洞窟4


(そろそろ来るぜ、気合を入れねぇと死んじまうから気合い入れろよ)


 この世界にきてまだ戦闘らしい戦闘もしていないのに、という不満はあるが、世界を救うためにはこれくらいの試練を乗り越えない事には到底無理なんだろう。


 気を引き締めて、向かってきた大量の魔物に向けて拳を振るう。 魔王によって強化された体は軽々と蜘蛛を吹き飛ばしたが、今回は流石に数が多い。 鋭い爪や牙が雪崩のように次々と俺を襲うため、先ほどのように余裕があるわけではなく、ギリギリで回避し続ける


「キリが無いな」


 数の暴力とは、これほどまでに恐ろしいのか。 避けるのに、いっぱいいっぱいで最初の一撃をのぞけば未だ反撃する隙が無い。


(お前余裕があるな、私が強化してやってるとはいえ、数発はもらうと思っていたが今のところ全くの無傷じゃねぇかよ)


「余裕なんてない、反撃する隙が無い。 避けるのでいっぱいいっぱいだ、何とかならないか? このままだと多分、死ぬ」 


 実際、次々に来る蜘蛛の攻撃を回避し続けている俺は、徐々にだが息が上がってきている。 生き死にがかかった戦いだと、ここまで体が疲弊するものなのか。


(それなら、攻撃魔法も使ってみるか? 一体づつ相手にする徒手格闘と違って広範囲で攻撃できるから楽だぞ)


 そんな便利な魔法があるなら、数が多いと分かった時点で言ってくれ。


「どうやって使う?」


(簡単だ。 右手を突き出してライトニングって言ってみろ)


「言葉を出さないとだめなのか? この年でゴッコ遊びみたいに技名を叫ぶとか少し恥ずかしいんだけど」


(ライトニングは技名ではなく短縮詠唱だ。 お前の言う無詠唱でも発動は出来るが詠唱するのとしないとでは魔力の量も桁違いなので代償の血液の量もすごいことになるぞ?)


「ライトニング」


 代償である血液を引き合いに出されたため躊躇せずに叫ぶ。 すると右腕から凄いまぶしい光が周囲を照らした瞬間、何十体といたはずの魔物が一瞬で消し炭になっていた。


「威力凄すぎないか? あれだけいた魔物が全滅してるんだけど」


 大粒の汗を拭いながら、上がった息を整える。


(雑魚だからこんなもんだろ? それより今使った魔法は広範囲におけるものだ。 なので周囲に人がいた場合には巻き込み殺してしまうだろうから覚えておけ)


「魔王であるアナタがそんなことを言うとは思わなかった。 魔王は人なんてどうでも良いと思ってそうなイメージがあったが、違うんだな」


(いや、その認識で間違ってないぞ。 だけどお前は私と違って他人を大事にしてるだろ? だから一応注意しておこうと思ってな)


 なるほど、と納得したところで、グラリと視界が反転した。 一瞬何が起こったのか分からなく、軽いパニックに陥る。


(落ち着け血液の使いすぎによる貧血だ。 周囲の魔物は一掃できたから少し眠れ。 周囲に魔物が現れたら私が起こしてやるから)


 魔王のその言葉が頭に響くと緊張の糸が切れたためか、気絶するように俺は眠りに落ちた。

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