第4話 人の心は目に見えず、彼の姿は…… Part2

〈2122年 5月7日 11:21AM 第一次星片争奪戦終了まで残り約13時間〉

―?―


「異能力者、異能力者、異能力者……」

「この世界を穢す存在、この世界を狂わせる存在、この世界を貶める存在……」

「見つけて、突き止め、探し出して……」


「「「殺すッッッ!!」」」


 三つの白いフードが闊歩する。

 異能力者大罪人を求めて練り歩く。

 右手には蝋燭。溶け出した高温の蝋が手に垂れることなど厭わない。心に燃える憎悪の灼熱に比べれば、それは生温いものでしかないから。

 左手には銀製のナイフ。その刃にはつい数刻前に切り刻んだ異能力者の血肉がこびり付いたまま。その不純なる血は全て主への供物となる。


「何処だ、何処だ、何処にいる……?」

「世界は我々人間のもの、異能力者は人間ではない、世界に仇なすは異能力者……」

「その全てを、この世に蔓延る者たちを、皆我々が……!」


「「「血祭りにッ!!」」」



〈2122年 5月7日 11:23AM 第一次星片争奪戦終了まで残り約13時間〉

―ゼン―


「ふははっっ!不気味っ、ていうか気持ち悪っ!!」


 フードの付いた白装束――見間違うものか。あいつらはデウス・ウルトの信者たちだ。

 いつだか夜中にぶらぶら歩いていた時にも見たことはあったけれど、あいつら本当に異能力者のことを嫌っているんだなぁ。でもわざわざそれを口にしながら歩くって、やっぱりあいつらの頭のネジは何本も抜け落ちているんじゃないか?


「くんくん、くんくん……こっ、これは………!」

「どうかされましたか?」

「あぁ、ああッ!アアアッ!!」


 先頭を歩いていた恰幅の良い奴がいきなり叫びだして……なんだ?

 ずう~っと目抜き通りを歩いていたと思えば、急に立ち止まって。何か見つけたのか?


「いっ、いい…いいい……異能力者の臭いだぁっ!!」

「なっ、なんと!?」

「先程浄化というのにかかわらず、未だ潜伏していたというのですか!!ぐうっ…なんとも憎たらしいッ!!」


 異能力者の匂いだ?はぁ?そんなもの、あるわけ――


「あっ、ああ……あそこですッ!!」


 あん?あそこって……例の恰幅良い奴――オレの方を指さしていないか?

 嘘だろ?ビルの物陰にいるから、あいつらのいる位置からはオレの居場所なんて見えないはずだし――そもそもオレは今異能力も使っているんだ。透明人間オレのことなんて見えるはずがない!

 けど、まさか……本当に嗅ぎ当てたとでも言うのか?

 いや、今日はグラウ先輩に言われたとおり、香水を付けてきてないんだぞ。だから、今のオレは無臭だと思うけど――


「いっ、いい忌まわしき……異能力者っ!」

「ああ、なんたることか…この世界の塵芥よ、一刻も早く姿を現しなさいッ!」

「聞こえているのでしょうッ!それとも我々からそちらに行って差し上げましょうか!?」


「………ふっ…はっ……はははははっっ!!」


 なんなんだよこいつら!!やっぱり気味が悪すぎる。虫酸が走るっ!!

 まさか異能力者が嫌いすぎて、異能力者が発する匂いがわかるようになった――?そんなことあるか!だいたい異能力者に共通する匂いなんてものがあるなら、とっくにどこかの研究機関が論文でも発表しているっての!

 だからきっとあの恰幅の良い男は――そういうことなんだろうね。


「姿が見えませんね……その手の異能力、ということでしょうか?」

「さっさとしなさい!いつまで待たせるのですかっ!」

「すんすん、すんすん……いや、臭いが濃くなっています!確実にあの異能力者は我々に接近している――皆さん、準備をッ!!」


 仰々しくナイフを構えちゃってさぁ……でも、もうこんなに近づいているっていうのに、オマエたちにはオレが何処にいるのかなんてわかるはずがない。

 五感から取得する情報の内、視覚の占める割合は8割以上。それが封じられているオマエらがどんな戦いをするのか――この俺に見せてみろよッ!


「………そこですねッ!!」


 おっと、危なく頬を抉り取られかけたぜ。なるほど、本当に匂いだけで本当にオレの位置を特定しているんだな。

 それでもさぁ――オレはお前らみたいな気持ち悪いヤツらには負けないって!

