洞窟7

 魔王から、自分の為に生きろと指摘された日から更に数十日ほど月日が流れた。(体感なので本当はもっと時間が経過しているかもしれないし、逆に短いかもしれない)


「なんか、身体能力が向上しすぎじゃないだろうか? この辺の魔物が、ほぼ1撃で片付くようになってきたんだけど」


(いや、むしろようやく見れるレベルになったと私は思うぞ?)


「そうなのか?」


(このへんの魔物雑魚すぎるから、瞬殺できないとむしろ困る。例えるならゲームのスライムレベルだな。 つーかこの世界はスライムの方が強い)


「またゲームか。 俺の考えているスライムとはきっと別物なんだろうな」


(それは、間違いないな)


 ……などと、のんきに会話を楽しんでいる途中で、頭が3つ生えている全長10m程の巨大ムカデとしか例えようのない魔物が乱入してきた。


「あぶなっ!?」


 ムカデの攻撃を反射的に回避しながら拳を3つある頭部の1つに叩き込む。 戦闘もかなり慣れたのだが、殴るたびに魔物の体液が飛び散るため正直素手で相手はしたくない。


「そろそろ武器がほしいな」


(どうした急に?)


「この世界の魔物、見た目がグロすぎるから、できる限り素手で相手したくない」


 吹き飛ばされた、ムカデの頭部が炎の塊を俺めがけて複数吐き出してきたので。 魔力で強化した腕で払いながら吐いた頭部を吹き飛ばす。


(今更だな、蟲系の魔物は見た目がアレだから素手で対応しているお前は、てっきり耐性がある物と思っていたんだが、そういう訳ではないんだな)


「まあ、最初はパニクッてたから対処するだけで精いっぱいだったけど、最近戦闘にも慣れてきて余裕が出てきたせいなのか、改めて気持ち悪さに気が付いて嫌になってきてな」


(ああ、殴り殺すと、硬い甲羅を割る感覚が、生で伝わるから余計にそう感じるのかもな)


「まあ、贅沢だとはわかっているんだけど、魔王の力で何とかできない?」


 残った二つの頭部が、同時に噛みついてきたので、コレを交わしながら片方を蹴りを入れて吹き飛ばす。


(魔法を使えばいいじゃないか、アレなら遠距離で攻撃出来て返り血も浴びず良い事づくめだろ?)


「魔法は、あまり連発するとスグに貧血になって倒れるから加減が難しい。 もし囲まれている状態で貧血で倒れたら俺の第二の人生は終了だろ?」


(そうだな、どうしても武器がほしいなら作ってやらんこともないが、作るにしても魔導石という特別な石が必要なんだよな)


「魔導石って名称からして凄そうな響きのする石だな。 俺は、そんな本格的な武器じゃなくて普通に木剣とかでも良いんだけれど」


(やめとけ、魔力の通ってない武器だと耐久性が無さすぎて2~3回魔物に振るったら壊れるから正直言って資源の無駄だ)


「そうなのか?」


 魔王との話の途中で、巨大ムカデの頭部は、今までにないほどの巨大な炎の塊を口から吐き出して、俺に向かってものすごい速度で飛ばしてきたが、コレを魔力をまとった拳で粉砕しながら最後の1つとなったムカデの頭部を吹き飛ばす。 すると全ての頭部を吹き飛ばしたために、巨大なムカデは、その場ででかい音を立てて倒れて、動かなくなった。


(ああ、魔物の特性として魔力が通っていない攻撃は通りにくいんだ。 まあ、お前の場合は、私という優秀なサポーターがいるから問題ないが、一般人だと、それなりに苦労するんじゃないか)


「そういうものなのか」


(だから、どうしても武器がほしいなら魔物の中に稀に魔導石を体内に隠し持っているレア物を探せ。 それが無い事には始まらん)


「転送で、魔王の持っている武器を送ることは出来ないのか?」


(私の持ってる武器? 転送はできるけど、その意見は却下だ。 仮にだが、お前が死んでしまったら、この世界に来れない私は取り戻す手段がない)


「まあ、そうだよな」


(一応コレクションとして持っている聖剣の類は必要ないから転送してもいいんだが、聖属性の武器をお前が使ってもサビついた剣以上に使えない)


「そんなに? ああ、魔王に作られた体だからか?」


(そう言う事。 マイナス補正がデカいからな。 聖剣を使うくらいなら殴った方が威力がある)


「武器を選ばないといけないとは思わなかったが、生き返らせてもらっておいて文句を言ったら罰が当たるな。 とりあえず地道にレア物とやらを探してみるよ」


 会話をしつつ右手をかざして巨大ムカデを、回収する。 そして転送すると同時に魔王の声が再び頭の中に響いた。


(おい、コイツ、レア物じゃん)


 脳内にエコーがかかって響いた声に対して俺は思わず、嘘だろと呟いた。

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