三回裏 -Young umpire-

「第7戦の出場予定審判を発表します」


 昨日の第6戦が終わって、日本シリーズ第7戦へ突入することが確定したあと。東日本審判部では第7戦出場審判の発表が行われていた。オールスターと日本シリーズは特別な試合だ。NPBの正規審判員として採用されて3年目だが、まだお鉢はまわってこないだろう。1年目から1軍の試合で何試合かは任されていた。でも、先輩達の話を聞けばポストシーズン出場はどれだけ早くても5年はかかる。


「レフト線審宝島和煌」


「は、はい!」


「枯山審判部長の推薦だ。頑張ってこいよ」


 大抜擢だけど、皆の視線が痛い。期待されていることはありがたいけど、その反面失敗すると二度と立ち上がれなくなる。そんなプレッシャーを感じていて後の話は話半分でしか聞くことが出来なかった。今シーズン出場試合は78その内の主審試合は22だ……ほかのアンパイアと比べれば総出場でもまだまだだし、審判部長の推薦ということも重圧をさらに増した。


「明日は正午に集合してください。では、解散」


 翌日のミーティングや、動作について。特にレギュラーシーズンでは配置しない線審の動きについて念入りに確認した。内野だけの判定ならば、線審の出番は余り無いが外野守備の判定と飛球の判定だけでなく。ランダウンプレーの時のカバーやタッチアップ時の判定もだ。


「宝島さん今日はお願いしますね」


「寺島先輩。こちらこそよろしくお願いします」


「僕も日本シリーズは初めてやけど、そんな緊張せんといきましょ。今はリプレイもあるし、ポール際に来たかて大丈夫よ」


 西日本審判部の寺島さんも今年日本シリーズ初出場でたしか5年目だったかな。正確なストライクゾーンと的確なポジショニングを取れる人として評価は高い。いままで大きな誤審も無く、若手審判員の中では最も期待されている。


「いや、自分がまさか今年出られるとは驚きましたよ」


「審判部も早めに若手を育てたいみたいやな。線審なら負担はそんなに大きくないし、ポストシーズンの経験を積ませたいんやろ」


「そういうことか、でもウチだってまだ」


「急に決まった話やしなぁ。具体的に言うとシリーズ3戦目が終わった後や」


 言われて気づいた。確かに4戦目からシリーズ初出場の先輩が何人かいた事を。その中でも年数が少ない俺が最後の方に回されたのか。東日本審判部は西日本と比べて上層部の年齢は低いけど、平均年齢の高い西日本審判部との平均は50近くになる。


「ま、少し上の先輩には申し訳ないけどこれも上の方針ってヤツやしな。ええ機会やからガンバろな」


『この試合のアンパイアは……』


 ついに来てしまった。俺の日本シリーズ初出場試合が


『線審レフト宝島……ライト寺島以上でございます』


 試合開始30分前全ての確認が終わる。球審の香但さんや渋井さんは何度もシリーズに出ているからか落ち着いている。


「宝島ぁ、お前そんなにカタくなってどうした?緊張しすぎだ」


「そうだぞ、いつもどおりやればいいんだ。むしろ次はいつ出場られるかわからんのだから楽しんでいけ」


「そんな、初出場のボクらにそれは酷ですよ先輩方。ボクはまだええですけど宝島君は副部長が主審なんですから」


「そういうお前はもうちょっと緊張感をもて寺島」


「はぁい、すんませーん」


「タクラーリラックスヨー私ニッポンのベースボールスタジアム初めテだけどリラックスしてるよー」


「ディブ、タクラじゃないタ・カ・ラやで。リピートアフターミー、タカラ」


 皆が気を使って声をかけてくれるのがあり難くて、申し訳ない。そうだな、折角の日本シリーズだから楽しもう。


『打った。打球はレフトへ。伸びる飛距離は十分だ入るか切れるか?』


 来た……レフトポール際の打球……っ!


****

 三回表キャッチャー玉城の大飛球は惜しくもファウルとなりまして得点はありませんでしたコマンドー。対して二遊間のファインプレーもありましたパイレーツ。この勢いに乗って行けるでしょうか。打順は下位打線8番の平から始まります。


『三回の裏パイレーツの攻撃は8番 レフトフィルダー 平和志たいらかずし ナンバー57』


 四喜大学から入団いたしました、三年目の若手選手であります。今期ブレイクいたしまして、打率はわずかに3割に届かず.297ではありますが、小野さんこの人も足が速いんですよね。


「そうですね、一色緑だけが目立ってはいるんですが。走塁も上手いですしこれからが楽しみな選手ですね。ただ、足が速いんですが長打が少ないというところが、これからの課題になっていく選手ですね」


 小野さんも楽しみと仰る平ですが、初球は空振りでワンストライクとなっております。続けての2球目は……セーフティバントだ。面白いところに転がっている。サード横井素手で取って、ファーストへああっと送球がそれた。バッターランナー平ファーストのタッチをヘッドスライディングでかいくぐってセーフです。記録はサード横井の悪送球です。


「今の上手くタッチをかいくぐっての走塁も良かったですねぇ。送球がそれたところを素早く判断してのヘッドスライディングただ、怪我には注意してほしいですね。一歩間違えると大怪我になりますよ、このプレーは」


『9番 キャッチャー南場流 ナンバー2』


 先頭打者が出まして、9番選手兼任監督の南場が右バッターボックスに入ります。今日はスタメンでの出場です。その右バッターボックス南場ですが、早くもバントの構えそれに対して角道第1球を投げた。バットを引きます、ボールです。


「角道からそう何度も何度もチャンスを作るのは難しいですからここは確実に決めて行きたいですね」


 二回、三回と先頭打者を出しております角道苦しいピッチング2球目を投げた。一塁線へのバントは上手く転がした。角道がファーストへ送って、アウトです。ワンナウト二塁と変わります。


『1番 ショートストップ 一色緑』


 2巡目に入りますパイレーツ。打者は先頭に帰って一色緑です。先ほどはセカンド一色清との素晴らしい連携プレーがありました。ここは気持ちよく打席に入っているでしょう。対する角道と玉城のバッテリーはどう組み立てるか、第1球投げた。見逃してストライク。角道も負けていません153km/hのストレート。これにはバッターボックス一色緑も手が出ません。


「いい球ですね、ただコースが少し甘いので次は同じ球をなげたら対応してくるでしょうから注意が必要ですよ」


 ワンストライクとなりまして2球目を……打った打球はライトへあがっている抜けるか?ライト戸金ダイビングキャッチ!取っています。ランナーの平はタッチアップから三塁へ、戸金は強肩ですがこれは間に合いません。ツーアウト三塁と変わります。


『2番 ライトフィルダー 盃口正二』


 角道苦しいピッチングとなりました。ランナーを三塁に背負っての投球セットポジションからの第1球は、空振りっ大きく曲がるカーブで空振りを取りました角道。今日初めて見せる球です。ただランナーを3塁に背負っているためかその先はないと、テンポを上げます第2球セットポジションから投げた。ファウル。インコース厳しいボールは右方向に切れて行きます。


『打球の行方には十分ご注意ください』


 2球で追い込みましたマウンド上角道ランナーを三塁に背負ってのピッチング3球目投げたっ。ここは外1球様子を見ますボールです。カウント1-2と変わりましての3球目、三塁ランナー平大きくリードを取ります。第4球目投げた。空振りぃ落としてきた。三振でスリーアウトチェンジ。三回裏パイレーツ、ランナー三塁にまで送りましたが無得点に終わりました。試合は0対0のまま四回の攻防へと入ります。

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