第6話 勝利の美酒にはまだ早い Part3
〈2122年 5月8日 3:12AM〉
―グラウ―
屋外は深夜の冷気が張り詰めていて、ジャケットを着ているのに少し肌寒いくらい。手を擦り合わせて暖を取るが……俺なんかよりよっぽど薄着をしているはずのネルケとソノミは、身震い一つせず平然と歩いている。俺が寒がりなのか、それとも二人が寒さに強いのか。
この通りは、通暁とまではいかないが、もう見慣れたものである。と言うのも針山商事への通勤の際、この通りを利用していたのだ。ここから右へ曲がったところには高校生に人気のアイスクリーム屋、さらに奥には小洒落た雑貨屋がある。そして俺たちが今通過した巨大な建物は、ボーリング場と室内プールの複合施設となっている。
しかし流石に遅い時間だけあって、通りを歩く人間は俺たち三人しかいない。朝や日中、夕方に人で溢れかえっているのを見慣れた俺にとって、今の通りはどこかもの寂しさを感じずにはいられない。
「ネルケ、本当に良かったのか?打ち上げの経費ぐらい俺が持つというのに」
サンジェリアで食事を終えた俺たちは、
俺は慌ててそれを下げさせようとしたのだが、ネルケに押し通されてしまい、結局全額彼女の奢りとなってしまった。だから、別れる前に彼女にお金を渡したいのだが――
「構わないわよ!だって、グラウとソノミのためだもの。あの程度の出費なんて、痛くも痒くもないわ!」
「ネルケ……あんた、やはり優しいんだな」
「えっへん!もっと褒めても良いわよ?わたし、これでも元令嬢なんだから!!」
腰に両手を当て、得意そうな顔をするネルケ。彼女の気持ちを無下には出来ないし、今回ばかりはネルケの厚意に甘えさせてもらうことにしようか。
それにしても……どうして
「私も元令嬢なのだがな……」
あぁ、そうだったな。ソノミも屋敷に住んでいたような階級の人間だったな。だから、同じ元令嬢として多少ネルケに負い目を感じているわけか。
しかし……令嬢か。なんだか羨ましい。その身体に流れる血が権力者の血だなんて。俺なんか娼婦の――って、悲観しても仕方ないか。出自なんて選べないし、後から変えることも出来ないのだから。
「さて、それじゃあ……ここでお別れね」
十字路に差し掛かったところ、ネルケが俺とソノミの前に歩み出た。そして彼女はクリーム色の靡かせながら振り返り、ニコリと屈託のない笑みを見せてきた。
そうだ。ネルケと俺たちは、これから別の道を進んでいく。俺たちの事務所までの帰路に、彼女はもう着いてきてはくれない。彼女はあくまで、第一次星片争奪戦の間だけの助っ人なのだから。
「お前がいなくなると……寂しくなるな」
「それはわたしもよ、ソノミ」
改めて考えてみても、やはりネルケ・ローテという人物は――神が創りたもうた最高傑作の女性であるとしか思えない。
瞳の色はアメジストの紫をして、小動物の様なくりっとした目をしている。睫毛は長く、眉毛は細い。鼻は小さくて形が良い。唇はピンク色をして、とても官能的な印象。そしてこれらのパーツが、“顔”という名のキャンバスに整然と配置されている。
髪はクリームの様な淡い黄色で、肩にかかるぐらいのセミロング。ロープ編みのハーフアップをしていて、その髪型が彼女の気品高さを確固たるものにしている。
彼女のスタイルの良さは、抜群としか評価することが出来ないだろ。豊満な双丘、くびれはきゅっとして、二つの半月はとても形が良い。さらにその体躯は非常にしなやかであり、腕や脚が程良く引き締まっている。
彼女が素晴らしいのは容姿だけではない。その澄んだ美声は鼓膜を慰撫するようで、漂わせる撫子の香りは鼻腔を蕩かす様にほの甘い。
彼女を讃える言葉は……“佳人”、“傾国”、“立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花”。しかしどんな美辞麗句を並べ立てたとしても、彼女の美貌の全てを語り尽くすことは出来ないだろう。
寡二少双たる美の持ち主、ネルケ・ローテ。況んや彼女には、欠点が何一つない――と言うことは、残念ながら有り得なかった。どうやら神は、その内面に関しては手を抜いてしまったようである。
彼女の天下無双の美貌をもってしても、その奇矯な思考・言動・行動が中和されることはない。絶大なる美を手にした代償に、彼女は慎ましさを失ってしまったようである。
そう、彼女は無防備……いや、俺に対して無防備が過ぎるのだ。出会って数秒で口づけを交わし、彼女の唇の前に人差し指を持っていけばしゃぶりつかれ、静寂の神社で彼女は俺に覆い被さってきた。果たして彼女は、俺が理性を保つためにどれだけ苦労をしてきたか理解しているのだろうか?いや、彼女ならむしろ……「保たなくていいのに!」とか言ってきそうだな。
「どうしたの、グラウ?わたしをジロジロと見て……あっ!わかったわ、グラウ!いわゆる……視姦ってやつね!!」
それ見たことか、このザマだ。わざとらしく自分を抱きしめ黄色い声を張る彼女に、俺は溜息を吐くことしか出来ない。
「天は二物を与えずと言うが、完璧な人間なんてこの世に存在しないんだな。ところで……ソノミ、俺を睨むのはやめてくれ」
禍々しい視線が俺の右の頬に突き刺さってくる。まったく……どうして俺に不満の矛先を向ける?ネルケが勝手に騒ぎ出しただけだからな?
