三回表 -Cheer team-
「お互い勝っても負けても今日が最後ですね。今日はよろしくおねがいします」
試合前ホーム側である俺たちのところへコマンドーの各応援団長たちが揃って挨拶に訪れる。シーズン中は交流戦の僅かな試合数しか顔を合わせないし、本拠地が遠い球団同士だから初めて見る人も居るのは各地の応援団が集結する日本シリーズ……それも第七戦ならではと言っていいだろうなぁ。
たまにスタンドへお邪魔することがあるコマンドー東京応援団の三井さんが挨拶がおわって解散した後おれにこっそり話を持ちかけてくる。
「近いウチに飲みに行きたいなぁ、今日はむりやけどどう?」
「んー、どっちが勝つかによっても時間が読めなくなっちゃいますしウチはホームですからねぇ。負けたとしてもシーズン締めとかあるんで、また連絡しますよ」
挨拶が終われば、準備に追われることになる。応援旗の準備と、横断幕の設置は既に終わっているが、球団や警備側と試合開始前のイベント・タイムテーブルの打ち合わせ、日本シリーズ中のスタメン発表はシーズン中と違って15分早い。
他の団体とのリーダーの割り振りや、配置も調整をしなければいけない。準備が整っても、責任者は忙しく駆けずり回らなければいけなかった。
「ただでさえ忙しいのにこのタイミングでマスコットを連れてくるのはやめてくれよ……」
スタメン発表20分前に雑事を済ませ、トイレに寄った後席に戻ろうとすると
何とか隙間を縫うようにしてスタンド側に出ようとしたが、バルビーに抱き止められて髭を擦り付けられた。
「バルビー御免、忙しいからちょっと離して……」
いいなーと合唱する子どもたちだけど、ほんと忙しいから勘弁して。っていうか眞島さんもわかってるなら笑ってないで止めてくれたら……あ、この人がけしかけてるわ。
「伊東さん遅かったやん。ミーティング先に始めようかと思ってたわ」
「ごめん、バルビーに捕まってた……」
またか、とみんな口々に言いながらもミーティングを進めていく。自分たちは2,5,8回にリーダーが回ってくるためその担当も当てなければいけなかったけれど、関西から来た住友さんと鴻池さんが割り振りをしておいてくれた。
「みんなまた、って言ってたけどバルビーによく捕まるんか?」
「担当の眞鍋さんに気に入られたみたいでね、いっつもけしかけられる」
「まぁ、まだバルビーなだけええやんか。こいつ今年の交流戦でメイトリックスに捕まったからな」
住友さんが鴻池さんを指さして笑っている。メイトリックスはガレックスの非公式マスコットで、名前がまんまのあの映画をモチーフにした筋肉粒々のマスコットだ。
「あいつ、普通のマスコットと違って表面かったいねん。っていうか非公式なら相手のスタンドにわざわざ乗り込んでくるな!」
『お待たせいたしました。ハチヨープレゼンツ日本シリーズ第七戦スターティングライナップ並びにアンパイアをお知らせします……まずは先攻の神戸ガレックスコマンドー……』
「よし、始まったな。気合入れていこうか」
****
二回裏を終えて両者無得点ですが、コマンドー玉城のナイスプレーも飛び出し、非常にいい試合となってまいりました。日本シリーズ第7戦。LBCスーパーナイター解説は小野柳道さんをお迎えし、実況は鹿島紅一でお送りしております。小野さんここまでまだ試合は序盤ですが、どうご覧になられますか?
