第6話 勝利の美酒にはまだ早い Part5

〈2122年 5月8日 11:33AM〉

―マルス―


「ぷはぁっ………」


 紫煙が雲一つない青空へ、ゆらゆらと上っていく。オレもこの紫煙の如く漂い、何処か遠くへ消え去ることが出来たなら――そんな叶わぬ望みを抱く若さを、オレはいつの間に失ってしまったのだろうか。


 世界防衛軍WG唯一の基地、その全30階建ての司令本部塔の屋上。ここから見える景色は格別だ。なんたってオレは今――全てを見下ろしているのだから。

 ここを中心として、北部は世界各国から集まった富裕層たちの邸宅が広がり、南部には商業施設が軒を連ねている。そして西部の巨大で厳めしいあの建物こそ国際秩序機関IOOの議場であり、東部には下部組織の施設がいくつも存在している。

 見上げれば渺茫たる空、地平線まで続く一碧万頃の海。あぁ、オレは今、まるで王様になった気分だ。この大陸を掌握し、その全てを恣にする権力を手に入れたかのよう――なんてね。現実のオレは、凡百の世界防衛軍WGの兵士に過ぎないわけだが。


「ふうっ………」


 しかし改めて一望してみても、この大陸アトランティスは不思議な所だなと感じる。

 オレが立つこの大地は――大陸であって大陸ではない。もしも本物の大陸を六大陸にのみ限定するなら、ここは紛い物の大陸であり、ただの人工島に過ぎないということになる。しかし反対に、大陸を「水域により切り離された、充分な広さがあり、連続的で、独立していると認識される陸地」とでも定義するのなら、ここは正真正銘本物の大陸と言うことが出来るであろう。

 未だ“本物か、それとも紛い物か”論争は続いているが、そんなことはオレの関知するところではない。反対に世界防衛軍オレたち国際秩序機関うえ、そして全世界の人々にとって一般常識とされているほど重要なことと言えば――この大陸は60年前までは存在しなかったということである。


 アトランティスを手に入れる前までの国際秩序機関IOOの本部はハワイに置かれていた。当時の議会は穏健派で構成されていて、設立理念に則り各国の共同のもとで運営がなされていたそうだ。

 しかし――2050年頃から議会は暴走を始めた。何を思ったのか連中は「国際秩序機関自分たち固有の領域獲得を目指す」構想を抱き始めたのだ。

 そして間もなくして、太平洋上のほぼど真ん中に、アトランティスと名のついた人口大陸の建設が開始された。恐ろしいことに、費用については一切問題がなかったらしい。


 だからといって何も問題がなかったかと言えばそうではない。彼らが直面したのは、環境保護団体と各国政府による抗議と非難であった。

 当然と言えば当然の話だ。海という生態系の楽園にバカでかい人工物なんかが出来た日には、楽園が失楽園に変わり果ててしまうことは明々白々。

 それに、各国政府も理解していたのだろう。国際秩序機関IOOという特殊な権力を持つ機関が独自の領域を持つような事になれば、何れ取り返しのつかない事態になるということを。


 しかし、幸か不幸か……今、オレはこうして人工大陸の上に立っている。いったいどうして四面楚歌たる状況を打ち破り、アトランティスは完成したのか?その答えは――国際秩序機関IOO及びその下部組織である世界防衛軍WGが保有する武力が、地球を滅ぼすことが出来るレベルであったからだ。


 今や世界史で超重要暗記項目となっているであろう、2050年のエディンバラ核根絶会議。かねてより国際秩序機関IOOは核抑止に懐疑的で、世界から核を消し去ることを組織目標の一つにしていた。そしてその年、ついに国際秩序機関IOOは全世界に対し、「核兵器の廃棄」を求める声明を発表。これに馬鹿正直な平和を希求する国々が賛同し、エディンバラにおける会議において、「全ての国家は核兵器を放棄し、残存する核兵器は全て国際秩序機関IOOが世界の代表として処分する」ことが議決されてしまった。

 この時の核を、国際秩序機関IOOが素直に処分したか――?そんなわけがない。それでも最初は「何れ処分する」方針だったそうだが……きっと絶大な力をみすみす捨てたくはなかったんだろうな。いつの間にか「核を有効活用する」ということが、議員たちの間で暗黙の了解となっていたそうだ。


 畢竟するに、世界で唯一核を保有する組織となった国際秩序機関IOO。そこに真っ向から立ち向かう気概のある国はいない。況んやただの環境保護団体程度などが国際秩序機関IOOと事を構えなんて無謀な話だ。一度国際秩序機関IOOを怒らせれば、核の雨が降らされるかもしれないのだから。

