第26話

次の日。


僕が目を覚ますと

みちさんは仕事へ行く準備をしていた。


「あれ?仕事行くの?」


みちさんはドレッサーの鏡越しに


「当たり前でしょ。ヒモくんとは違うんだよ(笑)君は?行かなくていいの?」


僕は1ヶ月どこにも行かないつもりで

みちさんと過ごそうと思っていた。


みちさんが、

ベッドの僕の所まで来て腰をかけた。


「響太くん、手出して」


僕は訳も分からず言われるがまま

両手を出した。


すると、

みちさんは僕の両手にありもしない紐を結んだ真似をして、最後はリボン結びをする真似までした。


「何これ?」


「これから1ヶ月間、君は私のヒモです。

しーっかりと結んだからね」


本当は紐なんてないのに、

そんな真似をするみちさんが

愛おしかった。


そして、本当に紐で結んでくれたら

いいのに…なんてことまで不覚にも思ってしまった。


「じゃあ、仕事行ってくるね。ご飯は用意してあるから食べてね」


「いってらっしゃい」


みちさんが家を出るのを見送ると、

僕も自分のやるべき事を思い

洸介に電話をした。


「…はい」

10回のコール音の後、

明らかに寝起きの洸介が電話に出た。


「洸介、俺1ヶ月はそっちに戻れない」


「…お前何言ってんの?」


「ごめん。悪いと思ってる。でも俺にとって」


「ウ・ソ!そう言うと思ってたよ」


「なんで…だって俺まだ何も言ってない」


「期限は1ヶ月。10曲作ること!」


「は?」


「事務所とそういう話にしておいたから。

響太の事なんてお見通しなんだよ!」


「……」


「今、お前にとって何か大事な時なんだろ?

Rがこんな時にってのが正直参るけどさ」


「…うん」


「1ヶ月後、曲だけは忘れないように!

じゃあな」


そう言って電話は切れた。



ちゃらんぽらんに見える洸介は

僕よりずっと大人だ。

悔しいけれど。




僕のこの1ヶ月の心は決まっていた。


両手の見えない紐を見つめるように

手を上にかざした。



そうすると、リボン結びになっている真っ赤な紐が見える様な気がした。






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