第33話

みちさんが食器を洗い出したので、

僕は仕方なく隣に立って食器を拭いた。


「響太くんのライブに行ったの、久しぶりだったの」


洗い物をしながら、

みちさんは話し始めた。


「まさか帰りに寄った居酒屋さんで、

遭遇出来るとは思っていなかったんだけどね。

本当に偶然だったんだよ。そこは疑わないでね?

何だかすぐに帰りたくなくて、初めて1人で居酒屋さんになんて入ったよ」


「帰りは本当は待ってた?」


「待ってた(笑)ただ響太くんは

てっきり誰かと帰ると思ってたから1人で歩き出したのにはビックリしたけど。これってひょっとしたら何か運命的なものなのかもって……完全にこじつけだけど」


「そして、家は近いって嘘ついて、襲わないって嘘ついて…」


「実は根に持ってる?」


「持ってる……(笑)

って嘘だけど。

でも猫を拾ったってひどくない?」


「そこ結構こだわるんだね(笑)」



いつの間にか、

普段通りの会話に戻っていた。


そして、みちさんは大きく息を吸って

深呼吸をした。


それから、震えそうな笑顔で


「分かったよ。私たちは1ヶ月の恋人!

あと3週間ちょっとの恋人!それまでは仲良くしようね」


と言った。


「…それがいいと思う。そして、みちさん約束して?」


「また?なあに?」


「俺が出ていったらマリコさんのところへ行って

気持ち伝えるって約束して?」


みちさんの笑顔は下を向いて見えなくなった。


「お互い傷つけない為にそうやってすれ違うのは

優しさなんかじゃない。残酷だよ」


「響太くんも…結構残酷だよ?」


「俺はみちさんを傷つける覚悟をしてた。

1ヶ月の恋人になった時から」


「……私も響太くん傷つけてる…よね?」


「それも覚悟済み」


「ははは。じゃあ私も覚悟決めなきゃね。マリコも傷つける覚悟を」


「誰かを傷つけずに生きていけたら幸せだけど、

誰かの人生に関わる以上は覚悟しなきゃダメなんじゃないかな。2人の事見てそう思った。

そして俺も今までその事に気付かなくて、何も考え無しに沢山人を傷つけて来たと思う」


みちさんの頭がこてんと、

僕の胸に寄りかかった。


「なんか響太くん、大人になっちゃった?」


「みちさんを好きになったから」


みちさんは少し笑ってから

僕に抱きついて泣いた。


「大丈夫。マリコさんもみちさんも傷つかないよ。2人でうまくやっていけるよ」


僕もみちさんのことを強く抱きしめた。



あと3週間ちょっとの僕の恋人を。











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