洞窟5

(回復薬を作ってみようと思う)


 目覚めてすぐに凛とした声が頭の中で反響した。 寝起き特有の気だるさを感じつつ返答する。


「どうした急に?」


(お前は魔物との戦闘に慣れてないだろ? たしかに先ほどの戦闘では攻撃は食らっていないが慢心はできないからな、回復薬があった方が便利だろ)


 確かにこれから苦戦する魔物がいないとも限らない、傷薬があった方が便利だろうが、作るとなると話は変わってくる。


「薬なんて素人でも作れるものなのか? 俺に薬学の知識は無いぞ?」


(作るのはお前じゃ無理だ。 私が調合してやる。 とりあえずお前の目の前に雑草とか変な形のキノコとかがあるだろ、それらを片っ端から転送しろ)


 ……ひょっとして、この場にあるもので回復薬を作るつもりなのだろうか? キノコなんて確実に毒がありそうな色合いをしているんだが、本当に大丈夫だろうか?


「採取することはかまわないが、毒ではなく、本当に薬を作れるのか?」


(侮ってもらっては困るな、私は天才だから何でもできるんだよ)


 自信満々な返答が、逆に不安になる。 しかし、薬はあった方が便利なのも事実なので、魔王に言われるがままに周囲に生えている雑草やキノコを片っ端から転送する。 結構な時間を使い、周囲にあった雑草やキノコを全て転送し終えた俺は額の汗を拭いながら、ふと思った事を魔王に聞いてみた。


「なあ、魔王が今から作る薬って、どの程度効果があるものなんだ?」


(どの程度とはどういう意味だ?)


「薬にも色々と用途があるだろ、止血用とか疲労を軽減するとか、どういった用途の薬なんだ?」


(疲労回復とか、戦闘の最中役に立たねぇもん必要ないだろ。 私が作っている回復薬は腕がちぎれても生えてきたり、重症でも一発で治る秘薬だ)


「そんな凄い効能のある薬がそこら中に生えている雑草やキノコからできる訳が無いだろ!?」


 魔王の返答があまりにもふざけていたためにツッコミを入れると、何故か魔王の不機嫌そうな声色が頭の中に反響した。


(別に信じなくて構わないさ、凡人には説明しても理解できないだろうしな)


「……冗談じゃなく、本当にそんな薬が作れるのか?」


(回復は魔法でも対応できる。 お前が不要と感じたのならば、使わなければいいだけの話だ、何の問題もないだろう)


「まあ、その通りなんだが」


 魔王に丸め込まれたような気がしてならないが、気にしすぎるのもどうかと思うのでこの件に関してはもう触れないでおくことにした。

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