 こうして国際秩序機関IOOはアトランティスという独自の大陸を手に入れた。もはや国際秩序機関IOOは国家の上位概念となり、世界各国を核の脅威により服従させているのである。


 本当に馬鹿な話だ。国際秩序機関IOOも各国政府も。エディンバラ会議の際に「各国の責任のもと核を廃棄し、国際秩序機関IOOはそれを監視する」と議決してさえいれば、ここまで国際秩序機関IOOの権力が膨張することはなかったと言うのに。


 当然のことではあるが、力による統治は反感を呼んでいる。そう、確実に国際秩序機関IOOへの世界の信頼は落ち続けている。始まりはエディンバラ会議、第二にアトランティス建設、第三にイベリス内戦の失態、第四に異能力規制法の制定、そして直近だと星片の研究結果の秘匿。


 もはや当事者たち以外、誰も国際秩序機関IOOのことを「世界の秩序を維持する番人」だとは思っていないだろう。それ程までに国際秩序機関IOOは議会の意思に傾倒し、組織の凋落は歯止めが利かない所まで来てしまった。

 そこで議会は――組織の威信を賭け星片争奪戦に参戦、そして星片によって世界の秩序を取り戻すことを目論んだ。そして駒である世界防衛軍WGは争奪戦に駆り出され、見事に敗北を喫することになったというわけだな。


「――ここにいたのか、マルス」


 渋く深みのある声で背後から名前を呼ばれ、振り返ると――


「おお、英雄様。オレに何か用事かい?」


 そこにいたのは、軽妙洒脱な英国紳士。

 同じ軍服を着ていて、それに同い年だと言うのに、コイツとオレとでは男としての格が違いすぎる。

 まるで宝石の様に美麗なサファイアブルーの瞳。髪は淡い金髪でオールバック。口髭は彼の貫禄と威厳を一層引き立てている。そして顔に刻まれた無数の傷跡は、多くの苦難を乗り越えてきたこの男の生き様そのものである。


「英雄はよしてくれよ、マルス。私たちは竹馬の友じゃないか」


「だとしても、オレとオマエとでは全く立場が違うだろ――アドラス」


 コイツは、立ち居振る舞いそれに口跡も非常に洗練されている。若い連中は皆こいつに憧れ……そう言えば、コイツに握手をしてもらっただけで泣き出した女の子もいたっけな。

 まぁ、コイツはそんな高潔な紳士なわけだが……同時にコイツは、オレが世界で最も恐ろしいと感じる男でもある。なんたってこの男は――泥沼化したイベリス内戦を終結に導いた、あの英雄の片割れなのだから。


「マルス。キミに渡さなければいけないものがある」


 前置きをしつつ、アドラスがオレの隣までやって来て封筒を手渡してきた。なんだ、これ?中身は――


「うげっ」


 これ……一ヶ月前に行われた健康診断の結果じゃないか。あぁ、もう……とんでもないことになっているな。


「友人として君になんて声をかければ良いものか……」


 どこもかしこも“異常あり”の四文字で埋め尽くされている。中でも肺の所見が……なんだよ、「真っ黒です」って。


「うむ……まぁ、こんな結果でもオレはこうやって生きているしな。心配しないでくれよ、アドラス」


 そうは言ったものの……流石にアドラスに首を横に振られてしまう。


「心配するな、なんて無理な話さ。医師から聞いたけれど……君の肺はかなり限界に近いみたいだ。だから……そろそろ禁煙を始めた方が良いんじゃないかい?」


「そう言われても、オレは吸い続けるよ」


 なんと言われてもオレの意思は揺るがない。

 ここまで来たらもう遅いだろうから?それもある。だけれど一番の理由は――


「オレが喫煙を辞める時は、それはオレが死ぬ時だ。言っただろ、アドラス。オレは生きている限りはオマエと共に戦い続けると。そのためには……オレは異能力者として、喫煙を続けなければならないだろ?」


 オレの異能力は、紫煙を増幅させ毒性を付与する。そしてその発動には、喫煙は必要不可欠。

 どうだ、アドラス。こんなカッコいいことを言えば……いくらオマエでも反論出来ないだろ?


