第31話

「パンケーキ美味しい!!響太くん何でも作れるんだね!」


「ヒモだったからね」


「じゃあ、私から質問!どうしてヒモだったのですか?」


みちさんは何だか楽しそうだった。


「成り行き?…かな」


「何人くらい?」


「4、5人くらい」


「ふうん、本当に素直に答えてくれるんだね」


コーヒーを飲みながら、

みちさんは聞きたいことが聞けたみたいで

満足気だった。


「じゃあ。もうひとついい?」


さっきとは少し表情が変わった。


「1ヶ月の恋人でしょ、私達。響太くんご丁寧に

カレンダーにバツ印までつけているし。あと…3週間ちょっとだよね?」


「そうだね」


僕はコーヒーを飲みながら、

何事もない風に答えた。


けれど、みちさんがかなり核心に迫ろうとしていることが分かって、実は少し驚いていた。


まさか、始まりから

この話だとは思わなかったし、

核心にふれるのは僕だと思っていたからだ。


「1ヶ月経ったらどうするの?」


みちさんは僕の目をちゃんと見ていた。


「俺は出て行くよ」


「出て行ったら、私達は恋人じゃなくなるの?

そもそも1ヶ月って意味は何?」


君にはマリコさんがいる。

愛し合っているのに

思えば思うほど

傷付けぬようにと踏み込めない2人に

僕と暮らそうが、

セックスしようが、

やっぱり2人は離れられないんだって、

お互いじゃなきゃダメなんだって、

その事に気付くためのに、

僕はここに存在しているんだよ。

本当はもう分かっているよね、みちさん。


みちさんのまっすぐな目を見ながら、

僕はそう言いたかった。


でも、言葉は出てこなかった。


「1ヶ月経ったら戻るってメンバーとの約束だから。これからRは忙しくなるし。女の子関係もしばらく禁止になるらしいし」


「じゃあ彼女がいる人はどうするの?隠すことだって出来るんじゃない?私だってしばらくは会えなくても我慢するよ?」


みちさんは何を言っているんだろう。

多分その時の僕はキョトンとした顔をしていたと思う。


「響太くんが好きって言ってくれなくても私大丈夫だし、ちゃんと帰ってくる場所がここだって、それさえ分かってたら平気だから、だから…1ヶ月だけなんて言わないで…お願い」


無意識に僕は溜息をついていた。


それをみちさんは「面倒な女と思われている」と

勘違いしたみたいで傷ついた表情で涙を浮かべていた。



「みちさん、今度は俺の番ね 。ちゃんと答えるルールだよ?」



既に泣いているみちさんが言葉には出来ずに、

無言で頷いた。


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