2019.04.16 妄想小説を書いた理由
前回、妄想小説なるものを書いた。
プロットなんてもんは存在しか知らないので、ぶっつけで一晩かけて書いた。
眼窩の奥が痛くなり、眠気も勝ってこれ以上は書けないところでこの小説は終わった。なので、物語は中途半端だが、達成感もあってこれを書いた時はおもしろいものが出来たと信じていた。けれど、朝起きて見直すと、それは凡庸なそこらにあるものをつたない手で繋ぎ合せたような玩具にしか見えなかった。小説とは言えなかったので、「妄想」という文字を頭につけ、自らこの作品を貶めた。
そもそも、なぜこのような妄想小説を書いてしまったのか。もちろん理由はある。
私は海猫沢めろんという小説家が好きで、先日氏のトークイベントに出向いた。氏のトークイベントは期待を裏切らない大変おもしろいもので、氏の知識量や人生経験に興奮して耳を傾けた。熱気も最高潮に達して迎えたイベントの最後、氏への質問コーナーが設けられた。
私は思い切って挙手をした。
尊敬する作家と会話できる機会などそうそうないとおもいあまっての行動で、なにも考えていなかったから自分の夢を語った。
「僕は今、フリーターなのですが将来小説家になりたいと思っています。そのためには自分を追い込まないといけないと感じていて、東京に引っ越そうと考えています。めろんさんの、東京だったらここに住んだらいいよっていうおすすめの場所はありますか?」
私はしどろもどろになりながらも、ちゃんとした質問ができたことにまず安堵した。氏も私の質問の途中、いいですねと相槌をいれてくれた。私は一仕事終えたような心地であった。氏は笑顔で阿佐ヶ谷、三鷹、日暮里あたりがいいんじゃないかなと答えてくれた。
なぜ、そこの3つがいいのかも教えてくださったが、残念ながら緊張とうれしさのあまり覚えていない。
イベント終了後、氏のサイン会がありサインを頂いた。しかも、写真も一緒に写ってくれた。
その時である。氏は私に
「どんな小説を書いているの?」
と聞いてきた。しかし私はその答えを持ちえていなかった。小説なんて書いたことなかったからだ。
よく考えてみれば、氏からそう聞かれてもおかしくないのである。小説家になりたいと言ったのは私で、もちろん氏は私がすでにデビューするための小説を書いていると思ったはずだ。私も自分の質問を振り返ると、小説を書いていないとおかしいとさえ思った。私はただ、自分の好きな小説家達が若かりし無名の時、上京して苦節を味わい、過酷な環境を生き抜くために小説を書いて成り上がったというサクセスストーリーに感化されただけであった。
漠然と上京したら書けない小説が書けて、うまくいけばデビューできると、夢にも語れない妄想を持っていただけであったのだ。そんな誰にも言えないような恥ずかしい妄想を夢として尊敬するめろんさんに語ってしまった。
なんという狼藉であろうか。
もちろん氏にとって私などは、ちっぽけな一読者でしかない存在であるから、いくら私が見苦しいことをしたとして何も感じはしないだろう。けれど私が自身に対して抱くこの恥は色濃くまとわりつく。私はこの恥を、氏に見せたくなかった。だから私は恥を塗り重ねた。
「セカイ系の小説を書いています。」
そう答えた。
「セカイ系って何?」と言われても私は上手く説明できない。めろんさんはトークイベントの際、エヴァンゲリオンみたいな作品と言っていた。めろんさん自身もそういうセカイ系が好きだし、書きたいとも。私が好きなめろんさん著書の「左巻キ式ラストリゾート」や「零式」がそれに当たるのかなと思い、セカイ系の小説と答えたのだ。
あの日の出来事を振り返ると、私がしなくてはいけないことがみえてくる。
そう、セカイ系の小説を書かなくてはいけない。自分のために。
だから、私は勢いで妄想小説を書いたのである。
私はあの日、自分が言ったことを真実にしなければいけないのだ。
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