「確かにこれからも先も君と肩を並べて戦っていきたいと思ううけれど……それは普段喫煙をすることを肯定する理由にはなり得ないよね?」


 うぐっ……なかなか痛いところを突いてきやがる。


「だがなぁ、アドラス。依存症って言うのは、簡単に抜け出せるものじゃないんだよ。オレだって一度は禁煙を試みたさ。けれど……一日と持たなかった」


 アドラスは手摺りへと寄りかかる。


「肺がんで友人を亡くしたくはない」


「もしもオレが死んだらさ、アドラス。どうかオレの遺体を海にぶん投げてくれ。最後は大海に沈んでいきたいんだ」


 アドラスは首を横に振ってオレの発言を否定してくるが……こんなことを頼める友人はオマエぐらいしかいないんだよ。

 親族なんてとっくの昔にみんな他界しているし、友人と呼べた人間たちもイベリス内戦の時にことごとく失った。オレが信頼出来るのはオマエだけなんだよ、アドラス。


「ところで、マルス。君は先程まで総長に呼び出されていたようだけれど……やはり今回の一件かい?」


「ああ、その通りだ」


 今回の一件――それはもちろん、第一次星片争奪戦の不甲斐ない結果についてだ。


「総長は一般兵たちの損失はあまり気にしていなかった。だが……糾弾されたのは、レスペド大佐を筆頭とした異能力兵たちの壊滅だ」


 酷い話だ。一般兵、つまり非異能力者の兵士たちは彩奥市で何千人と死亡した。それなのに総長は、彼らの死に敬意の一つも払わない。彼の関心事は、戦力の心臓部分たる異能力者の兵士についてだけだ。


「生きて帰ってきたのは、オレとあの少女のみ。と言っても、あの娘に関しては……何者かにトラウマを植え付けられたようで、もう戦力にカウント出来ないだろうな」


 あの娘は帰りのヘリの中で、ずっとブツブツ何かを呟いていた。あの調子じゃ、無理矢理戦場に連れて行ったところでむしろ足手まといになるだろうな。いっそのこと、あの娘を解雇してあげた方が彼女のためになるんじゃないかな。


「生き残りの中でオレが最年長でかつ階級も高かった。故にオレが敗北の責任を追及されたわけだけれど……なんて答えるのが正解だったのかぁ」


「君のせいではないよ、マルス。誰の責任かと言えば……死者の事を悪く言うのも気が引けるけれど、やはりレスペド大佐かな。彼が上手く立ち回っていれば、私たちの勝利は堅かったはず」


 オレのせいじゃないと言ってくれただけで、大分気が楽になった。

 やはりオマエは、オレの唯一の味方だ。


「でもさ……そろそろあの癇癪持ちにへこへこするのも嫌になってきたよ。まったく、どうしてオレら異能力者が、椅子に深々と座っているだけの非異能力者に従わなければならないのだか」


「……今の世界では、私たちは少数だからね」


 それが答えなんだろうな。異能力者の人口は増加しているとは言え、それでも世界人口からすれば一割にも満たないのが現状だ。異能力者オレらはどう足掻こうがマイノリティーであり、いつだって秩序はマジョリティに優位な様に創られる。非異能力者と異能力者が殴り合えば勝つのは異能力者だろうが、それでも秩序を変えるほどの力を異能力者たちは持ち合わせていないのだ。


「なあ、アドラス」


 とまぁ、こんな重っ苦しい話をしていては気分が悪くなる。だからもう少し面白みのある話をしようじゃないか。


「レスペドを倒した異能力者の青年について、オマエに確かめたいことがある」


「確かめたいこと?実際に彼に会ったのは君の方だろ。私に確かめるというのは変な話じゃないかい?」


 然り。けれどな、アドラス。きっとオマエも――その名を聞けばピンと来るはずだ。


「Peace&Libertyって組織の方は、いくらオマエでも知らなかっただろう?」


「うん。情報機関のデータベースにも、その組織の名は存在していなかったようだね」


「けれど青年の方は……心当たりがあるはずだ。彼の名前は――グラウ・ファルケ」


「ファルケ……まさか!?」


 アドラス、望んでいた反応だよ。Falqueファルケという苗字はスペインに存在しているが、あの青年の顔立ちからしてスペイン系の血は流れていないはず。それで、他にファルケと聞いて思い浮かぶのは――Falkeしかないだろう。


「偶然……ということではないかい?」


「どうだろうな。だが、異能力に頼らない戦闘スタイル。武器は二丁拳銃。着ていたのは紺色のコート……それら全てを、偶然の二文字で片付けることが出来るか?」


 アドラスは顎に指を掛けて一考し――


「マルス……その青年に興味が湧いてきたよ」


 ニッと笑みを見せてきた。

 オマエが目を輝かせるなんて、珍しい。だが……それもそうだよな。


「レスペド大佐が亡き今、次の争奪戦はきっとオマエが指揮官に任命されるだろう。そしてきっとあの青年もまた、次の争奪戦に参戦するだろう。そうなれば、あの青年はオレたちの脅威になる。それを食い止めるのは――」


