小説紹介 フリッカー式 鏡公彦にうってつけの殺人
日記を書こうと考えても、22歳フリーターの私の日常に特筆すべき点などそうそうありません。
なので、今回は私の好きな小説を一冊ご紹介致します。ちなみに今からのせる紹介文は、以前近場で行われた読書会なるものに初参加した時に使用したスピーチ原稿をベースにしたものです。
気楽なゆるい会合であったのに私一人だけ意気込んでそんなものを用意しておりました。しかも、選んだ本も場違いでなかなかにすべっていたと考えております(この作品に罪は全くございません)。
これを読んでくださればご理解頂けると思いますが、他の参加者による話題の漫画や自己啓発本、映像化小説などの紹介が軒を連ねる中でこんな小説を紹介した私は空気が読めておりません。世間でブームになっていない、ただのマイブームを他人に押し付けるのは良くないと痛感しました。
しかしこの小説はとても魅力があふれていますので、この紹介文を読んで気になってもらえれば幸いです。
私が今回紹介するのは、講談社文庫の「フリッカー式 鏡公彦にうってつけの殺人」という小説です。
この作品は佐藤友哉のデビュー作でメフィスト賞受賞作品です。
メフィスト賞というのは、講談社が主催する、あまり類をみない、変わっている作品ばかりを世に送り出している賞で、有名な受賞者としては、西尾維新や「すべてがFになる」の森博嗣、「ハサミ男」の殊能将之、舞城王太郎などがいます。
作品の内容としましては、主人公の最愛の妹が自殺をしたことから始まります。
主人公、鏡公彦にとって妹の鏡佐奈は異常な家庭環境の鏡家において唯一の常識人であり、彼の理解者でした。
しかし、佐奈は意味深な言葉を残して首吊り自殺をします。
なぜ妹が突然自殺したのか分からず、途方に暮れ喪失感にさいなまれる公彦でしたが、そんな公彦の前に大槻スズヒコと名乗る男が現れます。ビデオデッキとビデオテープを持って公彦の家に侵入したスズヒコは、なんと、佐奈が3人の男どもに凌辱されているビデオを公彦に見せてきたのです。
妹の自殺の理由を画面越しに目の当たりにした公彦は怒り狂い、スズヒコをボコボコにします。そんな憎悪に燃える公彦にボコボコにされたスズヒコはある封筒を彼に渡します。その封筒には、佐奈に害を為した3人の男どもの愛娘達の情報がつまっていました。住居の場所や生活パターンなど事細かにです。
公彦は復讐のため、加害者どもの愛娘を誘拐することを決意し、スタンガン片手に家を出ました。
それと同じ頃、同じ地域で77人の少女を殺害している殺人鬼が徘徊しており、主人公の幼馴染である明日美がそれを追っていました。
目的は復讐でした。
明日美は昔からある超能力により、その殺人鬼が少女を殺害する瞬間だけ視界が共有されることに悩んでいました。しかし、仲良しの後輩がその殺人鬼に殺されたことを契機に今までの被害者の弔い合戦をしようと決意したのです。
そして明日美の前に、同じ殺人鬼を追うケトウインヒロユキと名乗る、拳銃を持った男が現れ、共に殺人鬼を追いつめていくことになります。
以上からこちらの作品も、メフィスト賞らしいぶっとんだ内容となっております。
私が初めてこの作品のノベルス版を読んだ時は正直言っておもしろいとは思えませんでした。
理由は2つあります。
1つ目は、文章がくどかったからです。
主人公の鬱々とした内面描写が多く、主人公の憎しみや絶望感、異常な価値観をストレートに文章で吐露しまくっています。読んでいて楽しい気分にはなりませんでした。
2つ目は、作品の内容に自分の感性が追いつけなかったからです。
私が先ほど述べた、この作品の内容をおもしろそうと思った人はあまりいないと思います。
なんか復讐ばっかでむちゃくちゃですもんね。
そして、とにかく登場人物の設定の癖が強いです。
異常性愛をみせる主人公と妹、未来予知ができる姉、殺人鬼と視界を共有できる幼馴染、主人公の内面まで把握している兄など、作中人物達が、みんなアニメや漫画に出てきそうな設定です。それで陰鬱な物語が終始続きます。しかも一応納終わったと思いきや、わざわざ最後に疑問が残る終わり方をします。
1回目の読後感はすっきりとは無縁の消化不全です。
しかし、今私はこの作品が好きです。
それはこの作品から始まる鏡家シリーズを読んでいったからです。
第2作目は、未来予知ができる姉が主人公です。
第3作目は、主人公の内面を把握していた兄が主人公です。
第4作目は、鏡家は出てきませんが、作者はこの鏡家シリーズを衝撃的な方法で終わらせます。
これを踏まえて文庫版のこの作品を読めば、ノベルス版よりも読みやすく、シリーズを通して培わられた作品の世界観や登場人物の魅力が一気に花開きます。
私はこれに一種のカタルシスを感じました。嫌な主人公の鬱々とした内面描写も、この作者でしか書けない青春ものだと思えば心にささる箇所が出てきます。この一作目を書いていた時、作者はなんと19歳だったそうです。
この作者は今では純文学を書いたり、太宰治が現代に転生したら、という話題の転生物を書いたりとその才能は多彩です。しかし、先ほど紹介した鏡家シリーズは、若いころの作者が血を流し、骨を削って書いたのだとダイレクトに伝わる作品です。
純文学、ミステリー、サブカルが好きな人であるならば一読の価値はあります。
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