第29話

カレンダーにバツ印を書いて、

今日で1週間。


みちさんは「そんな事しないで」と言ったけれど、

僕には必要な事だった。

いや、きっと僕達には。


それでも、特に特別な事はせず

普通に過ごした。


みちさんは仕事に行き、

僕は昼間に作曲をする。


夜には2人で食事を作り食べる。


食事の時は大体、

みちさんのするマリコさんの話になった。

その日のマリコさんとの会話や仕事でのやりとり。


あの夜以来、みちさんは今までよりリラックス

して僕と接しているみたいだ。


きっとそれは、マリコさんの話の解禁の影響だと

思う。


今まで誰にも言えかったであろう話だから。


僕はその話を楽しく聞いた。

無理してではなく、本当に。


彼女達の関係性が今まで以上によく分かるので

興味もあった。


例えば、マリコさんが男性的でみちさんを守っているとばかり思っていたけれど、

そういう訳でもなく、

むしろ、みちさんがマリコさんを守っている様にも

思えた。


正直、意外だった。

けれど、2人がどれだけ思い合っているかが、よく分かる話だった。


僕は2人の結び付きを知ってもらう為に

ここに来たつもりだった。

それなのに。



「もし、僕とマリコさんが溺れていたらどっちを助ける?」


みちさんは食べていたサラダのフォークを置いて

少し考えた。


「響太くんを助ける」


そう、みちさんは言い切った。


「その後、沈んでしまったマリコと私も沈むわ」



僕は「そっか」としか言えなかった。



最初、意地悪な質問をしたと思った。

誰に?

それは僕にだった。


「僕も助けてくれなくていいから、

そのまま一緒に沈めたらいいのに」


勿論言えずに飲み込んだ言葉だった。



1ヶ月というのは、

思っていたより長いのかもしれない。


でも、これが僕の役目だった。

飲み込んだ言葉が、喉につかえていたとしても。





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