第32話
僕は泣いているみちさんの涙を無意識に触れていた。
その僕の手をみちさんが自分の頬に当てた。
「みちさん、好きだよ」
初めて口にした。
すると、下を向いていたみちさんが
驚いた様に僕を見た。
「だったら…」
「でもさ、俺マリコさんに勝てないよ。みちさんがマリコさんを想う気持ちにも。みちさんもわかっているんじゃないの?」
「……」
「確かにみちさんにとって、今の俺は特別かもしれない。マリコさんとずっと今の関係でいる為にも。マリコさんを解放してあげる為にも。でもさ、
お互いがお互いを想ってるのに離れなきゃいけない理由って何?」
みちさんは僕の手を自分の頬から離した。
そして、自分で自分の涙を拭いた。
「マリコはね…責任感じてるんだよ。目を覚まさなかった私に。死んでしまうかと思った私に。私たちはもう愛で繋がるには遅過ぎるの。正直、疲れてる。私がああなる前の2人に戻りたい。それだけなの」
みちさんの気持ちも納得出来る気もした。
確かにマリコさんの完璧なまでな愛は
形が違うものになっていて、
高校生の頃の2人の様に
何も屈託もなく笑っていた頃にはもう戻れないのだろうと。
「私はその後、マリコを解放したくて何度も恋人を作ったの。マリコを安心させたい一心で、好きでもない人と寝て惚気てみせたりもした。そんな事を繰り返していたら、ある日とても悲しそうに「もういいの、やめて」って言われちゃった。マリコには全部お見通しだったのね」
「その時、2人はお互いの気持ちを打ち明けようとしなかったの?」
「…多分。お互いにお互いを幸せに出来るのは自分じゃないって思っていたんじゃないかな。その後は私も無理するのはやめて男の人と無理して付き合わなくなったし、マリコは変わらず独りだった」
「でも、マリコさんは告白したって言ってたけど? 」
「ちょうど、響太くんと会う前くらいにね。
正直混乱した。私たちはずっと平行線の上を手を繋いで歩いていくと思っていたから」
「なんで?!なんでそこで素直にならなかったんだよ!!なんで猫なんて拾うんだよ!」
初めて僕は感情的になってしまった。
みちさんは驚いて、
それから少し経って笑った。
「響太くんは、私とマリコをそんなに思ってくれていたんだね。また響太くんの新しい顔が見れた」
そこからみちさんは食べ終えた朝食の片付けを始めた。
まだ今日は始まったばかりだった。
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