「はぁ……で、ネルケ。あんたは日本にまだ残るのか?」
淀んだ空気をリフレッシュするため、新鮮な話題を投下する。
「そうね、二人より、ほんのちょっとだけ長く日本に残るわ。まだ……やり残していることがあるしね」
やり残しか……そうだな、俺も日本でやり残したことがたくさんある。
東京観光をしておきたかった。浅草で雷門を見たかったし、ソラマチでスカイツリーに上ってみたかった。
それと、お米を買えなかったことも名残惜しいな。コシヒカリ、あきたこまち、ササニシキ……日本三大ブランド米の全てとはいかなくとも、せめてその一つぐらいは買って帰りたかった。
あと、寿司や天ぷらを食べる機会がなかったのも心残りだ。寿司なら一応あっちでも食べることは出来るが、なんだかこれじゃない感がするんだよな。だから一度本場で味わってみたかったものだが……仕方ないか。
これを最初で最後の日本にはしたくないな……あぁ、良いことを思いついた。
「ソノミ、いつか……日本の観光案内を頼めるか?」
「いきなり何を言い出すんだ、お前」
怪訝な目を向けられても俺は続ける。
「一週間ぐらいは旅行をしないと、俺の気持ちが満たされそうにないんだ」
「………はぁ?」
「いいわね!その時はわたしも着いて行くわ!もちろんソノミも一緒にね!!」
「だから、はぁ?」
俺とネルケが将来の日本旅行の計画で盛り上がるが……自分の意思に関係なく俺たちに勝手にツアーガイドに任命されたソノミは、不機嫌そうに顔をしかめている。
でもさ、俺はもっと深く知りたいんだよ――ソノミがどんなところで育ったのかを。
「その旅に私が同伴するとは限らないが……でも、これが私とお前の今生の別れではない。そうだよな、ネルケ?」
ソノミがネルケに歩み寄って、徐にスマートフォンを取り出した。
「ええ、
そんなソノミの両手を握りしめて、ネルケが強く訴えかける。
「わかっている。だが、この私とグラウがいるんだ。お前は何も心配しなくて良い」
このボディバックの奥底にしまい込んだ紫色の結晶――星片。奇跡の欠片と呼ばれるそれのために、俺たちは多大な犠牲を払った。
大切な後輩を亡くし、この身に多くの傷が刻まれた。星片は正に、俺たちの血と涙の結晶なのだ。だから俺とソノミは、これを事務所へと持ち帰るという重大な責任を絶対に果たさなければならない。
「ええ、そうね。二人ならきっと大丈夫よね」
ネルケがソノミを抱き寄せ――二人はハグをした。
なんとも微笑ましい光景だ。
「さてと……」
ソノミがネルケから離れたことで、今度は俺とネルケが向かい会う形になった。うむ……どう話を切り出したものか。
「ネルケ、正直俺は……最後に、あんたに何て声をかければ良いか逡巡している」
「それなら、『俺と結婚してください!』でいいと思うわよ?」
「………はぁ」
深く嘆息する。最後の最後まで、あんたは何も変らないんだな。
「ちょっと、何よその反応っ!むぅ~~~~っ!!」
餌を蓄えたリスのように頬を膨らませ、顔を赤らめる彼女もまた……とても愛らしい。
けれど、俺は……あんたに………。
「ネルケ……あんたの気持ちを今更疑うようなことはしない」
「当然ね!わたし――グラウのことが大好きだもの!!」
そのド直球の告白に――まるで心臓が矢で射貫かれたかの様にずきりずきりと痛みだす。
顔が熱い。そんなことを面と向かって言われて……俺はいったいどんな顔をすれば良い?
