少女5

「はぁ!! やぁ!!」


 少女は、一心不乱に剣を振り回し、蜘蛛型の魔物と互角の戦いを繰り広げていた。 その様子を俺たちは、少し距離をあけて観察する。


「魔王、確か、普通の武器は魔物には効果が薄いと言っていなかったか? 普通に剣としての役割を果たしているが、あの武器も魔道具なのか?」


(いや、あれは魔道具ではなく武器に魔力を通わせているだけだ。 普通の武器も、ああすることで魔物に効果的になる。 弱者の知恵だな)


 魔王の説明を聞いて、なるほどと納得する。 どうやら戦うすべは、少女なりに持ってはいるようなので、ひとまず安心する。 だが、それでも少女の戦い方は見ていて実に危なっかしかった。


「なあ魔王、 少女を手助けするのはダメか?」


 ギリギリの戦いを強いられているため、どうしても手助けがしたくなる。


(ダメに決まってるだろうが、何のためにガキを魔物と戦わせてると思ってんだよ)


「まあ、そうだよな」


(だが安心しろ、ガキとはいえ腐っても勇者だ。 あの様子ならば6割くらいは勝てるんじゃないか?)


「その数字、微妙に安心できないんだけど」


 むしろ、俺の不安をワザと煽っているとしか思えない絶妙な数字だ。 よりハラハラするじゃないか。


(魔物と戦っているのだから安心できなくて当然だろう。 それに、人間は脆いから普通のガキなら、まず最初の一撃で死んでると思うぞ)


「そんなに危険な魔物なのか? 一番初めに相手にしたタイプの魔物だから、てっきり弱いと思っていたんだけど?」


(今のお前ならば一撃だろうが、ガキの年を考えろよ。 戦闘経験豊富に見えるか? あの年ならば、互角に戦えているだけで十分だ)


 そんな会話をしていると、少女は一瞬のスキを突かれ、右腕を蜘蛛によって貫かれた。 鮮血が噴き出すが、少女は怯む事なく、蜘蛛に突撃する。


「魔王!? 彼女結構危なくないか!? 手助けするぞ!!」


(ダメって言ってんだろ。 魔物と戦わせてるのは、どの程度ガキが動けるのか把握する意味合いもあるんだよ。 お前はおとなしくガキの戦いの見学をしてろ)


「でも血が出てる!! 助けないと!!」


(うぜぇボケッ!! ガキなんだから魔物と戦えば血ぐらい出るだろ!! 黙って見ていろ、気が散るだろうが!!)


 魔王の声には、普段の会話にはない殺気が込められていたため、思わず押し黙ってしまう。 


「……死にかけるようだったら、助けに入る」


(……好きにしろ)


 結果的に少女は、魔王の言う通り、辛くも勝利をおさめることができた。 だが、負傷した個所は痛々しく、助けることができたにも関わらず、彼女が傷を負った事に対して見ているだけだった俺は、心がズキズキと痛んだ。

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