第24話
僕の手に重ねたみちさんの手は温かくて
そこから何かが込み上げてくる様な感覚がした。
そして、その感覚に任せてキスをしようとした時
「マリコから何か聞いたの?」
みちさんはキスを拒むかの様に
言葉を発した。
「聞いたよ」
「どう思った?」
「マリコさんの愛はすごいって」
「そうね」
「ひょっとして、みちさんは全部覚えてる?」
「…」
その沈黙は肯定だった。
長い眠りから覚めた時、
マリコさんが恋人を作ったことだけを
すっぽり忘れていたと聞いていたけれど、
みちさんは本当は覚えていて嘘をついたのだ。
「それって、みちさんもマリコさんのことを?」
「そう…ね。私もマリコをずっと好きだった。
マリコもそうだと思っていた。けれど、確かめるには怖かった。そんな時マリコには恋人が出来たの。大袈裟だと思うかもしれないけれど、私には全てが終わった様な出来事だった…」
マリコさんはみちさんを思い、
みちさんはマリコさんを思いながらも
何も出来なかった…。
でも、2人は思い合っていた。
今も…?
僕の手から離れたみちさんは、
コーヒーをテーブルに運んだ。
「とりあえず座ろっか?」
さっきのみちさんの手から伝わって
僕の中で込み上げてくるような感覚は
静かに引いていった。
そして、久々にみちさんと向かい合って座った。
「みちさん、高校生の頃から俺の事、
知ってたって本当?」
「うん。実は響太くんは私の初恋なの。あの頃マリコとはずっと親友でいるべきなんじゃないかって思っていて。だから初めて異性で興味を持った響太くんをいつの間にか追ってた。響太くんは何にも執着していない感じがして自由で羨ましかった」
確かに僕は何にも執着していなかった気がする。
それが自由かどうかは別として。
「マリコさんとみちさんって、2人とも自分たちの気持ちについて話した事は無いの?」
「私のあの騒動以来、お互い余計に臆病になってしまっていて…私がマリコを不幸にしてしまうんじゃないかって怖くて」
お互いがお互いを思いやるが為に
すれ違っているなんて。
「だから、1ヶ月前に響太くんと強引にでも一緒になりたかった。私が響太くんと一緒にいれたら、全てが上手くいく気がして」
「…マリコさんを解放してあげたかったから?」
「ごめん…」
「でも、解放してあげられなかった?」
「…だって響太くんと私は思った以上に
何にもなれなかったでしょ?」
そう言って困った様にみちさんは俯いて笑った。
確かに僕達は初日以外は
家族みたいな友人みたいな間柄だった。
「…それならさ、これから1ヶ月
恋人として暮らしてみない?俺と。
それで変わるかもしれないよ。
マリコさんとの事」
みちさんは僕の目を見て、
真意を探している様だった。
「巻き込まれたって怒らないの?」
「怒らないよ。むしろ俺にとっても必要な1ヶ月な気がするから」
こうして、みちさんとの1ヶ月限定の恋人生活が始まった。
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