頭が沸騰しているようだ。俺には、わからないんだよ……どうしてあんたが、こんなにも優しくしてくれるのかが!
「しっ、しかしだっ!」
それでも、俺は伝えなくてはならない。今の俺の気持ちを
全ては――彼女のために。
「俺があの日……あんたのことを結果として救ったことの恩として、あんたが俺に好意を寄せてくれているというのなら……もう良い、もう良いんだ。たった一日でも、あんたみたいな高嶺の花に好かれて、俺は十分満足だ。とても……良い経験だった、俺には余るくらいにな。だからもう――俺に縛られなくて良い。あんたは、誰を好きになっても構わないんだよ!」
これが俺の包み隠さぬ本当の気持ちだ。
ダメだ、ネルケ。俺はあんたに釣り合う男ではない。俺の様な外道が、
あんたにはもっと相応しい男がいるはずだ。だからあんたは――俺という名の束縛から解き放たれて良いんだよ!
「そう、それなら――」
ふわりと優しい風が頬を撫でた。そして撫子の香りがより一層濃く感じらるようになって――
「ちゅっ」
「―――――――――んんんっ!!?」
ふと気が付いた時――彼女のピンク色の唇が、俺の唇へと重ねられていた……って、はぁっ!?
「ちゅっ……うんっ……んちゅっ………」
「なっ、何をしているんだ、お前らっッ!!」
さらに俺の口腔内にぬるりと侵入してきたのは――彼女の舌。柔らかで、生ぬるくて、湿っぽくて……いっ、いや、そんなことを意識している場合ではない!今すぐ彼女をどうにかしなくてはっ!!
しかし――はっ、離れない!俺の腰に抱きついてきたネルケの腕の力が凄まじ過ぎて、彼女の抱擁から抜け出すことが出来ない!!
「じゅる……れろっ…くちゅっ……」
ネルケの舌で、俺の歯列が丁寧になぞられていく。そして今度は蛇と蛇が絡み合うように、俺の舌に彼女の舌が巻き付いてくる――俺の舌が彼女の舌によって、ゆっくりゆっくりと撫で回される。
彼女の唾液と俺の唾液とが混ざり合う。彼女の匂いが、俺の口の中に充満していく。
熱に浮かされ、口どころか鼻ですら呼吸が出来ない。俺の理性が何処までも融解していく――
「ぷはぁっ……うん!!」
「はぁっ、はぁっ……『うん!!』じゃないだろっ!俺を窒息死させるつもりか?」
ようやく彼女が俺を離してくれる頃には、既に一分近く時間が経過していた。
乱れた呼吸を落ち着けるために、俺の身体は必死に酸素を求める。
「でも、幸せじゃない?ディープなキスをしたまま死ぬなんて」
ネルケと繋がったまま死ぬ……それはそれで悪く――いや、悪いに決まっている!間抜けな死に方の殿堂、ダーウィン賞にノミネートしてしまう。
未だに唇に、口腔内に、彼女の余熱が残っている。ああ、もう……
「でも、これでわかったでしょう?」
「あんたがふしだら娘であることがか?」
「違うわよ、もうっ!誰を好きになっても構わないのなら、あなたを好きになっても構わないでしょう?」
「いや、それは……」
俺が伝えたかったのは、「俺以外を選ぶべきだと」いうことであって……。
「グラウ。わたしに相応しいのは二つの匂いだけ――
「……どういう意味だ?」
「わたしを満足させられるのは、あなただけなのよ、グラウ。わたしはあなたの優しさが好き、戦う姿が好き、横顔が好き、声が好き――」
「小っ恥ずかしいからやめてはくれないか?」
「そう?わたしはいくらでもあなたの好きな所が言える。そのくらい、わたしはあなたのことが好き、いいえ、大好きなのよ!」
面映ゆいなんて次元は既に通り超している。穴があったら一目散に入りたい。
いっそのこと、ソノミの鬼の面を借りて顔を隠したい。だって今、俺……きっと、だらしない顔をしているに違いないから。
「グラウ――あなたのことを愛しているわ。世界で一番、あなたのことを愛している!!」
「――っ!」
「だから……聞かせてちょうだい。あなたの答えを」
ネルケが何処までも真っ直ぐで純粋な瞳で俺を見つめてくる。
ここまでのらりくらりと躱し続けてきたが、どうやら年貢の納め時が来てしまったらしい。俺にはもう逃げ場はないようだ。彼女の気持ちに、俺は正面から向き合わなければならない。
その答えなど……考えるまでもない。けれど、俺には――誓約があるんだ。
すまない……ネルケ。
「えっと……こほん。保留に出来ないか?」
俺の言葉を聞いた瞬間、ネルケの表情が――カチンコチンに凍り付いた。
「……グラウ、ごめんなさい。今、なんて言ったのかしら?」
「保留だ。悪い、本件については先送りにさせて欲しい」
俺は気が付いた。ネルケが拳を握り、ぷるぷると震えていることに。
「グラウ。わたし、仏じゃないのよ?普段は温厚だけれど……怒る時は怒るわよ?」
「いや、その……非常に申し訳ないとは思っている。けれど、俺にも複雑な事情があってだな。今はお互いのため――えっ?」
「うふ、うふふふ、うふふふふっっ!」
今まで聞いたことないんだが、あんたのそんな笑い声!というか……もしかしなくても、キレてらっしゃる?
