洞窟

(何時まで寝ている? もう問題なく体は動くはずだ早く起きろ)


 頭の中で反響する声には聞き覚えがあった。 死ぬ直前に契約を持ち掛けてきた女性の声だ。 しかし、言われるままに上体を起こして重い目蓋を開けるが視界は暗闇に覆われたままである。 一瞬目を開けていないと疑い目頭を押さえ、瞬きをするが、黒く塗りつぶされた光景は変わらない。 


「体は問題なく動くが…目が見えないな」


(はぁ? そんなはずは……そういえば人間は暗闇で目が見えないんだったか? …よし丁度いい、ゲームで例えるところのチュートリアルといこうか)


「ゲーム、なんの話だ?」


(えっ? お前ゲーム知らねぇの? 現代日本人とは思えないな。 まあ、そんなことはどうでも良いか。 とりあえずは暗闇の中で目が見えるようにしてやるよ)


 瞬間、軽い立ち眩みにも似た感覚を覚え視界がぐらつく。 その奇妙な感覚が収まると先ほどまで何も見えなかった視界が鮮明に目に映りこんだ。


 雑草や、奇妙な形のキノコが生えていたが、それ以外は何もない薄暗い空間。 整備されていない不安定な足場が永遠に続くように見える。 広さこそ違うが、テレビのバラエティー番組なんかでよくある洞窟なんかがこんな感じだった。


(どうだ? 問題ないだろう?)


「確かに凄いが、何故急に目が見えるようになったんだ?」


(簡単だ、お前の血液を少し貰って魔法を使った)


 頭に響く声は、当たり前だろ、といった声色をしていたが。 俺の常識では魔法というものが理解できないため聞き返す。


「…意味が分からないんだが?」


(簡単に説明すると、お前は元々この世界の住人じゃないから魔法が使えない。 だが魔法を使わないと魔物と戦う事には不利になる。 それは良いか?)


「良くはないが、何となくの理解はした。 つまりアナタが俺の血を代償に魔法を使ってくれたということか?」


(厳密には少し違うが、大体あっている。 付け加えるならば、血の量が多いいほど高レベルの魔法が使える。 今回使ったのは視界が開ける魔法だな)


 死ぬ直前に言っていた支援とは、そう言う事かと自分の中で納得する。 確かに魔法という不思議な力が存在する世界で、魔法が使えないとなると魔王討伐どころの話では無くなるのだろう。 魔法を使うためには俺は血液が一定量必要なのは不便だと感じたが、とりあえずはこの考えは保留する。


「最初に話を持ちかけられたときは半信半疑だったんだが、こうして不自由なく体を動かせるようにしてくれて、ありがとう。 本当にアナタには感謝している」


(やめろ、人間に感謝されるとか気持ち悪くて仕方がねぇ)


 何もない空間に頭を下げてお礼を言うと、本気で気持ち悪がっているのか吐き捨てるような声が頭の中に反響したため俺は、それ以上お礼を言うことをやめた。


「確認なんだが、俺は魔王討伐の為にこの世界に転生させられたんだよな?」


「そうだ、それがどうかしたか?」


「それなら、アナタも魔王を名乗っているのは、何か話が矛盾している気がするんだが?」


(この世界の魔王を討伐する事がお前との契約だっただろう? 話におかしいようなところは無いと思うが?)


「ちょっと待ってくれ、この世界の魔王って事は、魔王ってそんなに存在するものなのか?」


(私が面識あるのは30体はいるな)


「30? そんなに?」


(別に不思議な事ではないだろう? お前のいた世界だって各国の代表が複数いたじゃないか。 魔王だって世界ごとに違って当然だろ)


 魔王とはそういった感じなのか、だがそれならそれで別の疑問が出てくる。


「各国の代表で例えたから勘違いかもしれないんだが、そうなるとアナタは他国を侵略していることにならないか?」


(何をいまさら、魔王が魔王を殺す理由なんて、それ以外にないだろうが)


 いや、”当たり前だろ?”みたいな感覚で言われても魔王の間での一般常識なんて知るはずが無いので応に困る。


(だがな、今回に限りは少しだけその考えが違うとも言える。 もともと喧嘩を売ってきたのはこの世界の魔王の方だからな)


「どういう意味だ?」


(この世界は元々は私の支配下にあったんだが今の魔王が私が留守の間に勝手に我がもの面でこの世界を収めやがった。 しかもご丁寧に手出しできないように結界まで張ってやがるため直接殺しに行くこともできない)


 なるほど、だんだん話が見えてきた。 人間を生き返らせれるほどの強力な力を持ちながら、何故、直接に魔王に殴り込みをかけないのか不思議に思っていたが、そうゆう理由があったのか。


「…つまり俺に魔王を倒させるのは自分がこの世界に来れないから?」


(そんな感じだが、お前は難しくは考えなくていい、どうせ、すぐに魔王と戦うわけではないんだ気楽に構えとけ)


「気楽に……そうだな、とりあえずは自分の事だけを考えてみるとするよ、そこで相談なんだが、俺はこれからどうすればいいんだろうか? 見たところどこかの洞窟のようだが、とりあえずは、ここから出ればいいのか?」


(そうだな、多分見た感じどこかのダンジョンで間違いないだろうから、とりあえずは外に出る事を目標として脱出することを考えてろ。 人と会うまではこの世界がどんな状態かなんて把握できない訳だしな)


 至極真っ当な意見だが今、ダンジョンと言ったか? 英語で地下牢という意味だったか? 俺から見たらただの洞窟にしか見えないのだがこれが地下牢としたらかなりの規模の古城ではないだろうか。


「これが地下牢なのか? 見た感じ見回りもいないようだが」


(………本当にお前はゲームを知らないんだな。 ダンジョンていうのは、この世界の魔王が作った洞窟みたいなもんだ。 魔物がウヨウヨしてるから普通の神経の持ち主ならまず近づかない危険な場所だ)


「…またなんで、そんな場所に俺を生き返らせたんだ?」


(転生は復活場所に限り完全にランダムなんだ今回は運が無かっただけだ。 徐々に魔法の使い方を教えて強くなってもらう予定だったが、そうもいかないらしい)


「どういう事だ?」


(魔物だ)

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