少女

(そこで私は言ってやったのさ、貴様は長く生きすぎた……ってな)


「そうか、それは相手が気の毒だったな」


 この世界に来てどれほど時間が経過したか分からないが、未だに俺はダンジョンの出口を目指し、さまよっていた。


 普通に考えると暗い洞窟の中で化物に襲われながらたった1人で長い時間を過ごすというのは精神的に壊れてしまっても不思議ではなかったのだが、今みたいに暇を持て余した魔王が、隙あらば自分語りをしているため孤独感は不思議と無く、それなりに楽しく過ごすことが出来ている。


(ちょっと止まれ、この先に何かいる。 気配を消せ)


 この世界に来て初めて魔王が脅しにも似た声を上げた。 ただ事じゃないと瞬時に判断して反射的に近くの岩場に身を潜める。


「そんなにヤバいのか」


 できる限り小声で魔王に問いかける。


(わからん、だが危険な気配だ。 警戒を怠るな)


 岩場から警戒しつつ恐る恐る顔をのぞかせる。 すると、小さい人影が横たわっているのが確認できた。 魔王はアレに警戒していたのだろうか?


「なあ魔王、ここからでは遠いし視界も悪いから確認ができないんだが、あれは、人なのか?」


(知らん、だがアレからは非常に嫌な気配がする。 この感覚は昔感じた事のある物だ。 舐めて、かからない方がいい。 死ぬぞ)


 魔王がここまで脅しをかけてくるのは珍しいため。 アレを人ではないと判断して引き続き警戒を続ける。 しかし、警戒をいくら続けても、向こうは横たわったまま動く気配が感じられなかった。


「魔王、あれは本当に危険なのか?」


 魔王を疑っているわけではないが、あまりに動かないために本当に危険なのだろうかと自分の中で疑問がわく。


(ああ、ここからヤツを観察して分かったが、間違いない。 アイツ福音持ちだ)


 ここにきて久しぶりの謎ワードが出てくる。 福音とは一体何だろうか、言葉の響き的には悪いようには感じないが。


「福音持ち、とはなんだ? 俺にも分かるように説明してくれないか?」


(福音持ちとは、聖なる力を宿した者の事だ。 福音を受けた者は、自身の能力を遥かに超える可能性のある人間とでもいえばいいだろうか。 ゲームで例えるならばポジションは、勇者だな)


「じゃあ人なんだな、助けなければ」


(オイ、私にとってはソイツは害でしかないんだが……って聞いてねぇーな)


 素早く近づき、まず驚いたのが横たわる子が10歳くらいの女の子だったことである。 何故このような場所に子供がいるのかと思っては見たが、彼女の体が傷だらけである事に気が付くと、そのような疑問は吹き飛んだ。 彼女に駆け寄り止血や簡単な応急処置をする。 だがコレは止血や応急処置程度でどうにかなるレベルではない。


「魔王、頼む彼女に使うための回復薬を転送してくれ」


(転生してもお前は多少の人助けはするとは思っていたが、まさかその第1号が勇者になるとはな)


「別にいいだろ? 俺からすれば同じ人間だ」


(まあ、良いけどよ。 ほら回復薬だ。 きちんと口から飲ませろよ)


 魔王の渋々といった声が頭に響くと、回復薬が転送で送られてきた。 さっそく、回復薬の瓶のふたを開けて彼女の口に乱暴に突っ込んで飲ませる、すると先ほどまで幽霊の様なやせこけた表情をしていたが、少しだけ血色がよくなった気がする。


「よかった。 一命はとりとめたみたいだ。 しかし、何でこんな幼い子供がこんな場所に」


(そんな事は知らんが、こいつは助かったんだろ? ならそれでいいじゃないか)


 確かに、どうでもいいことだと魔王の言葉に納得して、俺は彼女が目覚めるまでの間、看病することに決めた。

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