「グラウ……あなたの気持ちは十分わかったわ。でも、これだけは覚えておいて」
「なっ、なんだ?」
彼女は大きく息を吸い込んで――
「わたしだって必死に頑張ったのよ!あなたを誘惑するために、身を粉にしてきたというのに……わたし、これでも生娘なのよっ!!それなのにあなたは清純ぶって、わたしを“ふしだら娘”扱いして……この
「はっ、はぁっ!?」
その瞳に涙を湛えながら、全てをぶちまけてきた。
それは愛が重すぎる故に吐き出された、身の毛もよだつ
「ネルケ、落ち着いてくれ!俺も、自分自身のことを不甲斐ないとは思っているが……」
「言い訳なんて聞かないわよっ!こんな絶世の美女を保留……ううん、真っ向から振った最低のグラウさん♪」
ああ……完全にネルケの気を損ねてしまったようだ。勘弁してくれよ……不機嫌な女性の相手の仕方なんて、心得てはいないんだ。
「許してくれとは言わないが……減刑の余地はないのか?」
「うふふっ!その発言で、余計にあなたを滅茶苦茶にしてやりたくなったわ!!これ以上墓穴を掘りたくなかったら、もう何も言わないことね!」
取り付く島は……なさそうだな。
これでは……後腐れありの、最悪な別れじゃないか。
「――二人でお楽しみの所、横槍を入れて悪いが……今のは、完全にグラウが悪いな」
俺とネルケの剣呑極まったやり取りの傍観者が、俺に蔑みの目を向けてくる。
「俺の味方じゃないのか、ソノミ?」
いつもなら俺の味方をしてくれるのに、どうしてこんな時に限って……。
「腰抜け野郎」
「この意気地なしっ!」
「へたれ野郎」
「や~い、根性なしっ!」
怒濤の勢いで罵詈雑言が浴びせられるが何も言い返すことが出来ない。
でも、どうか許してくれ。俺にとってユスとの約束は、何よりも大事なことなんだよ……。
「あっ、もうこんな時間!名残惜しいけれど、もうばいばいしないとね!」
ネルケが思い出したように時計を確認したことで、ようやく罵倒の嵐が治まった。
けれど……もう散々だ。俺のガラスのハートは木っ端微塵。飛行機の中で年甲斐もなく枕を濡らしてしまいそうだぜ。
「ソノミ、グラウのことは任せたわ。こんな人でも、わたしの大好きな人であることに変わりはないから。あっ、それはソノミもおな――」
「こほんっ!わかっている、私がこいつを守る。絶対にな」
こんな人って酷くないか?それに……ソノミも?よくわからないが……それを考えるのは後回しだな。
ネルケが俺を向いて、ニコッと微笑んできた。きっとその笑顔の前には――月も恥じらい、咲いた花も閉じてしまうことだろう。
「グラウ。ソノミのことを――」
「任せておけ」
「敢えて言う必要もなかったわね。ねぇ、グラウ。きっとそう遠くない内に、わたしたちはまた会うことになるわ」
「予言でもするつもりか?」
「むしろ、願掛けに近いかしら。あぁ、それと……当然だけれど、会っていない間にも利息はどんどん貯まっていくから。一回や二回じゃ済まさないから、その覚悟はしておいてね?」
一回や二回の目的語が何かなんて……聞きたくもない。
「自己破産の準備でもしておくか」
「あら、わたしから逃げられると思う?わたし、ヤミ金なんかよりよっぽど怖いわよ?」
「その時はソノミに助けてもらおうか」
「お前達の痴話喧嘩に私を巻き込むなっ!」
それから三人揃ってクスクス笑い合った。こんな楽しい時間が、いつまでも続けば良いものだが――終わりが来てしまったようだ。
ネルケが振り返り、俺たちとは反対の方向へと歩み始めた。
「またな、ネルケ」
「達者でな」
「ええ、グラウ、ソノミ!」
ネルケは道を曲がり――彼女の姿は見えなくなってしまった。
「クソみたいな別れだったな、グラウ」
「本当だ。まぁ、俺たちらしいんじゃないか?」
「かもな」
彼女がこれから何処へ向かうのか、俺たちには見当もつかない。そもそも彼女が正式に所属している組織の名も、彼女が俺たちに手を貸してくれた理由も俺たちは知っていない。
けれど一つだけ確かなことは――俺たち三人は、きっとまた会えるということだ。
そうだよな、ネルケ?あんたの言うこと、信用しても良いんだよな?