「えぇ、両者無得点でヒットはまだ一本も出てません。投手戦となると地力のあるコマンドー……いや、角道のほうが有利でしょう。ただ偵察メンバーを使っている分だけ野手が一人少ないですからね。総力戦となるとベンチの差でパイレーツにもまだまだチャンスはあります」
なるほど、ありがとうございます。では三回表の攻防に入っていきます。
『三回の表コマンドーの攻撃は 7番レフト 香田
ピンチを超えた後のコマンドー先頭は7番の香田から始まります。マウンド上の東風とは高校時代の先輩後輩であります。今年14年目のベテランですが、今期はスタートが出遅れて6月に始めて一軍登録されました。規定打席にこそ到達していませんが打率.313と好調です。その上でこの打順というのはこのシリーズ調子を落としていることが原因でしょうか?マウンド上の東風今振りかぶって投げた、ストライクッ。
ど真ん中のストレートでした。
「いやー今のはかなり甘い球ですね。見逃した香田も悔しそうです」
テンポ良く投げます東風ワインドアップモーションからの2球目。これは3塁線切れてファールとなります。コースはほぼ変わらず、今のはチェンジアップでしょうか。2球で追い込みました、マウンド上の東風次の球は何を選択するでしょうか。キャッチャー南場サイン交換を終えまして、第3球目となります見逃してボール。高目の釣り球はなんと151km/hのストレート東風今シーズン最速をさらに更新いたします。
「過去の彼の中でも最速じゃないでしょうか?その分すこし制球しきれず浮いてしまったと言うところでしょう」
カウントは1-2と変わりましての4球目ここで勝負を決めてくるか。インコースの球わずかに外れてボール。また151km/hが出ました。回を重ねるごとに球速がだんだん増してきていると言ったところですマウンド上の東風。またも短いサイン交換が終わりまして振りかぶります。ピッチャー返しは取れない!東風の脇を抜けて打球はセンター方向へセカンド一色清良く追いついたが、これはっアウトォ!グラブトスからショート一色緑がバックアップ。素早い送球でバッターをアウトにしました。
素晴らしいプレーが出ましたパイレーツ!これにはピッチャー東風も帽子を取って二人に一礼をします。プロ野球最強の兄弟二遊間今日も魅せてくれます。
「今のプレー清も良く横っ飛びでとめましたが、そこを素手で取ってからの緑の送球も早いですね。これグラブで受けてたら間に合ってませんよ。まさにスーパープレーです」
『8番 セカンド 矢倉貴志 背番号25』
ワンナウトと変わりまして、8番の矢倉が左バッターボックスに入ります。ルーキーイヤーながら開幕から一軍登録をされて、途中抹消されることもありましたが、シーズンをほぼ通して打率.281とまずまずの成績。ルーキーながらその守備範囲が非常に広く、新人王の他ゴールデングラブの候補にもあがっています。
「すこし前に、フェニックスの野木監督が仰ってたんですが。ある選手は守備だけで飯が食えるって表現をしていたんですが、まさにこの矢倉の守備もそう言われるのに値するところがある選手ですね」
なるほど、小野さんも現役時代は守備で鳴らした選手ですからねぇ、やはり彼は小野さんの好みの選手といったところですか?
「私が現役のときにはもっとすごい選手がいましたからね。ポジションもリーグも一緒で、ゴールデングラブなんかは一回しか取れてないですよですけれど、確かに私の好みの選手ですね彼は」
迎え撃ちますパイレーツベテランの東風振りかぶって第1球を投げたっ見逃してこれはストライク。インローにゆるい球入れてきました。先ほどのストレート攻めとは言って変わっての1球となりまして。2球目は高目ストレート! 空振りでツーストライクとなります。
見逃せばボールというところでありますが、ぽんぽんと2球を投げて早くも追い込みました。第3球目をなげたっ。空振りっ! 3球勝負で来ました東風最後は縦に大きく曲がるカーブ……ドロップでしょうか?非常に激しい落差のボールに当てる事が出来ませんでした。
『9番キャッチャー 玉城
ツーアウトランナーなしから先程いいプレーを見せました玉城がバッターボックスに入ります。今期の成績では打率こそ低いものの高い盗塁阻止率と堅実なリードでチームを勝利に導いてきた司令塔であります。
「先ほどは先制を許さない見事なプレーでしたからね。ここでヒットが出ると彼自身も今日はノッていけるはずですし、なんとしてもと食らいついていくでしょう」
今日はここまでボール球が少なく非常に素晴らしい投球を続けて降ります東風。2球目です。これはストーレート低めに外れてボール球速は149km/hと出ました。この回ぐいぐいと押しいきます。3球目打った。高々と上がった打球はレフトへ! 伸びる飛距離は十分だが風がある。入るか切れるか?打球はそのままスタンドへ入ったが……ファウルです、が……駒場監督でますね。審判団も集まってきます。
レフトポール際の打球ですが、レフト線審の
『責任審判の渋井です。ただいまよりリプレイ検証を行います』
リプレイ検証となりました。この試合の責任審判は二塁塁審の
球審は日本シリーズ出場5回目で始めてのプレートアンパイア
三塁塁審は東日本審判部副部長の
『バッターは 9番 キャッチャー 玉城将』
カウント1-2での5球いや、失礼4球目からの再開です。さぁ間が空きましたが何を選択するか振りかぶって。投げたっ空振り!最後は落としてきました。この回あわやホームランという打球がありましたがコマンドー三者凡退です。
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