少女4
「ところで、何で君はダンジョンに一人でいたんだい? 子供が来るようなところではないだろうに」
尊敬の視線に耐え切れなくなったために話題を無理やり変える。
「私、生贄にされちゃったんですよ」
ニコニコと笑いながら少女が発した言葉は、とても流せるようなものではなかった。
「生贄とは、穏やかではないね。 詳しく話を聞いてもいいかい?」
「そうですね。 私の右腕に奇妙な紋章が書かれているでしょ?」
そう言って、少女は腕を突き出す、確かに腕には何やら模様が浮き出てきていたが、これが何だというのだろうか。
「この紋章は勇者の証なんです。 これが突然、浮かび上がってきたため、私は生贄にされたのですよ」
「………」
「………」
えっ? 終わり? ちょっと待ってくれ。 結局、何で生贄にされたのか分からないんだけど。 それとも、この世界の常識として、今の説明だけで十分なのか?
「すまない、長年、人とかかわる生活を送ってこなかったためか、その辺の常識には疎いんだ。 何故、勇者となった者が生贄にされたのか教えてくれないか?」
「そうなんですか? そうですね。 それでは勇者の説明から始めましょう」
そう言って彼女は、突き出した腕を引っ込めると俺の隣に腰を下ろした。
「この紋章が刻まれるのは、全人類の中でたった1人の人間だけというのはご存知ですか?」
この質問に対して、俺は首を横に振ったため少女は話を続ける。
「この紋章が刻まれた者は、神々から様々な加護が与えられ人類を導いてきました。 一昔前なら喜ぶべきことだったのですが。 今では真逆で、喜ぶ者はいません」
「何故だ? 繁栄が約束されている紋章なんだろう?」
「紋章が現れた者は、魔王と戦う使命を強要されるのです。 今まで魔王に戦いを挑み勝利を収めた者はいません。 つまり、この刻印が刻まれた瞬間から魔王に殺される未来が確定してしまっているんですよ。 なので、今では死の紋章なんて呼ばれています」
「……だが、絶対に勝てないという訳ではないんじゃないか? 魔王だって生きている以上。 寿命だってあるだろうし」
現に、俺をサポートしてくれている魔王は、この世界を手に入れるために殺そうとしてる、勝てないことは、なさそうな気がするのだが。
「確かに希望を持っていた時代もありました。 初代勇者がまさにそれです。 人間の域を超えた勇者ならばあるいはと、全人類が彼をバックアップして万全の態勢で戦いにのぞみ……そして人類は無残に敗北した」
「負けてしまったのか」
「はい、全世界の全ての人類がサポートしても勝利を収めることができなかった存在に勝てると思いますか?」
その問いに対して俺は言葉が出なかった。 確かにキツイ。 期待していた分、敗北した時の絶望感は半端なかっただろう。 それで人類は心が折れてしまったのだろう。
「しかし、それでも君が生贄になることとには、関係が無いのではないか?」
「関係はあります。 初代勇者は敗北したとはいえ魔王も無傷ではなかった。 だから、ある条件を人類に提示したのです」
「条件?」
「『勇者の刻印が現れた人間はいかなる人物年齢性別に関係なく、即刻近くのダンジョンへと向かわせろ、そうすれば勇者が生まれた村、街、王国はしばらくの間は魔物をけしかける事を止めてやる』それが、魔王側が提示した条件です。 加えて『そしてもし仮にダンジョンマスターと呼ばれる魔物を撃退したならば、その地域一帯からは完全に手を引く』とも言葉を残しています」
一帯から手を引くと明言するとは、それだけ魔王側は自信があるってことなのだろう。 確かにそうなると少女の言った生贄という表現が正しいのかもしれない。 なにしろ、今までは絶対に生きては帰ってこれなかったのだから。
とりあえず今の話を聞いてこちらの魔王は何と思っているのだろうか聞いてみる。
「今の話を聞いてどう思う、まお……シュヴァリエ」
(気に食わないな、いかに優れた能力でも、発現後のわずかな期間で使いこなすことは不可能に近い。 ならば能力を使いこなせる前に潰してしまおうという考えに腹が立つ。 魔王の名を関するならば、立ち向かってくる者は、正面から叩き潰せと言ってやりたいな)
魔王の言葉には、不快感が感じ取られた。 この世界の魔王のとった行動は、それだけ腹が立つ行動だったのだろう。
「……シュヴァリエ、一つ提案があるのだが、いいだろうか」
(なんだ改まって、聞いてやるから言ってみろ)
「アナタにとっては、敵と分かってしまったから非常に言いにくいのだが、少女を鍛えてあげることはできないだろうか? このままでは、あまりに不憫すぎる」
(構わない、コイツを使ってこの世界の弱小魔王の度肝を抜いてやる)
俺としては非常に頼みにくい事のつもりだったのだが、コレを魔王は、二つ返事で了承した。
「即答とは意外だったな。 提案しておいてアレだけど、彼女が魔王を討伐する存在ならば、いつかはアナタを殺しに来るかもしれないぞ?」
(馬鹿が、いくら鍛えたところで私に勝てるものか。 逆に返り討ちにしてやる。 鍛えるならば、とりあえずこの辺の魔物を一掃できるほどの力をつけてやらねば話にならん。 さっそく魔物を刈りに行くぞ)
彼女は目覚めて、すぐだったので一応、もう少し少女の体調がよくなってからがいいのではと、抗議をしてみたのだが、却下され今から魔物と対峙することに決定した。
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