洞窟6
息を切らして洞窟を走り魔物が現れたら迎撃、回収する。 そんな単純作業を繰り返し、すでに数十日が経過したが、未だ出口は見えない。
「なあ魔王、俺の感覚から言って相当な距離を探索していると思うんだが、どれくらいでこの場所から脱出できるんだ?」
(どうした急に?)
「ここに来て随分と時間が経過した。 地上では魔物に苦しめられている人たちがいるんだろう? こんなところで二の足を踏んでいる事が凄く歯がゆいんだ。 俺は早く人の役に立ちたい」
(うわぁ。 お前マジで末期症状だな。 そういう人選をしたとはいえ、人のために動きたいとか、マジで気持ち悪い)
俺のこの言葉に対して、魔王は本気で呆れている声色で俺に対して毒を吐く。
(お前さ、前世の事を忘れたのか? その人助けの精神を発揮しまくったせいで後悔にまみれた人生だっただろう、何故繰り返す? 学習能力がないのか?)
「……それは」
魔王の放ったその一言が衝撃的過ぎて、言葉に詰まると同時に先ほどまでたぎっていた気分が一気に沈静化し、思わず走っていた足を止める。
確かに魔王の言う通りである。 今度の人生では、少しは自分の為に生きようと願い、異世界で生き返らせてもらったハズなのに、俺は前世と同じ過ちを犯そうとしていた。 本当にどうしようもない愚か者である。
「魔王の言う通りだ、いつの間にか前世と同じ感覚で行動していたみたいだ。 あんなにも死に際に後悔したのに…どうかしてるな俺」
(病的だな。 積極的に魔物を狩るのは魔王討伐にかかわる事なので別に構わないが、無理はよせ。 お前が死んだらまた別の世界で似たようなやつを探すところから始めなければならないんだからな。 ゲームで例えるならリセマラ作業からやり直しだ)
また分からないワードだな。 と呟くと何故現代日本人がリセマラを知らないんだと共感が得られず少しだけ落ち込んだ声が頭の中で響いた。
「そういえば魔王、一つだけ気になることがあるんだがいいか?」
(何だ? 落ち込んだと思っていたが、切り替えが早いな、何が聞きたい?)
「俺が寝ている間に俺の体に何かしてるだろ? 起きるたびに妙に調子がいいんだけど、あれは何なんだ?」
周囲の魔物を全滅させて気絶するように眠る日々を繰り返しているが、不思議と目覚めは爽やか、体の傷も癒えている事に最近になって気が付いた。
(ふふっふ……ついに気づいたか、この質問がいつ聞かれるか楽しみにしていたんだが、いっこうに気づいた気配がないので、どんだけ鈍感なんだと思っていたところだぞ)
「仕方が無いだろ、生きるのに必死だったんだから、余裕がなかったんだよ。 それより、何をしたんだ? まさか、危ないことではないだろうな」
(危なくはない、魔物の死骸から魔素を抽出して寝ている間にお前の体を強化してんだ。 ゲームで言う経験値を稼いでレベルアップ的なアレだな)
「また例えがゲームか。 なんか説明が全てゲームで例えられている気がする」
(仕方ないだろ、この例えが一番しっくりくるんだから。 最初の頃のお前と比べると全然身体能力が違うぞ。 お前は気が付いていないだろうが、強化の魔法を徐々に弱めてるんだぜ)
「………ちょっとまて、少しずつ人間から遠のいている気がするんだが、それとも俺くらいの身体能力がこの世界の平均なのか?」
(平均とか知らん。 でも強くなってるんだから良いじゃないか)
まあ、確かに別に問題はないんだが、この洞窟を出るころには人間じゃなくなっていそうだ。 ……流石にそれは無いと思いたいが。
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