第39話

昨日はこっそりマリコさんと話した後、

帰るとみちさんは夕飯を作って待っていてくれた。


そして、久々にみちさんからの

「おかえり」を聞いた。


夕飯の時、

みちさんは打ち合わせの話を色々聞きたがっていたので、僕は洸介から聞いている僅かな話と、

自分の知識を何とか引っ張りだしてきて

話した。


その話をみちさんはすごく嬉しそうに聞いていた。


「もうすぐ遠い人になっちゃうのかな。

でも、響太くんの音楽はずっと聴き続けるからね!」


「まだどうなるは、分からないけどね」


「それでも、ずっと応援するしてるよ?」


寂しさを隠すように伏し目がちになりながら、

笑顔を作るみちさんが僕は好きだった。


「…ありがとう」


僕はみちさんとマリコさんからの花が

本当に届くといいなと思った。


みちさんのことを好きな気持ちは

本当だけれど、

勿論そこには痛みも伴うけれど

それ以上に僕は2人が上手くいくことを

本気で願っている。


キレイ事だとしても、

これは本当だった。


だからこそ、

ちゃんと嘘をついて出ていく。


そんなことを思いながら、

昨日もみちさんにくっついて眠った。


そして、また朝が来て

みちさんを見送った。


「いってきます」


「いってらっしゃい」


カレンダーのバツはまた増えていく。


一緒に起きて、

朝食を食べて


「いってきます」と「いってらっしゃい」


夕飯を一緒に食べて

夜の散歩をして

一緒に眠ること。


つかの間のごく普通の生活。


ごく普通の恋人みたいな僕達の短い数日は

あっという間に過ぎ去った。


気がつけば、

カレンダーはバツで埋め尽くされていた。



そして、僕は明日この家から出ていく。


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