 まずは――そうだな、後ろの二人。オマエらから始末してやる。


「どりゃあッ!」


 はははっ!やっぱり匂いすら頼りに出来ないオマエらじゃ、闇雲にナイフを振り回すことしか出来ないよな――突き出されたナイフを持つ左腕を掴み、引き抜いたダガーをその関節に突き刺す!


「うぐッ!」


 ダガーを引き抜き、今度は無防備になった腹部を引き裂く。泉のように勢いよく血が噴き出し、白装束が赤に染まっていく――一人目終了。


「なっ、ななななな………!」


 戦慄する恰幅の良い信者。もう一人は――?


「おっ、おお恐ろしい異能力者!死になさいッ!!」


 背後から殺気――まっ、仲間がやられたことで、オレのだいたいの位置はわかったわけか。いいセンスしているよ。でも、オマエには用はない。

 しゃがみ、ダガーを逆手に持ち替えて――襲い来る信者の足を切る。


「ひグっ!」


 倒れ込んだところ、頸を目掛けてダガーを振り払い……ああ、嫌だな。返り血をもろに浴びちゃった。この服お気に入りなのに…でも、これで二人目も終了。

 さて、残るはオマエだけだ。


「ひっ、ひぃ………」


 途中から完全に戦意喪失していたな、オマエ。情けないヤロウだ。だってオマエは――


「次はオマエの番だ」


 背後に回り込み、左腕の前腕を信者の喉にあて締め上げていく。


「がはっ、うぐっ……」


 このまま締め上げていけば、脳への血流が止まり意識が失われる。最悪、死ぬかもしれない。流石にオマエもそんなことはわかっているよな?


「はっ…はなして……くれ………」


「ひひっ!いいぜ。ただし今からいくつか質問するから、ちゃんと答えろよ?」


「わっ、わかった……はぁ、はぁ……」


 オマエは直ぐには逝かせたりしない。聞きたいことがあるからな。


「だが……憎き異能力者に教えることなど何も――」


「いいや、違うね。オマエさ――異能力者だろ?そんでもって異能力は……嗅覚が異常なまでに敏感。違うか?」


「なっ……!」


 イエスとは言わなかったが、反応を見ればオレの予想が正しかったのだと推し量れる。だって透明化の異能力を見破れるのなんて、何らかの異能力以外じゃ説明つかないよなぁ。


「オマエらってさぁ、異能力者をぶっ殺すことを至上命題にしているんだろ?それなのに教祖とか……それこそオマエとか、組織の中に異能力者が属している。明々白々に矛盾しているよなぁ?そこのところどうなんだよ?」


「……………」


「…黙りか」


 なにか隠しているようだが……こいつ、口を割りそうにないか。

 それなら仕方ない。答えが近くにあるというのに、それを知ることが出来ないなんてじれったい。だから――


「じゃあさ……オマエらのアジトを教えろよ。争奪戦にそれなりの人数で来たってことは、一応拠点みたいなものは存在しているんだろ?」


「はぁっ!?貴様、いったい何を宣って……!いいえ、貴様のような大罪人は、今すぐ大司祭様に裁かれるべきなのかもしれないな」


 オレが大罪人……?はっ!うけるわ、それっ!!異能力者を見つけては殺している連中が自分たちのことは棚にあげて何を言っているんだこいつ。まっ、頼まれれば誰でも殺すオレが言えたことでもないんだけれどね。


 でも、興味がそそられるキーワードが出た。“大司祭”ね。宗教の位ってものはよくわかんないけど、大司祭なんて言うんだからきっと偉いヤツなんだろうな。

 だから、きっとソイツを倒したら――!


「御託はいいから、場所を教えてくんない?」


「………ここからさらに南へ向かったところ、小さな教会がある。この私がオマエを直に大司祭様の元へ連れて行ってやろう」


 わざわざ道案内をしてくれるのか。なかなか気が利くじゃん――!


