる可能性は低い、せめてこの辺の魔物を楽に倒せるくらいにはと思っているんだが、迷惑だろうか」


「迷惑だなんて、そんなことありませんよ。 私も少しでも長生きしたいならば鍛えなければと思っていたのです。 ぜひお願いしてもいいでしょうか」


「もちろんだ、よろしく頼む……えーと。 名前を聞いてもいいか?」


「ネクロです。 そういえば私も、あなた様の名前をお聞きしていませんでした」


 ネクロは右手を差し出してきたので軽く手を重ねて優しく握手をする。


「中武 龍之介(なかたけ りゅうのすけ)だ」


「中武様、よろしくお願いします」


「こちらこそ、よろしくネクロ。 ……だが様付けは止めてくれ。 むず痒い」


「わかりました、これから気を付けますね中武様」


「………」


 全然わかっていないじゃないか、と思いつつ。 何故か二人して笑顔を浮かべていた。

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