「ああ、私が相手を務めよう。そして私自ら見極めよう――そのグラウ・ファルケという青年が、彼女、英雄ユスティーツ・ファルケの意思を受け継いでいるか否かを」


 そう意気込むアドラスの瞳は――“英雄”となる以前、かつて“冥送者カロン”と呼ばれた男の激情の炎を点していた。



〈2122年 5月8日 1:07PM〉

―ポーラ―


「うぅ………」


 グレイズ様に謁見するというのに、これ程までに気が重いなんて……。


 もちろんグレイズ様とお話が出来ること自体は嬉しいと感じているわよ?でも……今回呼び出された理由は、争奪戦におけるアタシたちの失態についの叱責に決まっている。

 でも、覚悟を決めなくちゃっ!ドアをノックして――


「失礼します、グレイズ様!」


「うん。入って、ポーラ」


 間もなく扉の向こうから返ってきたのは――グレイズ様の鳳声。ああ、鼓膜が蕩けてしまいそうだわ!

 と、こんなところに突っ立って、グレイズ様をお待たせするわけにはいかない。扉を開いて、執務室の中へと入りましょう。


 そして真っ先にアタシの双眸に映ったのは、エグゼクティブチェアに座る麗しき御仁――グレイズ・セプラー様!

 ガーネットの様な暗赤色の瞳は美しすぎて……直視なんて出来ません!そして深緑を連想させる翠の髪はなんて綺麗なことか!お顔立ちは眉目秀麗!白のスーツが本当にお似合いです、グレイズ様!


「ポーラ、そこに座って」


「はっ、はい!」


 グレイズ様が指し示された通り、ロングテーブルを挟んで左側のソファに浅く座る。


「ポーラ、そんな萎縮しないで。どうか気楽にして」


「あっ、はい……」


 グレイズ様に気を遣わせてしまうなんて……アタシの馬鹿っ!ううぅ~~っ……黒く照り輝くテーブルに反射しているアタシの顔、今ものすっごく硬いわ。

 でも、自然体なんて無理なのよ。だって、あのグレイズ様の前なんだもの!


「ポーラ、今日キミを呼び出した理由は――」


「ぞっ、存じ上げています!失態については深く反省し、次は絶対に星片を手に入れて見せます!ですから、どうか……どうかテラ・ノヴァからの追放だけは………えっ?」


 グレイズ様が……微笑まれている?アタシ、また失言してしまったのかしら?


「ふふふっ、キミを呼んだのはそんな理由ではないよ。キミを責めるつもりなんて一切ない。むしろ、ポーラはよく頑張ってくれたよ」


「いっ、いえ!アタシは……」


「星片のことは確かに残念だけれど、それよりもキミが無事で帰ってきてくれたとの方が大切だよ」


 ぐっ、グレイズ様!?いっ、今……何と仰いましたかっ!!?


「他の子たちから聞いたよ。キミが世界防衛軍WGの紫煙の異能力者からみんなを守ってくれたそうじゃないか。流石だよ、ポーラ」


「グレイズ様……!」


 あぁ……ヤバいわ、嬉しすぎて昇天してしまいそう。だってアタシ、今――グレイズ様にべた褒めされている!


 けれど惜しいことをしたわね。今のお言葉を何回でも聞けるように、録音機材を持ち込んでおけば良かったわ。


「ポーラ、それで――」


「グレイズしゃまぁ……!」


「あの、ポーラ……いいかな?」


「あっ、はいっ、グレイズ様っ!!」


 いけない。恍惚となって涎が垂れてしまうところだったわ。


「キミに、頼みたいことがあるんだ」


「アタシに……ですか?えっと、ルノにではなく?」


 珍しいこともあるものね。グレイズ様が直接アタシに命令をくださるなんて。いつもならルノ伝いに命令が下されるのに……って、あれ?

 そう言えばルノがいないわね。この時間なら、いつもは執務室でグレイズ様の秘書を務めているはずなのに。

 あぁ、もしかしカフェにでも行っているのかしら?ルノ、あそこのコーヒーが大好きだものね。


「その通り。他の誰でもなく、ポーラに頼みたいんだ」


「えっ!?」


 他の誰でもなく、アタシに――本当にヤバいわ、心臓ものすごい速度でバクバク言っている。このままだとアタシ……グレイズ様の前で不整脈で倒れちゃう!だから、はぁ、ふぅ……落ち着くのよ、アタシ!!