「――なんて、思うわけないだろッッ!」


 空いていた右手でダガーを引き抜き、その後頭部へと振り下ろす――これでもう、湿り気の多い、気色の悪い声が聞こえてくることはなくなったな。


「地図はあるんだよ。だから場所さえわかれば、あとは一人で行ける。悪いがオレは、オマエらみたいないけ好かないヤツらを、一分一秒と生きながらえさせておきことが我慢ならないんでねぇッッ!!」


 せっかく争奪戦なんていうバトルロワイヤルに来たっていうのに、ここまでずっと退屈だった。けれど、まさかこんな面白いことが見つかるなんて、オレはつくづく運が良い。

 その大司祭っていうやつを脅せば、きっとこの狂った宗教デウス・ウルトの秘密も知れる。それにその首を持ち帰れば、きっとグラウ先輩もオレのことを認めて……ふっ!


 今頃グラウ先輩はソノミ先輩を連れ帰っているだろうな。二人を心配する?そんなバカなことはしない。グラウ先輩もソノミ先輩も怪物みたいにタフだから、そんじょそこらの異能力者に二人が殺られるわけはない。

 だからこそオレはあの二人を――見返してやりたい。あの二人に、ギャフンと言わせてやりたい。ついでにあのめっちゃ美人な人も落としたいけれど……あの人はグラウ先輩にぞっこんすぎて、それは不可能かな。


 さぁ~てと、それじゃあさっそくこいつらの巣に行くとするかっ!!


※※※※※

小話 小話 世界観(設定)解説Part3~異能力者の登場と犯罪件数の変動~


グラウ:本当はそのPartに登場した人物で小話をやるつもりだったそうだが、今後の予定を考えていったところ、ここいたでこのネタをやらないと後が詰まるという結論に至ったそうだ。というわけで俺たち三人でお送りする


ソノミ:開幕メタいな


グラウ:よりメタメタなことを言うと、三人を中心に小話は先行して書いているそうだが、少し先になると四人でやっていくことになる(予言)そうだから、急ぎ三人でやった分は消化したい、ということらしい


ネルケ:三人……?四人……?


グラウ:気を取り直して――今回のテーマも少し難儀かもしれないがどうか勘弁して欲しい……なっ、ネルケ


ネルケ:えっ、わたし?


ソノミ:お前、世界観解説のPart1とPart2の時に「わかんなぁ~い!」ってぶりっ子していただろ


ネルケ:ぶりっ子じゃあません~~!本当にわかんなかっただけですぅ~~っ!!


グラウ:ネルケに構っていては時間が惜しい。早速始めていこう


ネルケ:ちょっと、今回のわたしの扱い酷くないかしらっっ?!


グラウ:今回のテーマだが、要は異能力者が出現してから世界の犯罪件数は変動したかどうか、ということだな


ソノミ:危険な異能力をもつ異能力者も多い。あまり“一般的に考えて”なんて言葉は使いたくないが……素直に考えれば増加したと思うが、違うか?


グラウ:それが――そうでもないんだな、これが


ネルケ:はいはい!その理由、わたしわかったわっ!


ソノミ:ほう?なら言ってみろよ


グラウ&ソノミ:(どうせ的外れな答えなんだろうけどな)


ネルケ:なんかものスッゴく心外なことを二人とも内心で思ってないかしら!?


ソノミ:テンポが悪くなるから早く答えろよ


ネルケ:くぬぬ……それはズバリ――“異能力規制法”があるから、でしょ?


グラウ&ソノミ:!?


グラウ:どうしてその答えに至ったのか、理由を聞こうか


ネルケ:とても単純なことでしょ?異能力規制法において、「異能力者が異能力を行使する」ことは全面的に禁じられている。そしてもし行使してしまった場合の罰則は、通常の犯罪以上に厳しく設定されている。そのため異能力犯罪は未然に防がれ、犯罪の件数は異能力者の登場により増加したわけではない……どう、違う?


グラウ:………完璧な解答だ。もう、俺が何も言うことはないくらいに


ネルケ:うふふ!スゴいでしょ!!わたしだって賢いんだから!!!ね、ソノミ?


ソノミ:くっ…何故こうも屈辱を感じなければならないのだ………


ネルケ:あの、ソノミ?いくらなんでもそんなに悔しがる必要はなくない?というか……そんなにわたし、アホの子みたいに思われていたのっ!?


ソノミ:……(ぷいっ)


ネルケ:ちょっと、ソノミ!答えてよ!!ねっ、グラウは違うわよね?


グラウ:(無言)


ネルケ:うぅ、二人揃ってわたしのことをバカにしてぇ!訴えてやる!!


グラウ&ソノミ:どうぞどうぞ

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