五回表 -Manager-

「これでコマンドーは日本一に大手をかけました、今のお気持ちはいかがでしょうか?」


「まだあと一つ、取らなければいけない星は残っています。今日の試合でも分かる通りパイレーツは非常に粘り強いチームですから、最後の最後まで気を引き締めて行きたいと思います」


 五戦目が終わって、私達のチームは日本一まであと一つのところまで来た。お互い、万年Bクラスと呼ばれたことのある時期が長い。その苦しさを知っているからこその粘りは味方にすれば頼もしいが、敵にするととても怖い。


「先発の西入選手の調子もよく、攻略には非常に苦労されたかもしれませんが選手にはどのように声をかけられたのですか?」


「少ないチャンスを確実に取りに行けと、これはシーズン中でも言っていたことなんですが。6回のチャンスを確実にモノに出来たことは非常に大きなことだと思います」


「ボゥシルバー選手の一発も出ました。やはり彼の活躍というのが大きいということでしょうか?」


「はい、ジョンは去年と違って何かを得られたと言っていますし。キングスマンと合わせた二人のコンビが野手にいい刺激を与えていると思います。彼等だけでなく、守備では矢倉や香田のいいプレーも出ました。野手だけでなく、投手陣も要所をしっかりと締めていける全てが噛み合ったとてもいい状態です」


「なるほど、では最後にファンの皆様に一言お願いします」


「長い道のりを今まで応援していただきありがとうございます。ですが、未だ終わりではありません。次に勝利を得られても来シーズン、その次と道は続きます。これからも温かい声援をよろしくおねがいします」


「神戸ガレックスコマンドー駒場監督でした。ありがとうございました」


「ありがとうございました」


 スコアだけを見れば9対3の快勝だ。だけど、私にとっては薄氷の上の勝利としか言えない試合だった。選手たちはよくやってくれている。だけど、それは相手も同じことだ。昨日、今日は勝負の天秤がわずかに此方に傾いただけの事。

 あぁ、これはメモをしておこう。監督業だからといって、野球だけに注力できるわけじゃない。シーズンオフにはテレビやラジオ出演の他にも球団主催のイベントだって待っている。


 名将、智将と多くの監督がそう呼ばれてきた。メディアでは私のことをそう呼んでいるのは知っている。監督就任から4年、今年はシーズン初めこそ調子が出なかったものの、何とか日本シリーズまでこぎつけることが出来た。

 2年前、リーグ優勝を果たしながらもプレーオフで敗退した我々は我慢の年を超えて今この場に立っている。このチームが日本一に輝いてからすでに20年以上の年月が流れている。当時の私もそこにいた、今は立場が代わり監督としてだ。あのときの鹿目監督もこんな気持だったんだろうか? 答えは帰ってこないが、明日一度報告に言ってみようか。



「駒場です。はい、今は天王寺に。申し訳ありません、集合時間までには」


 タクシーをとめて新大阪へ向かう。明日からの第六戦、できれば地元で日本一を決めたかった……と思うのは欲が深いな。そもそも第三戦を落とした時点で横須賀へ帰ることは決まっていた。

 

「今考えたってしょうがないかぁ」


「何か言いましたか? お客さん」


「あぁ、いえ……」


『打ったー! 代打三筒、日本シリーズ2本目は逆転の3ランホームラン! 6回裏ゲームが大きくひっくり返りました。今ホームイン!』


 やられた……。代打の代打でまさかの逆転3ラン……空模様も良くないこの状況での2点ビハインドは厳しい。次のバッター勝負に行きたくても一色緑はこの試合当たってる。


『おっと、ここで選手が一度引き上げます。どうやら雨足が強くなってきたようで中断するようです』


「このままコールド……もありそうですね」


「そうだね、ブルペンに連絡して角道は今日はもうあがらせるように言っておいてください羽生コーチ」


「了解です」


 そのまま試合終了、期待がかかっていた試合な分だけ拍子抜けする。インタビューへの受け答えにも身が入らない。時間が短い分聞きたくない質問は来ないのが助かる。終わった後のミーティングルームでも空気が重い。