「ポーラ――今日から、ボクの秘書を務めて欲しい」


「グレイズ様の秘書を……えっ?」


 グレイズ様のお言葉を疑ってしまう。だって、それは……現状ルノの役目だもの。

 それなのに、アタシを秘書にって――ついにアタシ、ルノを越えたということよね!!

 ほら、ルノ。ついにこの時が来たわよ。いつまでもアンタがグレイズ様の隣にいられると思ったら、大間違いなんだから!


 そうよ、ポーラ。グレイズ様の隣に立つに相応しいのはこのアタシなのよ――!


「引き受けて……くれるかな?」


「はい、もちろんです!」


 即答ですっ!

 アタシがグレイズ様の秘書――!これから毎日、グレイズ様の執務のお手伝い。グレイズ様のご尊顔を眺められて、グレイズ様と沢山お話をして――って、そんな不純な願望ばかりに浸ってはいられないわね。

 とても大切な役目。そして最高のチャンスなのよ。秘書として職務を誠実にこなし、グレイズ様にアタシをアピールする。そしていつかはグレイズ様と……でへへっ!やっぱりそういうことも期待せずにはいられないわ!


 ああ、今日はなんて良い日なのかしら!それこそ、夢じゃなかと思えるぐらいに!!


「それと、ポーラ。どうか落ち着いて聞いて欲しい」


 深刻そうな表情で……グレイズ様、いったいどうされたのです?

 こんな時は、グレイズ様の憂いを取り除くためにも、少しでも明るく振る舞わないと!


「はい!ポーラは、とても落ち着いています!!」


「それならば良かった。それじゃあ、コホン――」


 グレイズ様は咳払いをされ、アタシに真っ直ぐに目線を合わせてくださる。えへへ、照れちゃいますぅ……!


「ルノが……今日、テラ・ノヴァを辞めた」


「……えっ?」


 グレイズ様……?いったい、何を仰っているのです?

 あのルノが……悪い冗談、ですよね?そんなわけ、ありませんよね?

 だってアタシはルノの親友で、悩み事はいつだって共有していたのに。そんな大事なことをアタシに告げないで去って行くなんて……ルノがそんな事をするわけ――!


「ポーラ……」


「グレイズ…様……」


 悲痛なグレイズ様の面持ちには――もはやその疑いの余地など、残されてはいなかった。


※※※※※

小話 用語解説(?)~人工大陸アトランティス~


マルス:(これ、本来は青年たちの役割だよな?どうしてオレたちがやらなければならないんだ?)


アドラス:「どうしてオレたちが?」と思っているね、マルス?


マルス:おぉ、流石はアドラス。ご名答だ。


アドラス:私もそれが気になって、理由を聞いてきたのだけれど……「今回と次回はいつもの面々(?)の出番がないから、誰か代役が必要だった」とのことだそうだよ


マルス:それなら……天使ちゃんたちの方でも良かったと思うけれど?


アドラス:あちらは……ほら、ショッキングな出来事があったそうだからね。マルス、今回は私たちが務める他ないようだ


マルス:そうかい。と言っても……アトランティスのことは、オレの独白で十分語り尽くしたと思うが?


アドラス:確かに、現状・・公開可能な情報はそこまでだろうね


マルス:現状?


アドラス:っと、失言だったかな。でもさ、マルス。アトランティスの情報をおおっぴらに口外するのはあまり良くないだろ?


マルス:確かに、大半は機密情報だしな。しかし、アドラス。それならこの用語解説に意味はあるのかい?


アドラス:あるよ。今回話すように頼まれた内容は――アトランティスの由来だね


マルス:由来……それは、古代ギリシアの哲学者プラトンが『ティマイオス』及び『クリティアス』で記した伝説上の島及び帝国だな


アドラス:その通り。アトランティスはジブラルタル海峡のすぐ外側にあっととされているね(私たちのアトランティスは太平洋上だけれど)。帝国は資源豊かで、強い軍事力を有していた。けれど帝国は頽廃していき、最終的には神々の手によって海中に沈められ滅亡したみたいだね


マルス:不吉だねぇ


アドラス:ふふ、そういうマルスは相変わらず呑気だね。私たちの役割は、伝説上のアトランティスの二の舞にならないよう、この人工大陸アトランティスを守っていくことだ


マルス:これだけ核を保有しているオレたちを面と向かって襲ってくるような連中がいるとは思わないが?


アドラス:確かにそうだけれど、慢心ばかりはしていられないよ。それこそ――その青年が本当に彼女の後継者だと言うのなら……ね?

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