「さて……俺たちも行くとするか、ソノミ」
「ああ。バスの発車時刻まであと十分もない。走るぞ、グラウ」
俺はこの24時間あんたと共に過ごしたことを、一生忘れることはないだろう。
撫子の香りで彩られた、心ときめくような淡い記憶たちを――
※※※※※
▽今回の小話はなんとなく本文形式でも書きました。なんとなくです、なんとなく……
小話 乙女る青鬼(実は前振り?)
〇本文形式
「AとBの50……あった。ここが俺たちの席だな」
私たちのスケジュールは過密を極めていた。バスで都心を目指し、地下鉄である程度距離を稼ぎ、そしてタクシーでラストスパートをかけて……飛行場に着いた頃には、出発時刻まで残り50分。さらに手続きを済ませようやく搭乗したのは、なんとゲート締め切り1分前。
まったくラウゼのやつ、もう少し余裕をもっスケジュールを組めないものか?私とグラウは、終始走り続けたんだからな!
しかし……ABCと三人がけだが、C席には誰もいないらしい。だからこれから12時間、ずっとグラウと二人っきり……!
「どうした、ソノミ?もしかして……俺と12時間も隣同士なのが耐えられないか?」
なっ、何を言い出すんだよ、お前っ!!
「そんなわけない!私は、むしろ――!」
「むしろ、なんだ?」
窓に反射した私の顔が、かぁ~~っと赤く染まっていく。
くそっ!とんだ失言をしてしまった。
「なっ、何でもない!今のは忘れろっッ!!」
「そっ、そうか……」
私があまりの剣幕をしてしまったせいか、グラウに少し引かれてしまったようだ。
「なぁ、私が奥でいいか?」
「ああ、構わない」
別に、私は空の景色を楽しみたくて窓側に座りたいわけではない。
でも、蒼の世界を眺めていないと――私、胸が張り裂けそうなんだ。
お前と一緒にいると、お前のことしか考えられなくなる。お前の隣だなんて、他事に集中出来る訳がない。
「どうせ俺、ずっと寝ているだろうしな。あっ、CAさんが来たら、お茶を頼んでくれるか?」
「あっ、あぁ……」
それなのにお前は……私のこの苦しさに、一切気が付いていないんだろ?この朴念仁が!
でも……本当はお前とたわいない話をして時間を過ごしたかったのにな。今なら、きっと前よりお前と会話を楽しむことが出来るはずなのに。
けれど、ふっ、悪いことばかりでもないか。お前の寝顔、この目に焼き付けてやるからな。
〇いつもの形式
グラウ:(飛行機に搭乗して)AとBの50……あった。ここが俺たちの席だな
ソノミ:(わかってはいたが、これから12時間グラウの隣に……)
グラウ:どうした、ソノミ?もしかして……俺なんかと12時間隣同士なのが耐えられないか?
ソノミ:そっ、そんなわけないっ!!むしろーー!
グラウ:むしろ、なんだ?
ソノミ:(顔がかぁーっと赤くなって)なっ、何でもない!今のは忘れろっッ!!
グラウ:(引き気味で)そっ、そうか
ソノミ:それと……奥が私。それでいいな?(今の私は……お前の顔が直視出来ないんだよ。だからせめて、外の風景を見て心を落ち着けないと)
グラウ:構わない。まぁ、どうせ大半は寝て過ごすことになるだろうし
ソノミ:そっ、そうか……(グラウとお話がしたい。でも、眠いというなら寝かせてやりたい。それに、寝顔も見れるなら……それもありかな)
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