「今日は残念だった。だけど、コールドで日本一というのも締まらないだろう?」


 このまま引きずって欲しくはない、不幸中の幸いだがエースを温存した形になった分だけこちらが有利と考えるべきだがそれは角道自身の心持ちの問題もある。本当は締めに回すつもりだったんだけどなぁ……。


****

 横須賀パイレーツと神戸ガレックスコマンドーで行われております、日本シリーズ第七戦は四回の裏にとんでもないドラマが待っていました。4番三筒のホームランによって1点を先制しましたパイレーツですが、打ったその打席で倒れ負傷交代してしまいました。対するコマンドー角道は、スイッチが入ったかのように二者連続三振に切って取りました。


『パイレーツ選手の交代をお知らせいたします。代走いたしました起家がそのまま入りサード、サードの萬がファーストへ移ります。4番 サードベースマン 起家晴彦 ナンバー41 7番ファーストベースマン 萬祐樹 以上に変わります』


『五回の表 コマンドーの攻撃は 4番指名打者 ジョン・ボゥシルバー』


 1点をもらってのマウンドとなりますパイレーツ先発の東風、対するはホームランと打点の二冠を獲得しましたボゥシルバー。初球を投げたっ、外はずれてボール!

 試合前の取材では来日している子どもたちに父親の活躍を見せたいとそう語ってくれましたバッターボックスのボゥシルバー第一打席は空振りの三振に倒れています。第2球同じように外、これは入っているストライクっ。


 この試合非常にテンポよく投げてまいりました東風ですが、やや間をとっているようにも感じられます。3球目を投げたっ、打ったこれは大きく外れていきます。ファウルボールです。


『打球の行方には十分ご注意ください』


 カウント1ボール2ストライクと変わって追い込まれましたボゥシルバー。ここでお父さんとしてかっこいいところを見せたい。4球目投げたっ、バットは……回っています空振り三振っ! 6者連続っ! 早くも今日9つ目の三振を奪いました。この6連続奪三振は日本シリーズの連続奪三振記録を達成しましたマウンド上の東風!


『5番 ファースト ウィリアム・キングスマン』


「東風はもともと打たせて取るタイプの投手なんですが、ここまでの投球を見ていると、ポンポンと投げ込まれたペースにバッターが飲み込まれている感じがしますね」


 投球内容が普段とかなり変わっている、キャッチャーの南場選手兼任監督も何か意図してのリードを取っているというところでしょうか。初球を投げたっ、初球から行きました。セカンド早い打球抜けるか、一色清追いつく。すばやくファーストへ捌いてツーアウトとなります。


「鹿島さん?」


 はい、どうぞ。


「コマンドー角道投手ですが、どうやら今日温存されていたのは結果論だと駒場監督の談話が入っています。もともとは昨日の試合の締めで登板させる予定だったけれど、思いもしない形での登板に本人も困惑しているのではと語っていました」


 三塁側コマンドー情報は横須賀港湾放送、蝶野遥アナウンサーです。


『6番 ライト 戸金一成』


 予定外の登板が、失点を招く結果になってしまったのかコマンドー角道。こちらも登板予定だった河底の負傷によって急遽マウンドに上がった東風でありますが、落ち着いた様子を見せております左バッターボックスに戸金が入ります。

 連続奪三振は6でストップいたしました。先程の打席では空振りの三振に倒れています戸金ですが、初球はセイフティバントっ構えだけです。低めにはずれてボール!

 

 1対0パイレーツリード、五回の表1点ビハインドのコマンドーの攻撃です。第2球を投げたっ、打ったショート正面へのライナーとなりました。一色緑しっかりと掴んでスリーアウトチェンジです。五回の表、ここまでパーフェクトピッチングが続いていますパイレーツ東風1対0パイレーツリードです。


 

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